8月28日(火)に国立感染症研究所から、今年の風しん感染者が首都圏を中心に急増し184人なったと報告がありました。風しんは感染力が強く、特に妊婦が感染すると生まれてくる赤ちゃんに「先天性風疹症候群(CRS)」という重い合併症を認めることがあるため注意が必要です。
また、今年の春には沖縄で99人の麻しん(はしか)感染者の報告がありました。その後、沖縄への旅行者により感染は全国へ広がり161人の感染者が報告されています。麻しんは、特に乳幼児が感染すると脳炎や「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という生命にかかわるような重症な合併症を認めることがある怖い感染症です。
風しん、麻しんともに感染を広げているのは20歳~50歳のお父さん、お母さんの年代の方たちです。感染の既往やワクチン接種(子どもの時の接種であれば2回接種が推奨されます)の既往がはっきりされない方は、積極的にMR(麻しん風しん混合)ワクチン、麻しんワクチン、風しんワクチンの接種を受けることをお勧めします。
よく質問を受けますが、自然感染やワクチン接種ですでに麻しんや風しんに対する抗体を持っている方が再度ワクチンを接種されても全く問題はありません。感染やワクチン接種の既往がはっきりされない方は、是非ワクチン接種を検討してください。
渋谷区では、妊娠をご希望されている女性の方、およびそのパートナーの方の風しん抗体検査(血液検査)、そして抗体価が低かった方(16倍以下)への風しんワクチン接種が全額助成で行えます。ことのきMR(麻しん風しん混合)ワクチン接種に変えても助成で行うことができます。
風しんとは?
<感染経路と症状>
風しんは、風しんウイルスの飛沫感染や接触感染により感染が広がり、感染すると2~3週間後に発熱、リンパ節の腫脹、発疹が認められます。飛沫感染とは感染している人が咳やくしゃみをしたときにでる細かい粒子にくっついたウイルスを、近くにいた人が直接口や鼻から吸い込むことにより感染することです。
感染しても一般的には“三日はしか”といわれるくらい軽症なことが多い感染症ですが、2,000~5,000人に1人の割合で血小板減少性紫斑病や脳炎を合併します。
特に問題となるのは、妊娠20週くらいまでの妊婦が感染すると、出生した赤ちゃんに難聴、白内障、先天性心疾患、精神運動発達遅滞などをみとめる先天性風疹症候群(CRS)を合併する可能性が高いことです。
風しんに感染した場合、特効薬はありません。
<最近の感染>
2006年にMR(麻しん風しん混合)ワクチンの2回接種が定期接種として開始されると、風しん患者数は激減し、先天性風疹症候群(CRS)の発症は年間0~1名と減少しました。
ところが、2012年末から2014年初めには再び全国的な流行により約17,000人が感染し45名の先天性風疹症候群(CRS)を合併した児が認められ、11人が死亡しています。このときの感染者の中で多かったのは20代~30代の成人で、男性が女性の3倍でした。
そして今回、風しん感染者が首都圏を中心に184人なったと報告がありました。
麻しん(はしか)とは?
<感染経路>
麻しんは、麻しんウイルスによる空気感染により感染する、非常に感染力の強い感染症です。空気感染は感染している人が咳やくしゃみをしたときにでる細かい粒子にくっついたウイルスが空気中に浮遊し、そのウイルスを吸い込むことにより感染します。近くにいる人だけではなく広い範囲に多くの人へ感染する恐れがあり、同室内にいるだけではなく、電車、映画館、ホールなどにいるだけでも感染する可能性があります。ウイルスの粒子は非常に小さいため、マスクなどをしても感染を防ぐことはできません。
<症状>
感染するとおよそ10日後に熱や咳などの風邪症状がみられ、その3日後くらいから口の中に白いプツプツした発疹(コプリック斑)や体の赤い発疹が認められ、熱は7~10日間続きます。重症な合併症として、肺炎が6%、脳炎が1.000人に1人程度認められ、脳炎を合併した30%に後遺症を残します。
また、2歳以下の乳幼児が感染すると麻しんウイルスが体の中に潜伏し、4~8年後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を1,300~3,300人に1人発症します。この病気では運動障害や知的障害がみられ、その後10数年で死に至ることの多い怖い疾患です。
麻しんに感染した場合、特効薬はありません。
<最近の感染>
2006年にMR(麻しん風しん混合)ワクチンの2回接種が定期接種となり、2008年には年間11,013名であった感染者が、2010年以降は500名以下になり、2015年には35名となりました。そして、2015年3月には日本は世界保健機関(WHO)から日本発生の麻しんが排除されたことを認める“麻しん根絶宣言”を受けるに至りました。
ところがその後も日本各地で麻しん感染の小流行がみられています。
2016年には東南アジアから帰国した人から関西国際空港の職員を中心に33人が麻しんに感染しました。感染者のうち1名が千葉県で行なわれたジャスティンビーバーのコンサートに行っていたことがわかり大きな話題になりましたが、幸いにも千葉での流行は認められませんでした。これらの感染者を含め、2016年には関西国際空港、千葉県松戸市、兵庫県尼崎市で165名の感染者が報告されています。
2017年には20代の男性がバリ島(インドネシア)から帰国後に麻しんを発症した状態で合宿形式の自動車教習所に参加したため、二次感染(最初の感染者からの感染)、三次感染(二次感染者からの感染)を含めて60名の麻しん感染者が発生しました。同じ年にインドへの旅行者が帰国後に麻しんを発症し小学校の入学式に参加したため、学校職員2名が麻しんを発症しましたが、抗体保有率が高い小学生からの発症はありませんでした。2017年も三重県、広島県、山形県で160名以上の感染者が報告されています。
今年の春には観光地である沖縄で流行がみられたため大変話題になりましたが、台湾からの観光客が3月20日に麻しんと診断されたのを発端に、99人の麻しん感染者が報告されました。その後、沖縄への旅行者により感染は全国に広がり、愛知県で25人、東京では11人の感染が確認され、合計161人(5月23日現在)の感染者が報告されています。
また、世界では2017年にヨーロッパで麻しんの大流行があり、イタリアとルーマニアでは、それぞれ5,000人以上の感染者が報告されました。このヨーロッパでの流行は2018年に入っても継続し、2018年の上半期だけで4万人以上の感染者が報告されています。
このように、“麻しん根絶宣言”を受けた日本においても、毎年麻しんの流行がみられています。これは、海外からの持ち込みによる“輸入例”が感染の発端となっているからです。そして、その感染を広めているのが20歳代から50歳代の大人の方たちです。感染の既往やワクチン接種の既往がはっきりされない方は、積極的にワクチンを受けられることをお勧めします。