先の掲載からたぶん2年ほど後に、ありがたくいただいた2度目の原稿依頼。
これはもうPowerBook2400Cを手に入れた後。
イギリスロケのとき毎朝早起きをして書いていた記憶がある。
そしてイギリスから、ピ〜〜〜ヒョロロロ〜〜〜と、電子メールで入稿するという当時としては離れ業だった。
2度めにして僕の最後の雑誌への原稿。(笑)

どんな課題で書いたのかはまったく忘れている。

 

これも前投稿同様、図を挿入することを想定しているので文章だけではなんだかよくわからないところも多々ある。

何ら手を加えてないままの、生々しい原稿です。 

 

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「うちの機材は全部壊れてますから。」

 

ロケの前日、機材準備に行って、こう言われて戸惑わない人はいないであろう。

「はい?」声はうわずり、さすがの筆者も当時は戸惑うというよりもうろたえてしまった。

この仕事を始めて最初に他社の仕事を請け負ったときの、その会社の機材責任者の方の言葉である。

 

20年ほど前の若き石原少年?のあまりのうろたえように、

「壊れてはいないと思うけど、そのつもりでちゃんとチェックをしてくださいということですよ。」

と、機材責任者氏はその言葉の意味を教えてくれた。

 

この言葉のおかげで今の自分があると思っている。

 

よく、今度のロケは「るんるんのロケだね」とか言うが、

怠りのないチェックとぬかりのない準備があって初めて『楽しいロケ』に出かけることができる。

 

ということで、具体的な機材の種類やその使用方法というよりも、機材チェック及び機材準備、現場での機材管理の心がけについて今までの経験を元に筆者なりの考えを述べてみたい。

 

 

覚えておくべき基本画像

・  カラーバー画像・・・マスターモニター、波形モニター、ベクトルスコープ

・  きちんとホワイトバランスの取れた状態のグレースケール画像・・・マスターモニター、波形モニター、ベクトルスコープ

 

覚えておくべき基本画像として以上のものをあげたが、波形モニターの画像についてはこれは2H波形でこのほかにもいろいろな見方があって

2V、IRE、CHROMAなど切り替えながらマスターモニターの画像と見比べているうちに波形モニターの使い方、見方、がわかってくる。

 

長くやっていれば自然に覚えていくものではあるが、技術者として、モニターの画質調整用ボリュームつまみやスイッチの位置などに印をつけるようなことは恥ずかしくできるだけ避けられるよう、早いうちにこれらの画像を目に焼き付けておいてほしい。

 

計測機器とはいえ私たち撮影現場に携わる技術者が使用する機器は基本的にNTSC信号を監視するために作られているものなので接続等難しいことは何もなくただつなげれば見ることはできる。とは言え当然注意しなければならない点はいくつかある。

 

映像の入力と出力両方の端子がある機器については終端または75Ωというスイッチがあるはず。これのオン・オフを間違えるととんでもないことになる。

波形モニター、ベクトルスコープにはこのスイッチがないものが多く、この場合終端をONにするには75Ωの終端コネクターを出力側に取り付けることになる。

また、出力端子にコネクターをつなげば自動的に終端がオフになるものもあり、これらの機材の出力端子にコネクターをつなげただけでもう一方のコネクターをフリーにしておくと正常な画像は見ることができない。いわゆる終端がはずれている状態の映像になる。

 

先ほどの波形モニターの画像を覚えていればシンクあるいはバーストの幅が大きかったり小さかったり、ホワイトクリップのポイントがとんでもないところにあったりするのでミスにすぐ気づくはず。

接続に際して、モニター、波形モニター、ベクトルスコープこれらをどういった順序でつなぐとしても(図参照、図中モニター1,2,3がどのモニターに当てはまるとしても)、必ず最後になるものの終端をONにする。途中はすべてOFF。

我々が使っている限りでは接続によるロスはほとんど無視してどのような順序でつなげても大差はないので、終端コネクターを使わなくてもいいように終端できる機器を最後に持ってくれば楽である。

