指輪ガバガバ | たいしてふつうのこと

たいしてふつうのこと

なごやみなと「夜空に星のあるように」できごとひとりごと

築地口。
午前9時半、

煙草をくわえる。

よく、ライターを忘れる。


斜め前方
濡れたベンチに腰掛けた
ロングヘアーのおじちゃんに

「すみません、火。もらえますか?」

見事なまでの無表情で
やたらおおきな深緑のコートの
ポッケに
ひどく黒ずんだ手を入れ

「これは飴・・これは軟膏・・
あるでよ・・」

ぼそぼそつぶやいている。。。

ポッケもやたらおおきい。

30秒程で
ズボンのポッケからでてきた。

「ほれ、コレ。」

透明色した電子ライターひとつ。
カチッ カチッ
見るからにガスがない。
何度押しても点くわけもなく、
くわえたままの煙草の
フィルターが
湿っていくだけの変化しかない。

「それいかんわ。そこのみせでよ
100えんで、何本か買えるわ」

「じゃ、そうします。」

あった。
3本で105えんは安いなぁ
と思った。

店外に出て早々煙草に
火をつけようとしたら
深緑のおじいちゃんが
近すぎず、遠すぎず
絶妙な距離に立って
ぼくを静観している。

ライターを1本
マルボロを5、6本
渡した。

「むかし、オンナによお、
指輪買ってくれてやったらよお、
ガバガバでよお、
松坂屋でよお・・・、」

さっきまでの
無表情はどこいった。

終わりのみえない
なにかが始まる気がした。

すぐさま、
「おじちゃん、
また会えたらいいすね。。」

、、、、。

そこから
「でわ、また」
と言うまで10分は経っていた。


夜空に潜った。
きょうはピアノの練習を
したいのである。

なかなか上達しない。

きっと指が短いうえに
睡眠不足だからだ。

と言いきかせる。

ぜんぶたからもの