SEKAI NO OWARI『Eye』『Lip』全曲感想&アルバムレビュー | とかげ日記

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●実験的でエッジーな『Eye』とポップゆえの多幸感の『Lip』

最近の僕は持病が酷くなり、スピッツの草野マサムネさんがストレス障害の時に、ビリージョエルしか聴けなくなったみたいに、セカオワしか聴けなくなってしまっていた。セカオワの音楽は時にはその攻撃的な刃をむき出しにするが、優しさと音楽への深い愛情がある。

インディーのバンドマンでセカオワの音楽を陰でバカにする人もいるけれども、失礼だが、はっきり言ってそういったバンドマンの何十倍もの情熱を音楽に傾けているのがセカオワだと思う。

ディープな音楽好きにも馬鹿にされがちなセカオワだけど、ガラパゴスな日本のシーンの中で、音楽的に世界のシーンと繋がっている稀なバンドだ。ニッキー・ロメロ、EPIK HIGH(韓国のヒップホップグループ)、DNCE…。コラボの相手の名前を挙げただけでも、それが分かる。 何も闘っていないバンドよりもセカオワを支持したい。

セカオワを馬鹿にするヤツなんて、世界のオワコンだーっ! 相応の音作りの実力がないと、ダン・ジ・オートメイター(ゴリラズやカサビアンのプロデューサー)やニッキー・ロメロ(世界的なEDMのプロデューサー)やケン・トーマス(シガーロスのプロデューサー)と組ませてもらえないよ。

セカオワもスピッツもマイノリティの最大公約数的な音楽を鳴らしているのに、スピッツは叩かれないで、セカオワは叩かれる不思議。僕はスピッツもセカオワも大好きです。

Fukaseの感情のこもった歌声は、その歌詞の世界へ僕たちを連れて行ってくれる。セカオワを聴く度に、ビートとヴォーカルの噛み合い方が天才的だと思う。

Nakajinは努力家で、くるりの岸田繁さんに好きなギタリストとして名前を挙げられたほどのギターの腕前の持ち主だ。

Saoriのピアノも洗練されていて、僕は「ピエロ」の「SOS / プレゼント」バージョンのピアノの響きの包容力に泣いてしまった。

そして、DJ LOVEこそ、セカオワのアイデンティティ。リズム隊がいなくてDJだからこそ、肉感的でリアルなリズムがなくなり、ファンタジーで夢心地なリズムになる。

また、歌詞が完成度の高い一つのストーリーとなっているのも聴きどころだ。作詞者の一人であるSaoriは、直木賞候補にもなったくらい、文才とストーリーテリングに優れた人だ。

そして、今作『Eye』と『Lip』が4年ぶりのニューアルバムとして届けられた。なんというか、前作までよりも音楽をより自由に演奏している気がする。音楽への深い愛情ときめ細やかな技巧が、音楽の自由と結びついている。発売前の触れ込みでは、"狂気"の『Eye』と"ポップ"の『Lip』という位置づけだった。

まずは、『Eye』から見ていこう。

#1「LOVE SONG」はどのあたりがラブソングなのか分からない。ここで言う「LOVE SONG」とは、ラブソングのようにありきたりな大人になる君たちといった意味合いの皮肉なのかもしれない。ストリングスがシニカルな曲調に映える。オススメ!



イントロのオーケストレーションが印象的な#2「Blue Flower」。その後も重厚な狂気の世界を見せつける。

#3「ANTI-HERO」はエレクトロ・ポップのファンタジー感とヒップホップのリアリティが同居したポップな曲。『Eye』と『Lip』で行われている、前作までのリズムからの刷新を象徴するような曲だ。歌詞も英語で「悪」を歌っているが、同じく「正義」や「悪」について歌った「天使と悪魔」や「Love the warz」の時点から音楽が深化しているため、より深みを増して聴こえる。ピアノやギターももちろんだが、サビのバックでアダルトに鳴っている管楽器も聴きどころ。オススメ!



アコギの深い響きが孤独を引き立てる#4「夜桜」

#5「Monsoon Night」。サウンドや雰囲気は「ANTI-HERO」に似たものを感じる。少しダークで、でも陽気で…。低音が迫ってくる感じは、まさにモンスーン(季節風)!

#6「Food」。食べるというテーマで、なぜこのようにダークな方向にエネルギッシュな厚いEDMサウンドにするのか分からない、この狂気。歌詞の後半で自分を食べ物に見立てるのは、リスナーに消費される音楽を作る自分のメタファーか。



#7「SOS」名曲です。美しいウィスパーボイス、美しいメロディ、美しいサウンド、英語詞の美しい人間性、僕が思う美しさの結晶のような曲です。ブレイク(音がなくなること)の後のピアノが、サウンドオブサイレンス(沈黙の音)を聴けと言う歌詞の意味に沿っていると思う。オススメ!



