大森靖子『Kintsugi』感想&レビュー【PLAY(STOP) THE MUSIC】 | とかげ日記

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●PLAY(STOP) THE MUSIC

シンガーソングライター”大森靖子”の5thアルバム。アルバムタイトルは「金継ぎ」が由来。       

「金継ぎ(きんつぎ)とは、割れや欠け、ヒビなどの陶磁器の破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法である」(wikiから引用)   

人間の抱える色々な気持ちや側面を繋ぎ合わせて金色に輝かせるという、そのアルバムコンセプトにまず共鳴する。   

本作『Kintsugi』では、本当に様々な感情や在り方が表現されている。

私としての在り方、母としての在り方、妻としての在り方、人としての在り方の間でミラージュ(蜃気楼)のように揺れる自己を描いた#1「夕方ミラージュ」が出色だ。この曲に限らず、本作のアルバム前半には、夕方から夜にかけてのロマンチシズムを感じる曲が出そろっていて素敵だ。

とてもエッチな体つきをした女性のことを揶揄する言葉である"エチエチ"というスラングをタイトルにした#2「えちえちDELE」では女性の性を歌っている。

橋本愛をゲストボーカルに加えた#6「堕教師」では教師と道徳の世界がテーマだ。学校をテーマにするのは、神聖かまってちゃんみたいな世界観のフィーリングが少し含まれていると思う。

こういった感情を持っていいんだよ、こういう行動を起こしてもいいんだよという本作のメッセージは、リスナー(特に女性)をより自由にするだろう。新しい時代のホンネのウーマンリブを草の根から表現しているのが大森さんだと思う。女性がレッテルを貼られずに生き生きと生きられることは、ウーマンリブ活動が盛り上がっていた1960年代前半から1970年代前半に負けず劣らず、現在も喫緊の課題だ。

今までの大森さんのアルバムの中で一番好きかもしれない。それは、サウンドプロダクションが良いからだ。情報量がすっきりして聴こえる。以前は100入るところに120詰め込んでおり、情報量が過剰で聴きにくい曲が多かった。本作は100のところに80だけ入れて、それでも100に聴こえる素晴らしいサウンドプロダクションになっている。

電子音が交通整理されてだいぶ整頓された音に聴こえ、その電子音とボーカルの声音の相性に胸キュンする。  特に、#3「NIGHT ON THE PLANET」では、CHARAばりのウィスパーボイスと電子音の絡みが極上だ。

ところで、#4「シンガーソングライター -Kintsugi-」の歌詞では、「 刺さる音楽なんて聴くな おまえのことは歌ってない」や「STOP THE MUSIC 」と歌っていてショッキングだった。

しかし、この曲と#5「counter culture」の「 否定された分を肯定できたら世界は変わる 」という歌詞は地続きなのだと思う。 リスナーの一人一人に刺さり、自分事として捉えられる曲こそ、シンガーソングライターが書くべき歌だと僕は思う。(大森さんも反語的な意味合いで「シンガーソングライター」の歌詞を書いたとインタビューで言っていた。)

リスナーがアーティストのことを好きでも、所詮は他人なのだ。それは結婚相手でもそうだ。他人であるという孤独を受け入れ、その上で共振する。そこに自由はある。

#11「KEKKON -Kintsugi-」で夫になる男性に対して「大嫌い」を連呼して歌うが、最後にセリフで「大好き」という言葉で締めるのも 「 否定された分を肯定できたら世界は変わる 」 と相似形をなしているのではないか。

鋭い否定で破れたとしても、鮮やかな肯定で繋ぎ合わせて以前よりも魅力的に見せる。肯定と否定の間で揺れる僕にとって励まされるアルバムだった。大森さん、これからも愛の地雷をまき続けてくださいね!

Score 8.0/10.0

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