東京初期衝動『SWEET 17 MONSTERS』感想&レビュー【衝動を失った時にどうするのか】 | とかげ日記

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●衝動を失った時にどうするのか

峯田和伸(銀杏BOYZ)や神聖かまってちゃんが念頭にある歌詞を聴いていると彼らのファンであるこちらまで熱い気持ちになれるガールズバンド。峯田やかまってちゃんに倣うまでもなく、一瞬一瞬の衝動を大事にしているのだろう。曲はどの曲も衝動にあふれている。

#1「再生ボタン」からして、衝動にあふれたロックンロール!

#2「Becauseあいらぶゆー」では少しテンポを落として曲が進んだかと思えば、途中からハイテンポでロックンロールを炸裂させる。このテンポアップと「殺しておけばよかった」という歌詞が相まって凄い迫力を醸し出している。

#3「高円寺ブス集合」ではバニラの広告「♪バニラバニラバニラ高収入」のフレーズが出てくる。都会の暮らしでよく見る光景を甦らせることに成功している。

#4「流星」。曲の主人公は中央線沿いに住んで流星群を見る。前曲もそうだが、都会の暮らしでの光景を浮かび上がらせる。彼氏の好きなバンドというのがまたリアリティがある。サニーデイ・サービス、くるり、ピストルズ好きな彼氏。曲の主人公は彼氏の好きなバンドが嫌いだと歌う。何となくその気持ちが分かるな。

#5「STAND BY ME」。ドラムがパワーにあふれていて、ベースも細かい音符をうねるように弾き連ねるのも東京初期衝動の特徴。この曲でも、その特徴は活かされている。その上に乗る椎名ちゃんのボーカルは一言で言えば"自由"を感じる。もちろん、細かいテクニックに裏打ちされた"自由"なのだが……。

#6「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」。曲名で出オチしていませんか?笑 ドラムが流れるイントロからして、このドラムパターンは挑発的だ。コンビニやクラブに出禁になったという話は本当かな? 何にせよ、黒ギャルの生態の一つが刻印されていることは間違いない。

#7「チューペット」は弾き語りでしんみりする。アコギの音遣いも繊細だ。

#8「YOUR WORLD」。「宇宙(そら)から見た2人はちっぽけだけど/僕らには君らにも幸せはある」という歌詞に象徴される2人の幸せ。この2人の幸せ見たさに東京初期衝動を聴いている感ある! あるいは、椎名ちゃんが恋人に向けたメッセージを横取りして、椎名ちゃん(曲の主人公)に愛されたい思いでいっぱいになる。

#9「BABY DON'T CRY」。爽やかな夏の歌。…かと思わせておいて、「あの子に似ているAV探すよ今/朝帰り」という歌詞もあって、やはり一筋縄ではいかない。

#10「中央線」。弾き語りで途中まで進み、その後バンドサウンドになる。フロントマンの椎名ちゃんは中央線に何かしらの思いでもあるのだろうか? 別れた男性との思い出が詰まっているのが中央線なのだろうか?

#11「兆楽」。「今すぐヤリたい」を連呼する歌。歌として体裁が取れているのが不思議なくらいハチャメチャな歌だ。

#12「ロックン・ロール」。「ロックンロールは鳴り止まないって誰かが言ってた」という歌詞は神聖かまってちゃんが念頭にあるのだろう。神聖かまってちゃんオマージュに嬉しくなる。

安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」に掛けて言うのなら、BLUESではなくMONSTERSなのだ。BLUESの気だるさはここにはなく、MONSTERSの破茶滅茶さがここにはある。

しかし、衝動にあふれた曲を作るのは良いとして、その衝動を失った時にどうするのだろうと余計な心配をしてしまう。東京初期衝動というバンド名も、初期衝動をなくした時に崩れてしまうのではないか、と。

あと、東京初期衝動の歌詞に対してそれほどの詩性を感じない。神聖かまってちゃんや峯田和伸に比べたら、詩性のかけらもないと思う。とにかく安っぽい。

しかし、こんなにも熱量をぶつけられるのは凄まじい。熱量の量は近年の邦楽ロックにおいて稀に見るレベルだと思う。ギャルの生態をこの熱量で活写したという点で後世まで残るべき作品と言えるのではないだろうか。

Score 6.9/10.0