あんな物語は、この世に存在するのだろうか。
美しく、キラキラした、奇跡のようなラブストーリー。
全身を震わせて、トキめいて、全力で愛したたった一人の人。
これは、私が体験した話です。
「ねえねえ、本当にいい家だね。」
私は言う。
「こんな家に住めて本当に俺たちは幸せ者だねぇ。」
にっこり微笑みながら夫が返した。
私は今、優しくて誠実な夫と結婚し、家庭をもっている。
29歳で出会い、その年には同棲。そのまま30歳で結婚。
31歳で一戸建てを建てた。
「あとは子供だねぇ。」
「まあ、授かりものだからね。俺は別にあおいさんと2人でも楽しいよ。」
本当に縁があるっていうのは、こんな風に何の障害もなく、トントン拍子で進展していくものだろう。
気持ちとタイミングが一致し、価値観も似ていて、安心できる。
一緒にいない時も、信じられて、心も安らぐ。
決してトキめくことはない。
ただただ、安定しているし、自分を見失わずにすむ。
そして、結婚相手には、そんな人を選ぶこと。
私は今、まさにそんな人と巡り会えて、一緒になれて幸せだ。
そう思うまでに、沢山の時間がかかった。
一生に一度の大恋愛。
私はずっとそれに囚われていた。
まるで少女マンガの主人公になったような、運命の恋。
あの頃は本当に運命だと信じて疑わなかった。
春の野原を描いた風景画のようにキラキラしていた。
その横顔や後ろ姿だけで胸が締め付けられるほど、愛おしく思う。
好きだなぁって思う。ああ、幸せだった。
今思えば、思いすぎるが故に自分を見失っていた。
依存していた。自分で美化した物語に執着していた。
自分をそうさせてしまうその人は、運命の人ではなかったのだと、今気づく。
一生のうちでこんなに好きになった人はいない。
言えることは、ただただそれだけだった。