ダークなEDMで「君はもういない」ことが毎朝迎える度にリセットされることを描く#8「Re:set」

#9「ドッペルゲンガー」。Nakajinが作詞作曲で楽器も複数担当して歌うNakajin曲。以前のNakajin曲からの成熟が見られる、円熟味のあるR&B曲。

アコースティックで素敵に愛を歌う小品、#10「エデン」

#11「すべてが壊れた夜に」。ゴスペルとストンプ&クラップが印象的な作品。すべてが壊れても、前向きな主人公の気持ちが伝わってくる。

#12「Witch」。現代の世相を風刺するEDM曲。正義による魔女狩りは、インターネットの時代で加速する一方だ。

#13「スターゲイザー」。無機質に歌われるFukaseのボーカルは、人々が何気なく通り過ごしている日常で感じる狂気を描いている。鍵盤の音が星の瞬きみたい。そして、間奏で聴こえる高音の歪んだシンセ音は、まさに狂気を感じながらロマンチシズムを追い求めているような世界観。オススメ!



続いて『Lip』。

#1「YOKOHAMA blues」は元カノに向けた歌。歌詞にある潮の風や香水の香りを運んでくるような淡い曲調のR&B。互いを激しく求めあったエロスの過去がセピア色に染まり、憂いを帯びた横浜の光景が僕には見える。低音がワウみたいで面白い。オススメ!

#2「RAIN」は、セカオワのポップサイドの代表曲とも言える曲。虹も夢も魔法もいずれは消えてしまうものだ。だが、虹の元となる雨が降る空を見上げると、雨が草木を育てていくように、ずっと続いて幸せが膨らんでいくこれからの日常が透けて見えるのだ。



明るいEDM曲の#3「Mr.Heartache」。世界照準の音だ。

#4「向日葵」。これもEDM曲だが、「Mr.Heartache」よりはメロディもサウンドもJ-POP寄りだ。『Eye』の「夜桜」と同じメロディーだが、アレンジと歌詞の違いでこんなにも違う曲になるのかと気づかされる曲。ディープサイドの「夜桜」、ポップサイドの「向日葵」というコンセプトの違いは、『Eye』と『Lip』のそれぞれのコンセプトを補強している。

#5「サザンカ」を聴くと、H2Oの「想い出がいっぱい」を思い出してしまう。サビのメロディがまんま。あるいは、「夢を追う君へ」向けた「サザンカ」の歌詞が、大人の階段を上る「想い出がいっぱい」へのオマージュとも受け取れなくもない。



ムーディーな#6「千夜一夜物語」。Saoriのストーリーテラーとしての才能が活きている。斎藤ネコによるオーケストレーションのアレンジが聴きどころだ。

#7「Error」。恋をしている相手に対してロボットは銃を撃てないというエラー。エレクトロ・ポップでリズムが打ち込みなのがロボット感を増しているが、Fukaseさんの優しい歌いぶりがその愛すべきエラーを温かく描いている。

#8「Hey Ho」。マーチングバンド風リズムの陽気な曲調の中で歌われる、憂いを感じさせるFukaseさんの歌声が、誰かからの「SOS」を放っておいて良いのかリスナーに問いかける。『Eye』の曲「SOS」と同じテーマだが、こちらはよりポップ。ポップ音楽の中に同居するエスニック音楽のような間奏にも注目。



民族音楽的ポップソングの#9「ラフレシア」。明るい曲調だが、歌っていることは強制労働でこのギャップの深さがセカオワらしさ。ブラック企業が話題になる世相への風刺とも取れる。

#10「Goodbye」。これもNakajinがボーカルを取るNakajin曲。Nakajinらしい実直さが胸に迫る。

#11「Missing」。リアルとアンリアルを行き来する精神世界的でミステリアスな楽曲。分厚いオーケストレーションの説得力がアンリアルな世界へ僕たちを連れていってくれる。

#12「蜜の月」。叙情的で爽やかな風のような名曲。歌詞が美しい。

#13「イルミネーション」。最初から最後まで完璧なポップソング。人が焼かれて灰になった時も、全ての色を混ぜ合わせた時も、その色はグレーであるという気づきが歌詞の大きな柱になっている。そのグレーとサビで歌われる純白の雪が見事に対比されていて、こんなに魅力的な歌詞を書けるのは天才だと思った。オススメ!



『Eye』の実験的な音楽性とそれゆえに宿るメッセージ性と、『Lip』のポップゆえの多幸感に惹かれて、気付けば何十回もリピートしている僕がいる。どちらのアルバムもおすすめします。セカオワの音楽は、僕の乾いた日常にとって、恵みの雨のように生存への思いを強くさせてくれる希望です。

セカオワの音楽には、人に訴えかけるディテールがある。世界の光と闇と共にあり、狂気と愛の狭間にある自身の人間性も裸にして、リスナーに訴えかける。セカオワの音楽のポップネスは彼らの音楽への理解の深さの表れだし、その鋭さは彼らの人間と世界への理解の深さの表れだと思うのだ。前作『Tree』の時より、成熟した歌詞と音楽になったが、斬新さやフレッシュさは失っていない。世界の終わりの地点から鳴らす彼らの音楽は、新しい音楽の時代の訪れを感じさせる。

『Eye』 Score 9.0/10.0
『Lip』Score 9.0/10.0

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