また、波形モニターにはいろいろ切り替えスイッチがついているが、つなぎ方が間違えてなければ「このスイッチどこにするんだっけ」などと言ってないでとにかく切り替えてみて先ほどの画像が出るようにすれば早くて簡単である。

 

ただ、先輩の技術者がチェックしているときや、編集室に入ったときなどに「ん〜、なかなかきれいな波形ですね」などと言いながらこっそりとスイッチの位置を確認し記憶することも忘れてはいけない。

 

マスターモニターあるいはピクチャーモニターは白黒信号を入力して、ちゃんと白黒になっているか色がのってないかのチェックをしておく。マスターモニターの場合は調整しやすいが、ピクチャーモニターの場合はなかなかやっかいなので、修理に出すほどでなければその色ののり具合を覚えておいてカラーにしたときにその分、自分の目と脳で補正してやるという荒業を使うこともある。

マスターモニターでもそうなのだが、ちゃんと調整したはずなのになんか赤っぽいとか青みがあるとか感じるものである。

ちなみに余談だが、筆者の場合、右目だけで見たときと左目だけで見たときでほんの少しだが色がちがって見える。

 

カメラのホワイトバランスを調整していて波形もベクトルも、いわゆる、サブキャリアのリークが最小の、ホワイトバランスが取れている状態、のはずがモニターでは赤っぽいとか青っぽいとかいうときは、このモニターを疑うべきだろう。

いくらボリュームを絞ってもモノクロになってくれないモニターもあるので、元々モノクロの信号を入力してチェックしておくことが有効である。

カメラのシェーディングを調整するときに気になるのがモニターの色むら。

波形モニターとの連携が必要なのは当たり前なのだが、やはり見た目のモニターの方が気になりこちらで調整したくなるものである。このときはマスターモニターのMONO/COLOR切り替えスイッチを切り替えながらカメラのシェーディング調整ボリュームを動かすと、モニターの中で色の固まりが動いている感じがするはずなので、これが動かないようにすることでシェーディングの調整ができる。

またグレースケールを撮影して、右上の白と左下の白、あるいは上と下のグレーがちがう、といった場合もモニターの色ずれなのかカメラのシェーディングなのか判断を間違えないように注意が必要だ。

 

カメラのファインダーに画はでているがモニターに画がでないときに一番あほらしい原因としてまずケーブルの断線。そしてカメラ側またはモニター側のコネクター不良。がある。これらも事前の準備でチェックできるはず。

ケーブルやコネクターのチェックはただつないでみて「よし映った、大丈夫だ!」ではなく、ある程度の力で引っ張ったりねじったりしてみることも必要である。

そして、ケーブルの不良が見つかったら修理する、新しいケーブルを作る。それくらいのことは早いうちに身につけておいて欲しい。

 

VTRのトラブルとして、ヘッド詰まりや結露、というのがよくあげられる。それがどんなもので、その対策は?という説明は他に譲るとして、取り扱いの注意は、他の機材同様「壊さなければ壊れない」ので普通に使っていればいいと言うことになる。これではあまりにも味気ないのでやや補足する。

先のヘッド詰まりや結露についても、トラブルは起こる前に予防する。これが一番で、どんな小さなトラブルでも起こってしまうと必ずスケジュールに影響が出る。

せっかくの「るんるんのロケ」が台無しである。

ヘッド詰まりは定期的に掃除をすることで防げるし、結露も起こりそうな場面は想定することができる。

また、海辺や砂漠などでは潮や砂が舞っているのでテープチェンジをするときは特に気をつける。

できればニューテープを入れて現場に行くようにしたい。

潮や砂が入って、それまでに収録してあったところまでだめになってしまうことも考えられる。

 

