「そういえば、最近、彼女の話が出ませんね」

「ああ、そうね。言われてみれば」

「GW2連発、どうでした?」

「うん。行ってみて良かった。大正解だよ」

「彼女とは、すぐに話せたんですか?」

「いや、もう待ち時間はウザいからって一番乗りで入店したんだが」

「一番乗りですか!?」

「逆に他の女の子が付いちゃって、すぐには話せなかった」

「なるほど、逆効果でしたか・・・」

「あれ、店の作戦かね?ポジション取りとか、目の前に来るまでのイントロ長くするの?」

「どうなんでしょうね」

「俺、あの『時東ぁみ』が裏で糸引いてるような気がすんだよね」

「似てるのがいるんですか?」

「うん、女番長みたいな感じでね」

「ポジションを指示したりするんですかね。サッカーの監督みたいに」

「そうそう。『おっ、ひげジジイ来店!Uちゃん、逆サイド回って』みたいなね」

「いずれにせよ、残念でしたね」

「いやいや、それもまた良しだよ」

「どうしてですか?」

「うん、別の娘との話も楽しかったしな。それに、上手く説明は出来ないんだけど・・・」

「上手いこと、簡潔に話してくださいよ」

「簡単に言えば、彼女との関係性に自分なりの結論が出たってこと」

「それは、どういうことなんですか?」

「俺はこのひと月半、彼女のことが頭から離れなかったわけ」

「個人的には大事件でしたからね。毎日のようにブログにも書いてますしね」

「彼女が俺の人生に何らかの意味を持っていると妄信してたのよ」

「偶然が次々に重なりましたからね」

「そう。俺は何事も、とりあえず信じてみるのがモットーだからな」

「それで?」

「彼女と出会った意味や、それが今後、どのように発展するのかにずっと期待していた」

「ふむふむ、それで?」

「俺の人生に何らかの転機をもたらし、変革への助力になってくれると信じきっていたんだ」

「そうですね。これまでの隊長を見ていれば分かります」

「でも先日、お店で会って感じたんだ。俺が変化するのに、彼女の手助けは必要ないと」

「え、必要ないんですか?」

「必要ないと言うより、もう助力してもらってるんだ」

「どういうことですか?」

「ここに、こうして連日ブログを書いているのもリハビリみたいなもんでね」

「リハビリ?」

「そう。何を目指していくべきかが分かったんだ」

「じゃ、それに向けての準備運動みたいな感じ?」

「うん。目標が実にクリアになった。それだけで十分にありがたい話なんだな」

「へぇ。じゃ彼女は道しるべみたいな存在だったんですね」

「そういうこと。直接的な力を借りることで光明が見出せる、と勘違いしていた」

「共同作業的なことを期待してたんですね?」

「そうそう。でも結局、自分でやるしかない、と。当たり前の話だけどな」

「いきなり空から何かが降ってくるなんてこと、ないですからね」

「そういうことよ。彼女と出会って、まだ諦めずに戦いなさいってのを教わったんだよ」

「自分と向き合う良い機会になったってことですね。で、今後は、どうするんですか?」

「分からん。でも、依存からは解放された気がするよ」

「お店に通うの止めちゃうんですか?」

「毎週欠かさずに9回も通ったんだぞ。いずれにせよ今週末は居ないし」

「来なくなったら寂しいですよ、彼女も」

「そうかな?」

「学校の帰り道、煩いほど尻尾を振って寄ってきた角の家の薄汚れた老犬が突然、姿を消すようなものですから」

「誰が薄汚れた老犬だよ」