リーガルリリー『the Post』感想&レビュー(アルバム) | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。




■リリカルな女子オルタナ

女子高生スリーピースバンド、初の全国流通ミニアルバム。

この若さならではの荒削りな演奏だが、初期のバンプオブチキンのような破格の生命力に満ちあふれた作品だ。

音楽的には、ピクシーズを源流の一つとするオルタナティブロックからの影響を受けているように感じ取れる。ガールズバンドでオルタナをJ-POPに落とし込む手法はチャットモンチーと同じだが、チャットモンチーよりもギターロック色やガレージロック色が強いように思える。ドラムの音色も若干チープに聴こえ、リーガルリリーの雑然とした音の味わいは、ニューカマーの期待のガールズバンドであるthe peggiesの整然とした音にハマれなかった人も吸い寄せそうだ。

そして、音楽も良いのだが、なんてったって歌詞がいい。

頭の中に描いた情景を言葉にすると、その情景を言葉にする過程で、情景と言葉の間にどうしても距離ができてしまうものなのだが、リーガルリリーのたかはしほのかが紡ぐ歌詞は、情景と言葉の間の距離が果てしなく近い。情景をそのまま言葉にしようと、詩人は格闘するものだが、たかはしほのかはこの若さにしてそれに近いことができてしまっている。音楽的センスと併せて、末恐ろしい才能だ。

■全曲レビューとおすすめ曲

#1「ジョニー」。このアルバムは戦場をモチーフとした曲で幕を開ける。反戦小説、反戦映画である『ジョニーは戦場へ行った』が曲名の由来だろうか。ばかばっかの戦場の屍の山の上で、彼女たちはギターの音色が放つ生命を響かせるのだ。僕には、音楽シーンという一つの戦場にリーガルリリーが生命一つ持って向かっていく宣言の歌に聴こえる。リーガルリリーには、音楽シーンで築き上げられた無数の屍の山を越えて輝きを放ってほしい。

#2「ぶらんこ」。リーガルリリーの総力戦というイメージがある曲。全てを曲にぶつけてみましたみたいな。コーラス、上手いなぁ。「あなたはなんでおこったかな。わたしにうつるじぶんがこわい?」という歌詞もこの若さで書けるのは凄いなぁ。後半でジャムる箇所も好きだ。

#3「リッケンバッカー」。この曲をyoutubeで聴き、頭から離れなくなってリーガルリリーが好きになったのでした。「おんがくも人をころす」という怜悧な認識があった上で、「おんがくよ、人を生かせ」と歌うのがグッときて音を感激と共に嚥下する。通常のAメロ、Bメロ、サビの順番でないのに、比較的まとまって聴こえるのは、それぞれのパートの放つメロディがそれぞれにキャッチーだからかもしれない。テンポアップして「リッケンバッカーが歌う」と歌う箇所のかっこよさといったら! おすすめ!

#4「White out」。僕にとって、好きにも無関心にもなれない曲。サビの箇所のメロディが、スピッツが時々投げてくる変化球の曲のメロディを思わせて、無関心になれない。

#5「魔女」。キメの多いゆったりとしたバースから一変してサビの急な盛り上がりで、破裂する感情とルサンチマンを音で発破させる。中盤の轟音は生で聴いてみたい。

#6「好きでよかった。」。歌と演奏に銀杏BOYZの一、二枚目のアルバムと共通するチープさと夢見がちなロマンチシズムめいた慕情を感じた。歌のバックで流れているギターのメロディーはオアシスに近いものも感じる。元には戻らない死や別れの要素も感じさせつつ、生命賛歌はここでも鳴り響いている。お勧めです。

シークレットトラック「蛍狩り」。冒頭のギター(シンセ?)の甲高いサイケデリックな音色はポストロックのバンドも好きそうな神秘性がある。中盤以降の語りの部分はamazarashiや銀杏BOYZと共通するリリカルな響きや演劇性がある。いつかの死までの間、「輝きを放て」と何度も言い放つボーカルの意思に惚れる。おすすめ!

■生命賛歌
#3「リッケンバッカー」のyoutube動画でギターボーカルのたかはしほのかが抱えているのは、ある人によるとリッケンバッカーではなくムスタングだという(僕は楽器について詳しくないからよく分からない)。だとしたら、なぜ彼女は「リッケンバッカー」という曲名で弾いているギターはリッケンバッカーではないのか。

おそらく、曲中で描かれる「おんがくを中途半端にやめた」登場人物が使っていた楽器がリッケンバッカーだったのではないか。そして、リッケンバッカーを弾いていた「きみ」は「まいにち」も中途半端にやめてしまうのだ。

そして歌われる「おんがくよ、人よ生かせ」というフレーズに僕の生命はみなぎるのだ。曲の最後にこの歌を「ニセモノのロックンロールさ。ぼくだけのロックンロールさ。」と総括して歌う彼女たちは信頼できると思う。

世間の人に委ねることのない、まだ誰にも手放さない彼女たちのロックンロールに共鳴するように、僕の心臓は鼓動する。そして、願わくは人を生かすロックンロールを鳴らし、まっすぐに命と死を歌う彼女らの行く末を見守っていきたいと思うのだ。


リッケンバッカー