僕がAKBとなって
5日目の朝。
最終日。ついにこの日が来た。
僕は前田のベッドを見た。
すでに前田はいなかった。
結局、礼も別れもできなかった。
7時頃、僕は寮を
抜け出した。
博士ができるだけ
近くに来てほしいと
言ってたからだ。
さすがにAKBランドからは
簡単に抜け出せないと
思った僕は
この敷地内でできるだけ
博士の家に
近い所を目指し歩いた。
やっぱり寂しい。
メンバーにお別れも言いたい。
けど無意味なんだ。
彼女たちにとって僕は
知らない人だから。
そう思ったその時
後ろから足音が聞こえた
一つじゃない何十という
足音だ。
僕は慌てて振り向いた。
僕は目を疑った。
研究生を除く
ほぼ全てのメンバーが
そこにいたからだ。
なんと前田もそこにいた。
「どうして…」
僕がこう言うと
たかみなは答える。
「もう行くんでしょ?」
僕はとっさに前田を見る。
前田は私じゃない
というように
首を横にふった。
たかみなは続ける。
「あなた
ゆきりんじゃないんでしょ」
「え?」
「まだ関わりの少ない
研究生は気付かなかった
かもしれないけど
私たちはゆきりんの仲間
すぐに気付いたよ
ゆきりんじゃないって」
凄い。
そう思う僕の心を
察知したように前田は言う。
「凄いでしょう
これがアイドルグループ
AKB48よ」
アイドルグループ…。
「あなたが何故
こんなことをしているのかは
わからない。
けど、ゆきりんを助けようと
しているってのは
伝わってきた。
あなたが帰るってことは
もう大丈夫ってことだよね
ありがとう。
ゆきりんを助けてくれて」
たかみながそう言うと
メンバーは一斉に
頭を下げた。
「いえ、ただのファンとして
当たり前のことをしただけです
こちらこそ
ありがとうございます
……さようなら」
その瞬間。
体が軽く感じた。
もう戻ってしまうと
僕にはわかった。
そのことを感じたのか
彼女たちは顔を上げる。
僕は戻る前に一言。
凄く意味のある一言を。
「ありがとう“あっちゃん”」
僕がそう言うと
ゆきりんから僕の心が
飛び出した。






22時47分


今日は友達の家に
遊びにいきました



楽しかったです




ちなみに
明日もその家に遊びに行きます。笑





では



さんけけ。



楽しかった公演も終わり寮。
昨日とは違い
9時を過ぎても
前田は帰ってこなかった。
一言お礼を
言っておきたかったけど
仕方ない。
寝よう。
今日は疲れた。
でも疲れを感じないほど
楽しかった。
AKBとしての日々も
明日で最後か。
色々あったけど
本当に楽しかった。
僕はいつの間にか
眠っていた。
でも、目を覚ましたのは
朝ではなかった。
午前1時頃だろう
僕は物音で目を覚ました。
うっすら目を開けた。
前田だ。前田が居た。
今から寝るのかな
と思ったその時
前田は部屋の扉を開け
どこかへ向かった。
僕もそのあとを追いかける。
こんな時間にどこに
行くつもりだ。
あとを追いかけていると
レッスン場へと辿り着いた。
僕は少し扉を開け
中を覗いた。
そこには前田の他に
いつもレッスン中に
撮影をしている警備員もいた。
彼は前田にビデオを渡す。
「昨日の分と今日の分だよ」
「いつもありがとうございます
あと、昨日はすみません
ちょっと用事ができまして」
「僕に謝る必要はないよ
それにしても
毎日大変だねぇ」
「これぐらいしないと
申し訳ないんです」
「申し訳ない?」
「いつもアンチに負けず
私なんかを応援してくれる
ファンの方に申し訳ないんです
少しでも良いところを
見せないと」
前田……。
「それじゃソロの仕事を
減らしてレッスンに
参加するのはどう?
毎日こんなことしてたら
体がもたないよ」
「それはできません
私が頑張ることで
AKBの知名度が上がるなら
そのチャンスを捨てたくない」
「そうかい
それじゃあ
もう言わないよ
邪魔しちゃ悪いから
もう行くね」
「はい本当に
いつもありがとうございます」
警備員がこちらに
近付いてきたから
僕はすぐに部屋へと戻った。
前田は毎晩
1人で練習をしているのか。
前田はやる気がない訳じゃない
本当は誰よりもファン想いで
誰よりもメンバー想いで
誰よりもAKBのことを
考えている頑張り屋なんだ。
けど、その姿は
全然伝わらない。
アイツは不器用な奴なんだ。
美穂が何故
前田のファンになったのか
今ならわかるよ。
美穂は前田の
そういうところが
好きだったんだろ?
知ってたんだろ
前田がそういう奴だって。