ITベンダーあるいは、ITベンダーに対してシステム開発を委託したことのある企業の方はなじみが深いのではないかと思われます。このシステム開発契約書。

 

私も近頃よく契約書のチェックをお願いされますが、実は結構誤解や問題が多い分野になります。システム開発は特にトラブルに発展することが多い契約であることがしられています。

 

一部では、システム開発の7割はトラブルになるとのことも言われています。

 

こういったトラブルを防ぐために契約書にあらかじめトラブルになった場合の対処法やリスク管理をしておくのですが、その場面で様々な誤解が生じていることがあります。

 

その一つがITベンダーのシステム開発契約は準委任契約だから、仕事の完成義務は負わないし、善管注意義務を果たせば決まった報酬はもらえるという誤解ですね。

 

では、この準委任契約とは何なのか?

 

民法では準委任に関する規定はなく、委任に関する規定を準用するとされています(民法656条)。

では委任と準委任の違いは何かと言われると、ざっくりと言いますと、委任は法律行為を委託するもの、準委任は法律行為ではないものを委託するもの、と分けられます。

 

準委任の例として挙げられるのが、医師の診療や手術、あるいは塾の講師などですね。

医師は、治療や手術は行いますが、病気を完治させる責任は負いません。医療過誤だといわれるようなひどいケースでなければ、基本的に債務不履行に基づく損害賠償責任などは負いません。

塾の講師もそうですね。子供の学習指導には携わりますが、大学の合格までは保証せず、志望校に合格できなかったとしても債務不履行責任は負いません。

 

 

このように、準委任契約においては、受任者は青果物の完成責任を負わない、と言われていることから、ITベンダーはプロジェクトが途中で頓挫して成果物が完成しなくても、ITベンダーは損害賠償責任を負わずに済み、かつ報酬も請求できると言われています。

 

しかし、これは認識に誤りがあります。

 

そもそも準委任契約には、履行割合型(事務処理の労務に対して報酬が支払われるもの)と成果完成型(事務処理の結果、生じた成果に対して報酬が支払われるもの)に分かれます。

 

システム開発契約は成果完成型に分類されるものであって、実態は請負契約とさほど変わりません。

したがって、システム開発をしていて途中でプロジェクトが頓挫してしまった場合でも、それがITベンダーのスキル不足であったり、ITベンダーに責任がある場合は、報酬も請求できないし損害賠償責任も負うことになります。

 

 

 

次によく耳にするのは準委任契約は善管注意義務を負っているにすぎないので、これを果たしていれば損害賠償責任は負わないという点です。

では、善管注意義務の中身は何か?精一杯やったんだから、それで良し、とはならないところがポイントです。

 

想像してみるとわかるのですが、医療行為でも、確かに治療方針を選択するのは患者ですから、最終決定権は患者にあります。しかしだからと言って医師は、治療方法の選択肢を与えてあげるだけでいいかというとそうではありません。

 

医師は、どの方法を取ったらどんなメリット、デメリット、リスクがあり、そのリスクはどの程度か、という点を詳細に説明する義務があります。医療の専門家ですからこれは当然ですね。私を含む弁護士もそうです。

事件の見通しと解決策とメリット、デメリット、リスクを適切に説明しないといけません。そういった説明をせず依頼者が損害を被った場合は、弁護士も責任を負うことになります。

 

ではITベンダーはどうかというと、ユーザーのシステム部門と比較して、ITベンダーはシステム開発の経験が豊富です。様々なプロジェクトも経験しているので、大事な勘所も分かっているし従業員もITに精通しているでしょう。

対してユーザーは、ITベンダーに比べればシステム開発に関する知識や経験は少ないでしょう。だからこそITベンダーに依頼して知見や技術を得ようとし、そこに対価を支払うのです。

 

この場合のITベンダーの立場は先に挙げた医師や塾の講師、弁護士と同じような立場だと言えるでしょう。したがって責任の重さも同じということになってきます。

 

したがって、ITベンダーとしてはユーザー希望を聞いたうえで、予算の算定、追加費用見積もり額の提示、機能追加の適正不適正等、代替策等を説明しながらプロジェクトを円滑に進められるようにマネジメントする義務を負います。このような行動や助言をしていなかったとしたら債務不履行責任を負うこととなります。

 

こういった点を念頭に置きつつプロジェクトの進行を管理する必要があることを頭に入れながら日々の業務を遂行していっていただければと思います。