崎木 陽
月明かりが照らす草むらから、コオロギの声が聞こえている。
その透き通った音に惹かれ、陽は縁側に出た。
黒く稜線を描く山の向こうには、円い月。
……寂しい、のだろうか?
この古民家を借り、一人で農業を始めてから、何年経っただろう。
毎日が忙しく、充実していたからか。
それとも、コオロギの声が儚く聞こえたからか。
ふと、そんなことを思った。
「涼しくなった、な」
昼間はまだ日差しも強く、少し動けば汗だくになっている。
それでも、着実に秋がやってきていた。
「ンニャァ、ンナ」
いつの間にか、同居猫の「コメ」が足元に座り、こちらを見上げている。
「コメは、優しいな」
柱にもたれて胡座をかくと、コメは膝に前足をちょこんと乗せてきた。
オヤツをせがむときの仕草だ。
陽は、その小さな頭をそっと撫でた。
フワフワとした手触りが、どこかぽっかりと空いていたように感じていた心を、そっと温めてくれる。
「……もうすぐ、稲刈りの時期だな」
「ニャ」
一人と一匹の短い会話。
それを包み込む、虫たちの合唱。
――ぴょん!
陽のすぐ目の前に、小さなアマガエルが草むらから飛び出してきた。
「う、……わ、わわわ! か、カエル!」
飛び退くと同時に立ち上がり、すぐさま障子を閉めた。
後には、ピシャリという音に驚いて身を低くしたコメと、我関せずとそこにじっと居座るアマガエルが取り残されていた。
崎木 陽プロフィール
32歳、独身。
身長178cm、体重67kg。
愛車は、年季の入った軽トラ。
親戚から古い家と田畑を借り、猫と暮らしている。
春から秋は田畑で作物を育て、冬は飲食店でアルバイトするという生活スタイル。
趣味は特にないが、強いて言うならジャズが好き。
土砂降りの雨が降る休日は、YouTubeで動画を眺めながら、ゴロゴロしていることが多い。
両親と兄家族は、少し離れたところにある実家で暮らしている。

