数年前の夏、とある公募への応募を目指して、自らを「缶詰め」にしてみたことがあった。

都内のビジネスホテルにPC持参で数日ほど宿泊して、執筆作業に没頭するつもりだった。

ところがその間、ミクシィで繋がった女から執拗にメッセージが送信されてきて迷惑した。

結局、その相手をすることで集中を欠き、思った通りに作業を進めることが出来なかった。

「そんなの、嫌ならば相手にしなければいいだけじゃないの?」と思われるかもしれない。

確かに、それで済んだのだろう。しかし偶然にも、同じ公募を目指している事が分かった。

そこに、妙に縁のようなものを感じたのがいけなかった。作業中も執拗にメールが届いた。

最初はお互いに頑張りましょうだった。しかし、次第に内容が別な方向へ変質していった。

異常な量だった。俺に対してではなく、彼女の心を弄んだ俺の知人男性への恨み節だった。

妻がいることを隠して近づいてきて、遊ぶだけ遊んでから自分を捨てた男への怒りである。

ネガティブかつ攻撃的な内容の長文ばかりだ。サイコ女の発する猛烈な毒っ気に侵された。

最初は同情したものの、それに甘えて自身の心情吐露を遠慮なく送り続ける女に辟易した。

同じ地点を目指す者同士、励まし合えるだろうと踏んでいた俺の予想は完全に裏切られた。

こちらへの思慮のなさに腹が立ってきたので、女からのメッセージをシャットアウトした。

そして遅れを取り戻そうと急ピッチで作業に専念したが、失った時間は補いきれなかった。

機会を台無しにされた感は否めぬが、極めて異様かつ異質な体験だったと言えなくもない。

つまりネタとしては十分に面白かったってことだ。しようと思って出来る類の事じゃない。

過去にはそんな出来事もあったが、今月末「昨年の夏休み」として有休を申請しておいた。

前後の土日も含めると9日間の連休で、そこで再び自らを「缶詰め」にして課題を与える。

以前は都内のビジネスホテルだったが、今回は博多まで少々足を伸ばしてみることにした。

近場のホテルを数日ほど押さえるのも、格安ツアーで遠出するのも費用的に大差ないのだ。

そこで、ついつい楽しそうな場所を選んでしまった。出発日が来るのを心待ちにしている。

「そんな遊び半分の旅行で上手く事が運ぶわけがない」と思われる向きも多いに違いない。

全くもって、その通りだ。様々な誘惑の多い街で自分を律する自信など全くないのである。

何事にあたるにも最大の敵は己なのだ。ホイホイと目先の欲望に釣られてしまう弱い自分。