小説「マラケシュで」第3章-1 | よろしくヨッちゃんのブログ

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第3章 「葛藤」

 

隆の写真集は少なからず反響を呼び、写真家としてステップを一段上がった印象がありました。

それに比例して、彼の仕事量が一気に増えていました。

 

隆は千恵子に対し大きな愛情と信頼を寄せていました。

 

隆は千恵子との出会いが自身の仕事と人生に大きく影響したことから、千恵子と共に暮らすことを望んでいました。

 

一方、千恵子は自分の夢が過去の結婚生活を蝕んでいったことから、隆と生活を共にすることに消去的でした。

千恵子は隆に過去の自分を重ねていました。

 

久しぶりに二人で過ごした日の静かな夜、千恵子の家のソファーに座り、隆は初めて千恵子に過去の結婚生活について尋ねました。

「千恵子、もし話してくれるなら、君の過去について教えてくれないか? 君の以前の結婚生活について知りたいと思っているんだ。」

 

千恵子は深いため息をつき、しばらく言葉を詰まらせました。

やがて彼女は優しく微笑んで言葉を紡ぎました。

 

「彼とは、私がまだ未熟だった頃に結ばれました。彼は私より3つ年上で、穏やかで真面目で、優秀なエンジニアでした。容姿も整っていて、まさに理想の夫だったと思う。」

 

彼女は遠い思い出に浸りつつ続けました。

「彼は、私の執筆家になるという夢を理解してくれて、応援もしてくれました。初めのうちは私の仕事もあまりなかったから、本当に仲の良い円満な生活が続いたわ。でも、私が忙しくなるにつれて、私たちの生活は次第に変わっていきました。お互いの夢と現実の違い、時間と共に刻まれる距離。それらが次第に私たちを引き裂いていったの。」

 

彼女の瞳には、遠い過去の出来事への深い思い入れが宿っていました。

「最終的には、お互いの成長と変化に対応することができず、離婚を選びました。彼は今でも私にとって尊敬すべき存在であり、ただ単に違った方向に進む必要があっただけなのです。」

「彼は真面目すぎるあまり、柔軟性を欠いていたのかもしれません。私も彼に甘えすぎていたのだと思うわ。そして、その違いが少しずつ溝を広げていったのです。」

 

隆は彼女の言葉に耳を傾け、続きを待ちます。

 

「結婚生活が続くうちに、私はますます自分自身を見失っていくような感覚に襲われました。夢を諦め、彼の理想に合わせることが幸せな結婚だとも考えました。でも、それが自分を苦しめる元凶にもなりました。」

 

彼女の瞳には、当時の葛藤がにじんでいるようでした。

「離婚は少なくとも私にとっては解放でした。そして、お互いにとって、新たな人生を歩むためのチャンスだったのです。でも、彼のことは今でも忘れられません。私たちはお互いに成長し、別々の道を歩むことで、それぞれが本当に求めていた幸せを見つけることができたと思っています。」

 

彼女の心には、結婚生活が過去に苦労と失敗をもたらしたという経験が鮮明に残っています。

そのことが、結果的に隆に、過去の自分のような苦しみを与えることを恐れていました。

そのため、隆と生活を共にすることには慎重な姿勢を崩しませんでした。

 

一方の隆は、千恵子との出会いが自身の仕事と人生に大きな影響を与えたことから、将来を共に過ごすことを望んでいました。

彼は千恵子の存在が、自身をより充実させ、魅力的な写真作品を生み出す原動力であると確信していました。

彼は生活を共にして、千恵子との絆をさらに深め、未来を共に築いていきたいと願っていました。

 

ただし、二人とも仕事が忙しく、それが今後の関係にどのような影響を及ぼすのかについて懸念を抱いていました。

特に、結婚後にすれ違いや課題が生じることについて、千恵子は心配していました。

長時間の仕事や出張が、お互いの時間を奪い、愛情が後退してしまうのではないかという不安が彼女を襲っていたのです。

 

「千恵子、私たちの未来について考えることは大切だと思う。私は将来を共に過ごすことを望んでいるけど、君の気持ちを尊重します。」

 

隆が真剣な表情で千恵子に語りかけました。

千恵子も彼の言葉に真剣なまなざしで応えました。

 

「隆、当然私も将来を考えているわ。でも、結婚が本当に必要なのか、そして結婚後の生活がどのように変わるのか、それについて考えてしまうんです。」

 

千恵子は過去の離婚からくる不安と、現在の幸福な関係を守りたいという思いが入り混じった気持ちでした。

 

隆は千恵子の手を優しく取りました。

「私も同じように考えています。結婚が必ずしも成功や幸福を保証するわけじゃないよ。でも、私たちの愛と信頼がある限り、一緒に幸せに暮らすことができると信じている。」

 

千恵子はその言葉に心が温かくなりました。そして、彼女は静かに考え、隆に尋ねました。

 

「あなた、結婚後も忙しい仕事を続けられると思う?」

 

隆は微笑みながら答えました。

「もちろん。仕事は私の情熱でもあり、千恵子の影響でさらに充実している。ただ、大切なのは、お互いに時間を割いて、お互いの愛を育むことだと思う。」

 

千恵子は考え深くうなづきました。彼女も隆と一緒に過ごす時間を大切にし、愛情を育てていく覚悟を決めました。

 

「隆、あなたと一緒にいることで、私の人生がより充実しているを私も感じます。でも、私の過去の経験からくる不安もあるけど、私たちの愛は変わらないと信じています。」

 

千恵子の言葉に、隆は感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。そして、二人はお互いの手を取り、未来に向かって歩み始めることを決意しました。

 

 

 

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