ドレスコーズ『式日散花』感想&レビュー【凛としてクレバーな歌】 | とかげ日記

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●凛としてクレバーな歌

僕も応援しているドレスコーズ。軽やかかつ重みもある音や、歌謡曲の影響下にある歌唱とメロディは、濃厚でクセのあるものだが、のど(みみ)ごしするりと聴ける。美味しいラーメンは、麺もスープもイケているものだ。骨格がたくましいソングライティングの麺と、コクのあるアレンジのスープ。ドレスコーズの音楽はめっちゃ旨いラーメンさながらだ。

では、本作『式日散花』はどうか。

リード曲の#4「襲撃」を聴き、やはり今作も素晴らしいアルバムになるであろうことをリリース前の時点で確信した。

ベースの攻撃的なルート弾きとシンプルなドラムのビート。エフェクトをかけたギターの冷たくて新鮮な音。作詞作曲だけではなく、アレグロで勢いのあるバンドサウンドでも気持ちがアガる。ロックでありつつも醸(かも)されるこのエレガンスは彼しか出せない味だろう。

清冽でしなやかな音は大瀧詠一『LONG VACATION』を僕に想起させた。また、そんなビビッドな音でありつつ、タフなロックの文脈に収まるあり方は前作『戀愛大全』の延長線上にあるとも思った(ジャケットのデザインも類似しているし)。

一音一音に研ぎすまされた存在感がある。だが、洗練されたゆえの無機質さは無く、歌謡曲的で濃厚なメロディと歌唱の粘り気が実存を感じさせる。この音楽のスタイルは志磨遼平さんが拓いた境地だ。


👆 ドレスコーズ「襲撃」MV

他の二つのリード曲も素晴らしい。

まずは#2「少年セゾン」から見ていこう。7月に夏休みがいよいよ始まるような高揚感。あるいは、8月31日の次に8月32日に向かうかのような、夏休みが永遠に続いていくような逃避感。淡く明るく暑い夏の光景を濃やかに描出しているこの歌は、夏ソングが好きな方なら気に入ってもらえると思う。


👆ドレスコーズ「少年セゾン」MV

次は#6「最低なともだち」。 物憂げでドラマチックな佳作。(というよりも、志磨さんの作る曲はドラマチックな曲ばかりなのだが。)コード進行について僕は詳しくないのだが、王道のコード進行に聴こえる。収まるべき所に音楽が収まる調和感が充実しているからだ。


👆ドレスコーズ「最低なともだち」MV

リード曲以外もざっと見ていこう。

#1「ラブ、アゲイン」からして、その尊い清らかさがリスナーの心臓をぶち抜く。前作のアルバムは『戀愛大全(れんあいたいぜん)』というタイトルだが、その次作にあたる本作の一曲目が「ラブ・アゲイン」というタイトルなのは示唆的だ。

#3「若葉のころ」は若葉のようにフレッシュだが、歌詞に苦味がある。ポップスとしての完成度に満ち満ちている良曲。

#5「メルシー、メルシー」。この曲は本作の作風の中で異色だ。歌メロの歌謡曲的なクセとリバービーな音空間が、雨に降られる路地裏の叙情と親和する。

#7「在東京少年」。いなせかつ場末なムードの曲。東京の街に通じるこの猥雑感はずっと浸っていたい中毒性がある。オススメ!

#8「罪罪」では、「敗色の風が吹く」から続く歌詞に表現されているように、敗北と怠惰、そしてそこからの希望の甘美な誘惑がある。鉄琴(?)の凛とした響きと中盤におけるサックス(?)の自由さが情緒を掘り下げていて良い感じ。

そして、ラストの曲#9「式日」。悟りめいている確信的な歌唱を経て、アウトロにおけるギターソロの轟音の叫びに、散っていく花に向けるような悲痛の思いの丈を見た。


毛皮のマリーズ初期では、T.Rexなどからの影響を感じるグラム&パンクで荒武者な初期衝動を聴かせてくれた志磨遼平さん。クレバーなアーティストは初期衝動をメタな視点でとらえて次の音楽を作る。ドレスコーズの諸作を聴いていると、音楽の多様な可能性が極みの次元まで突き詰められていて、志磨さんは本当にクレバーなアーティストだと思う。

僕の推しの3バンド「神聖かまってちゃん、うみのて、ダニーバグ」のように、伝えたいこと、ひいては意味性をドレスコーズの確かな歌からは感じる。

(奇しくも、ドレスコーズの本作収録曲のMVを監督した山戸結希さんは、神聖かまってちゃんの「ズッ友」MVの監督をしている。また、うみのての笹口騒音さんはクストリッツァ監督『アンダーグラウンド』をベスト映画の一つに挙げているが、志磨さんも同映画を推している。そして、ダニーバグは現在、杉本拓真さんのソロプロジェクトだが、ドレスコーズも今は志磨さんによるソロプロジェクトだ。また、志磨さんは映画音楽を作るくらい映画に精通しているが、杉本さんも映画の造詣が深い。)

ドレスコーズが歌う酸いも甘いも噛み分けた上での全肯定の歌は、リスナーが安心して心を委ねられる包容力に満ちている。こういう歌は最近では減ったのではないか。僕はこれからも志磨さんを追っていきます。


👆全曲試聴トレーラー

Score 8.6/10.0

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👆神聖かまってちゃん「ズッ友」
このレビュー本文でも取り上げた山戸結希さん監督MVはこちら。名作短編小説のようにストーリーが手に取るように伝わる素晴らしいMV。あと、前知識なしに観たらビックリするかもしれない😅



👆うみのて「テトリ(キッ)ス feat.内田万里」
元ふくろうずの内田万里さんがうみのてとタッグを組んだ良曲。ふくろうずが好きだった方にも聴いてほしい🦉



👆笹口騒音オーケストラ「名曲の描き方」ライブ動画
こちらも笹口騒音さんが率いているアーティスト集団「笹口騒音オーケストラ」。曲中でクストリッツァ監督「アンダーグラウンド」が言及されています🎞️ 滋味あふれる佳作なのでぜひ!



👆ダニーバグ「my list」
歌詞もメロディもアレンジも、三拍子そろった素晴らしい歌もの曲を連発するダニーバグ。令和の邦楽シーンでこんなに良い歌を書けるアーティストは滅多にいない🐞