GEZAN『Silence Will Speak』感想&レビュー | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。

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●オルタナ好きはぜひ

2009年に大阪で結成したロックバンド。メンバーチェンジを経て2018年にリリースした2年振り4枚目のニューアルバム。レコーディング・エンジニアはスティーヴ・アルビニ。

日本のオルタナティブ・ロックの雄GEZANと世界のスティーヴ・アルビニがタッグを組んだとなれば、オルタナ好きとしては聴かずにいられるかって話。

スティーヴ・アルビニによる録音は特にドラムが良かった。深くて抜けが良い。ハードコアな曲が並ぶ前半は、ぬかるんだ地獄のように音が刺々しく生々しい。

本作の前半には殺伐とした雰囲気のハードコアな曲が収録され、後半には優しげなロックソングが収録されている。そして、僕は後半に強く惹かれた。

ハードコアの曲も収録されているアルバムだからこそ、後半の曲の優しさが映える。寒さの厳しい雪原に咲く一輪の花のように。本作は緩急ついていると思う。

ハードコアのような非日常の世界の後に日常を慈しむような曲が聴こえてくる。前半の怒りやヘイトのシャウトを聴いて灰色にこんがらがった気持ちが、後半の優しげな曲で解錠され、胸に温かい気持ちが残る。この本作の意図に感嘆する。

リード曲の「DNA」という曲が好きになった。「DNA」は、くるりの「ばらの花」のようなギターを刻むイントロから始まる。そして聴こえてくる切実に語りかけてくる歌声。

「DNA」におけるボーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポーの歌い方は、ドレスコーズの志磨遼平(ex.毛皮のマリーズ)の歌いぶりを想起させる。ストレートではなく変化球的であり、人間味がにじみ出るような歌声。

「DNA」は日本のオルタナの新たなアンセムだ。日常感もスケール感もある。「僕らは幸せになってもいいんだよ」というラインに象徴されるように、本質を突いた優しさを感じて前を向ける名曲。


日本ではロックは隆盛を誇っているが、世界ではロックがチャートインすることは少ない。世界ではロックは時代遅れなのかもしれない。そして、僕はロックリスナーに自分をアイデンティファイしているけど、ジャンルで音楽を語ることは古臭い考えなのかもしれない。だけど、僕はロックを聴き続ける。ロックには堅い岩のように揺るがない意思を感じるから。

Led Zeppelinは「天国への階段」で、「すべてが一つになり、一つがすべてになるその時、揺るがない岩(ロック)のような存在になる」と歌った。自分たちもそんな歌を作ることを目指していたのだろう。

そして、ロックの意思をGEZANの本作にも感じるのだ。ここでは寒空のような厳しい現実と、その現実に立ち向かうための小さな、だけど確かな理想が歌われているように感じる。

ロックは優しいよ。どんな人にも、どんなアウトサイダーにも。本作の優しさが多くの人に伝わってほしい。







Score 8.1/10.0