VTRの収録チェックは自己録再だけではなく他のVTRで再生してみる、或いは他のVTRで収録したものを再生してみる。また、長期のロケに出かける前の録再チェックは、ロケに持っていくテープを使う。そしてそのテープはロケの最後まで残しておく。そうすることによって、もしVTRにトラブルが起きたとき、そのテープを再生してみることで、少なくともVTRの再生系のトラブルかどうかは判断することができる。

VTRは因果な機材で、カメラやマイクのようにあちこち飛び回って積極的に撮影に参加するのとは違い、ひたすらみんなが送ってくる信号を待ち続け、受け取るだけで、カメラの後ろにくっついていてじっとカメラの動きについていく。そしてちょっと調子が悪いと「ナンだ、せっかくいい画とれたと思ったのに」と今にも足蹴にされそうな仕打ちを受ける。

 

野球に例えればせっかくサードが飛びついてとったのに送球を受け損なっては何もならない1塁手と同じで、守備率100%が要求される。VTRが正常に働かなければ他のスタッフや機材の働きはゼロになってしまう。

 

故障は天災だ
壊れるべくして壊れた、なぜだか分からないが壊れた。

壊れるべくして壊れたというのは、必ず外的要因があってのことで、何かしただろ、そんなことしたらだめに決ってるだろ、というような場合が多く、これに関してはそういうことをしなければいいだけで必ず防ぐことができる。そのために技術者はきちんと管理・監視をする。

どんな小さなものでも機材を落としたりぶつけたりというのはもってのほか。ぶつけたりしたら当然相手の方にも傷がつくわけで、それが高価なものであれば余計に双方とも痛手を負うことになる。

 

筆者の聞いた中で一番ひどいのが、カメラを車でひいた! という嘘のようなほんとうの話がある。まったくもって信じられない話しである。

「ものを落とさないためにはそれ以上落ちないところにおいておけばいい」、「倒れそうなものはそれ以上倒れないように倒しておけばよい」とは我が師匠の言葉だが、それを車でひいてしまったのでは・・・。

 

ヨーロッパロケに出かけて、100Vにしか対応していないバッテリーチャージャーやACアダプターを直接コンセントにつっこんで壊してしまう。

あるいは変換プラグをもっていかなかったといった話も良く聞いた。今ではほとんどのものがワールドタイプになっていて、電圧に関しては注意しなくてすむようになってはいるが出発前に確認するくらいは技術者の仕事として行うべきで、変換プラグがなければ使えないというのは今でも変わらない。

 なぜだかわからないが壊れたというのは、なぜだかわからない訳だからまったく厄介なもので。ICやらLSIやらの故障は現場の技術者には手のだしようがない。

「昨日まで大丈夫だったのに」「さっきまで使ってたのに」と言ったことが間々ある。

据え置きのカメラから突然煙が出てモニターの画が真っ白になって消えたというのもあり、モニターの画が突然横一本の線になったというのもあり、電源も入らずうんともすんとも言わなくなるときさえある。

なぜだかわからない以上防ぎようもないのだが、準備段階で何か変だな、嫌な感じがするな、と言った技術者にしかわからないような兆候を感じる時があるので、こういったときは特に念入りにチェックをする。ややオカルト的かもしれないが、これもやはり技術者がきちんと管理・監視をすることで防ぐことができると信じるしかない。

 

それでもなぜだか壊れたときは、以降の撮影をどうするのか、代替え機材を発注するのかこのままで何とかこなせる程度なのか、その判断をするのは技術者である。

逆に、よくもまあこんなハードな条件のロケに耐えたなあというのもあったりして、技術者の準備・調整・管理・監視に怠りがなければやはり 『故障は天災だ』と割り切るしかない。

 

冒頭の言葉の通り、壊れていることを前提にチェックをしないと、不具合を見逃してしまう。

「いつも使っているから大丈夫だろう」これが一番危ない。

「いつも使っているから今回そろそろヤバそうだ」と心してチェックをしてもらいたい。

 

そして、皆さん楽しいロケを!!

 

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などと偉そうなことを書いていたものである。

とは言えやはり、みなさま楽しいロケを!なのです。