クウチュウ戦『Sukoshi Fushigi』感想&レビュー(ミニアルバム) | とかげ日記

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少し不思議どころか、かなり不思議。彼らの言うSFとはフィクションではないのだ。本作は世界と宇宙に潜む不思議な心髄を捉えている。

某音楽雑誌で彼らの音楽を「どこを向いているのか分からない」と評して低評価のレビューをしていたが、高く評価する僕も彼らの音楽はどこを向いているのか分からない。

Pink FloydとKing Crimsonに影響を受けたプログレ、井上陽水やさだまさしに影響を受けた歌謡曲、インディーロックの潮流に乗ったシティポップ、様々な方向に向かって光とメロディーをグラマラスにセクシーに飛ばし続ける。

本作は#1「光線」で幕を開けるが、プログレ的な楽器のフレーズがトリッキーで、その間隙を縫うサビは疾走するように気持ち良くて、遠くの金星にいるリスナーに向けて鮮やかな光線を飛ばしているようだ。クウチュウ戦とリスナーの距離を光の速さでグッと縮めるおすすめの曲です。

トリッキーな楽器のフレーズの中でサビのメロディーが疾走するように気持ち良いのは#2「青い星」も同じだ。だが、どちらの曲もそれぞれオンリーワンのアイデアが込められている。「青い星」では、突然ガラリと曲の景色が変わるが、その箇所は宇宙から美しい青い星(地球)を見ているような夢想的なサウンドだ。宇宙飛行士のガガーリンが人類で初めて地球を宇宙から見た時、こんな感情になったのだろうなと感じさせる雰囲気。

「どこに向かっているのか分からない」というのは、現在の日本の音楽シーンにおいて、どのサブジャンルにもムーブメントにも与しないということでもある。孤高の既存ロック破壊者クウチュウ戦。正しく几帳面な音楽も良いが、このくらいふざけている音楽も良い。ふざけていても、ポップミュージックとロックの核心を捉えている。

しかし、音楽性が拡散して僕らを撹乱していても、Aメロ、Bメロ、サビの繰り返しという一般の歌のフォーマットは守っているために安心して聴くことができる。

自由奔放な音楽性を支える演奏は、すこぶる上手い。キメが多いサウンドをタイトにキめてくれる。ベースのフレーズも気持ち良く動くし、ドラムも的確なドラミングで曲の世界観を伝えてくれる。

それまで長尺だった曲を3~5分にまとめた前作『コンパクト』。前作から歌謡曲的な歌の強度は変わらずに、さらにイマジネーションとインスピレーションが奔流する作品になっている。

音楽雑誌『MUSICA』において、自らの事を「シャーマン」に例えていたフロントマンのリヨだが、シャーマンの儀式のように、本作の感触は感覚的だ。前作『コンパクト』の「リカバリーポップス」ではないが、マシンや論理性を超越して聴こえてくる本作のインスピレーションは、マシンで麻痺している頭に心地よく聴こえる。自分の中の未知の感覚を開発させられているようだ。

全くの個人的な主観だが、歌詞も前作よりこなれてきて面白くなっていると思う。リヨさんが影響を受けたと語る井上陽水の歌を彷彿とさせる#6「エンドレスサマー」では歌詞が耳にスッと入って、心の毛細血管に染み込んでいく。この「エンドレスサマー」、くつろいでいてゆったりとした曲調が心地よく、このまま永遠にこの夏が続けばよいのにと感じさせる名曲なので、ぜひ一度聴いてみてほしい。

ソングライターがリヨさんだけでなく、キーボードのベントラーカオルがいるのもポイントだろう。ベントラーカオルさんは、ソロでアルバムを作り、アートワークやMVも自身で制作していて、クリエイティビティにあふれた人だ。

クウチュウ戦の音楽的なルーツにはっぴいえんどはないとリヨさんは語っていたが、ベントラーカオルさんが作詞作曲した#3「雨模様です」ははっぴいえんどの音楽性をグラマラスにしたような佳曲だ。インスト曲の#5「にゅうどうぐも」もカオルさん作曲の曲だが、ピアノアンビエントに様々なエフェクトが重なる面白い曲。

まだ紹介していないリヨさん作詞作曲の#4「台風」は、表情がころころ変わり、混沌を窮めたような曲だ。 サビに行く直前に、ゆらゆら帝国のマニアックな音楽性の曲の不気味さと同じくらいに不気味な「台風がやってきました」 のセリフがあるが、ライブの場においてもサビに行く前の掛け声として面白いかもしれない。

今後の邦楽ロックシーンの台風の目になりうるクウチュウ戦、これからも注目して見ていこうと思います。彼らの今後は、アマゾンの密林のように何が飛び出してくるか分かりません。


光線