浦島に、昔と変わらない日々が戻りました。


時々、竜宮城の事を思い出しましたが、時が経つにつれて、現実なのか夢なのか分からなくなっていきます。



豊玉姫…

君は確かに、私の所へ来ると言った。

しかし…



浦島には、しばらくすると結婚を意識する相手ができました。

相手の女性は櫛名田比売(クシナダヒメ)と言います。

豊玉姫のような豊潤な女性ではないけれど、美人というより可愛いらしく、素直で、まだあどけなさが残る、男性ならば守りたくなるような女性です。

浦島は、豊玉姫との約束は気になるものの、櫛名田比売と穏やかで平穏な日々を過ごしたいと思うようになっていました。



『風の強い日に、、、必ず行きます。必ず。』


『待ってて、待っててね。』




うわぁァァァ!!



豊玉姫の夢を見て、叫びながら起きる浦島。


クシ 「どうしたの?すごい汗よ。」

浦  「ハァハァ…なんでもない… 」

クシ 「何か悩んでいることがあるなら、私に話して。」

浦  「あぁ…あぁ…そうだな。驚かないで聞いてほしい。」



浦島は、櫛名田比売に竜宮城でのこと、豊玉姫の話をしました。


クシ 「不思議な話ね。そういうこと、あるのかもしれないわ。」


浦  「ありがとう。」


クシ 「竜宮城での奥様を、まだ愛しているの?」


浦  「いや、いや、私は人間だ。同じ人間の妻がいいよ。それに、私が幻を見たのかもしれない。」


クシ 「その不思議な事があってから、もう何年も経っているのでしょう。夢だったらいいわね。」


浦  「そうだな。本当に。」



そう、あれからもう何年も経つ。
豊玉姫は来ないではないか。
夢だったんだ。




数日後、浦島は漁が終わり海岸を歩いていると、十歳ぐらいの男の子が正面から歩いて来て声をかけてきました。


男の子「浦島さんって、あんた?」


浦  「そうだが。」


男の子「明日、風が強い日だから行くってさ。」


浦  「えっ?」


男の子「約束だからって。」


浦  「誰に聞いた?」


男の子「白い髭生やしたおじいさんだよ。ちゃんと言ったからね!」


浦  「ちょっと待って!」


男の子はそれだけ言うと、走って去っていきました。


浦島はその場にしばらく立ち尽くしていました。





呆然と歩く浦島。

ふと見上げると、正面の丘の上で、手を振っている櫛名田比売が見えます。


クシ 「おかえりなさ〜い!待ってたのよ。」


浦島は、櫛名田比売に駆け寄り、きつく抱きしめました。


クシ 「どうしたの?」


浦  「俺が、俺が愛してるのは、お前だけだ!!」


冷たく強い風が、浦島の頬に当たりました。