昨年末、元妻が卵巣の手術で入院した。その時期を知らずに、進学先が決まった娘へ「合格のお祝いに、焼肉でも食いに行こうか」とメールで誘うと「昨日からママは入院してるから二人でね」との返事があった。
そういえば以前に食事した際に「年末頃に手術する」なんて話していたっけ。

結局、娘と一緒に手術後の病室を見舞った帰り道、とても北風が冷たくて、並んで歩きながら「お前、ヒートテックとか、着ないの?」と問うと「着るよ。着るけど2枚しか持ってないから。洗濯が終わって乾いてるとラッキーって感じ」と返ってきた。
後日、仕事帰りにやりとりを思い出して、娘にメールでサイズを訊ねて、ユニクロで3枚ほど女性用のヒートテックを買った。

彼女の住む地域には近くにユニクロがない。「都内なら最寄り駅になくても、数駅行けばあるんじゃないの?」との意見はごもっとも。つまり、彼女にとってヒートテックを入手するのは何ら難しいことではないのだ。それでも「俺が買えば娘のヒートテックを着れる日が週に三日も増える」と考えると、やはり買わずにはいられなかった。

数日後の早朝、仕事帰りに娘のところへ届けると、玄関先に出てきたのは退院したばかりの元妻で、冬休みに入ったばかりの娘は寝ていて、父がわざわざ持参したにも関わらず顔だけ見せに起きてこようともしない。
父の娘への思いなんてのは大抵はこうした一方通行で報わぬことも多いが、そんなことはどうでもいい。娘が元気で、少しでも冬を暖かく過ごしてくれればいい。

さて、そんな経緯から気づいた。
俺自身も毎日、ヒートテックを着れる身分じゃないということに。
俺の所有枚数は4枚。本当は俺だって毎日着たいのだ。

そんなわけで先日、ユニクロで今度は自分用に3枚買い足したのだが、やはり優れている。綿のロンTとは比較にならない。
さらに、今年のヒートテックはベストサイズだ。個人的な感想だが、買う年によって若干長さが異なるように思える。数年前に買ったワッフル地のは裾が短いし、一番最初に買ったものは生地が伸びてしまい、まるでミニ・ワンピのようだ。
尻の半分ほどが隠れる丈がいい。伸びをしてもお腹が出ない長さがベストだ。

俺の双子兄は洒落者を気取っていて、一緒にアウトレットへ出かけてもラルフローレンでしか買い物をしないような頑なさがあって、元旦に会った際に「ヒートテックを着たことがない」と話していた。
確かに襟元から覗くインナーが綿のTシャツか、あるいは光沢のある素材のヒートテックかでは多少印象は異なる。前者の方が見かけは良い。化繊のインナーは野球選手のようで無粋だ。

でも、そういう次元で着るんじゃないんだよ。実用性が勝るというか、一度その温かさを味わってしまったら他人の印象なんかどうでもよくなるというか。
製品が単なるカッコ良い悪いを超えたクオリティを備えている。

山本耀司だったか、誰が言ったのかは忘れたが「ファッション=やせ我慢」みたいな言葉を目にしたことがある。確かに実利よりもセンスや美を優先させると、本来の得られるべき恩恵は我慢するしかないのだろう。

先日、何かのコラムで「ユニクロは何故に売れ続けるのか」が語られていて非常に納得のいく説明があった。ユニクロの商品は、すでにファッションではなく「日用品」であるという表現。
そうなんだよ。そういうことなんだよ。ある意味、便利グッズみたいなもので、一度その使い勝手の良さを体験してしまうと二度と過去へは戻れない。

そういえば靴下も買ってみた。ヒートテックの靴下。これがまた実に温かい。
寒い時期にはもう手放せそうにないな。次は、新しく出た「極暖」ってヤツも試してみたい。