「赤ちゃんに湿疹が認められるとき」や「ご両親が何らかのアレルギーをお持ちのとき」などは、赤ちゃんの“アトピー性皮膚炎”や“食物アレルギー”に関してご心配されることと思います。
今回は“アトピー性皮膚炎”について、一般的なことと最近の考え方についてお話させていただきます。

“アトピー性皮膚炎”は赤ちゃんの5~10%に認められます。一般的な症状は生後1ヶ月くらいからおでこやまゆ毛、さらに頬から耳にかけて黄色調の湿疹が認められることから始まりますが、この頃は乳児湿疹との区別がつきにくいことを“アレルギーの話 2”でお話しました。生後2~3ヶ月になると頬から口の周りに赤みの強い湿潤性の湿疹がみられ(写真1)、体や手足へと広がってきます。この時期以降も湿疹が認められたり痒みが強い時は“アトピー性皮膚炎”の可能性が高くなります。
“アトピー性皮膚炎”の赤ちゃんの多くは1歳くらいまでに軽快しますが、2割くらいは幼児期以降にも認められます。幼児期になると首の周り、肘の内側、膝の後ろなどの関節部分に湿疹が目立つようになり、学童期以降になると上半身、特に顔が赤くなることが多くなり、ニキビと混ざり治療に難渋することもあります。

原因は“遺伝的なアレルギー体質(アトピー素因)”と皮膚が外からの異物の侵入を防ぐ能力である“皮膚バリア機能”の低下と考えられています。これに“アレルギーを引き起こす物質のダニ・ハウスダスト”や“皮膚への刺激”の関与が皮膚の状態を悪化させます。“遺伝的なアレルギー体質(アトピー素因)”として、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の1/2 ~ 2/3は“食物アレルギー”に関与しているため(写真2)、赤ちゃんの口に入る母乳や離乳食に関しては特に気になるところだと思います。

“食物アレルギー”に関しては次回お話させていただきますので、ここではポイントのみ触れます。“食物アレルギー”は、文字通り「食物が体の中に入ることによって様々なアレルギー症状を認める状態」です。ここで大切なのは体の中に入る経路は口からだけでなく、鼻からの吸入皮膚からの吸収も含まれているということです。最近では皮膚からの食物(食べかす)やダニ・ハウスダストなどの吸収が“アトピー性皮膚炎”を悪化させるだけでなく“食物アレルギー”を引き起こす原因になると考えられています。
つまり皮膚からアレルギーを引き起こす物質を吸収すること(経皮感作)により、今度はその物質を食べるとアレルギー症状を生じるようになってしまうということです。これに関して最近有名なのが“茶のしずく石鹸”が引き起こした小麦アレルギーです。小麦関連物質を含んだ石鹸を使用することで経皮感作を生じ、今まで小麦を食べても大丈夫だった人が小麦を食べるとアレルギー症状を認めるようになってしまったということで社会的に大きな問題となりました。

ある食べ物に対して“食物アレルギー”のあるお子さんが、その食べ物を少しずつ食べ続けることによって“食物アレルギー”を起こさなくなることがあります。これはその食べ物に対して耐性ができるからで、このことを“免疫寛容”といいます。これは“アレルギーの話 食事制限について”のところで、ピーナッツアレルギーに関してお話ししました。一方、食べ物が皮膚に付着して皮膚から食べ物が吸収された場合は“免疫寛容”は生じず、“食物アレルギー”を引き起こすようになると考えられるようになりました(写真3)。赤ちゃんの“アトピー性皮膚炎”で荒れた皮膚を上手にケアしてあげることにより“食物アレルギー”への移行を阻止することが大切だということがわかります。

最後に“アトピー性皮膚炎”の管理、治療に関してです。まず、“原因や症状を悪化させる要因を除去すること”と“スキンケア”です。入浴やシャワーにより汗や汚れ、バイ菌などに対処して皮膚を清潔に保つことが大切です。熱いお風呂に入ると痒みが強くなるのでお湯はややぬるめにしたり、皮膚に刺激の少ない木綿などの肌着にする配慮も必要です。室内を清潔にし、室温や湿度にも気を使って下さい。
薬による治療としては、“皮膚バリア機能”を改善するためにワセリン(プロペト)やヘパリン類似物質(ヒルドイド、ビーソフテン)などの保湿剤を使用し皮膚の乾燥を防ぎます。適切なステロイドの塗り薬を併用して炎症(皮膚の赤み)を取り除くことが世界共通の治療法となっています。ステロイドに対して極端に神経質になられるお母様もいらっしゃいますが、適切な使用量、適切な塗り方をされれば安心して使用できるとても有効な薬です。2歳以上になれば免疫調整剤のタクロリムス軟膏(プロトピック)も使用できるようになり、特に顔や首の症状には効果があります。

何かを食べると明らかに皮膚症状が悪化する、さらに血液検査等で原因を確認できた場合、一端その食べ物を除去することも一つの方法です。しかし最近では少しずつでも食べていって塗り薬で皮膚の状態をコントロールする方が経口摂取による“免疫寛容”の点、バランス良く食物を摂取できる点などで“アトピー性皮膚炎”の管理としてより良いものと考えられるようになりました。また、授乳中のお母さんの食事制限も同様に“免疫寛容”の機会を奪ってしまう危険性があるため慎重に対処しなくてはなりません。

お子さまの皮膚症状についてわからないことなどがあればご相談下さい。