アカデミアでの研究者の評価は、どれくらい論文を書いたかで決まります。論文を評価する定量的な指標として代表的なのはimpact factor。学術雑誌のimpact factorというのは、その雑誌に掲載されている論文がどれくらい他の論文に引用されているかを示す指数です。

 

たとえばある研究者Aの論文が、impact factorが8点の雑誌に1報、4点の雑誌に5報、2点の雑誌に16報、1.5点の雑誌に10報論文が掲載されていれば、その研究者の保有する論文は32報、そのimpact factorの合計は8 x 1 + 4 x 5 + 2 x 16 + 1.5 x 10=75点。

 

ただ、impact factorの総計だけでは、もちろんその研究者の評価はできません。例えば、上記の研究者Aと、impact factorが4点の論文を2報と67点の論文を1報だけ書いた研究者Bでは、どちらの評価が高いでしょうか?impact factorの総計はどちらも75点。ちなみに、医学・生物学系の専門雑誌の最高峰であるCellのimpact factorは67点(多少変動あり)です。Cellに続く2大ジャーナルがNature, Scienceで、impact factorは50~60点台。

 

研究者A 論文数 32 impact factorの合計点 75

研究者B 論文数 3 impact factorの合計点 75

 

実情を良く知らなければ、研究者Aの方が生産性が高い研究者に見えてしまうかもしれません。しかし、Cellに雑誌が掲載されるというのは、論文著者はその分野に関して超一流認定を受けたという事を意味します。成し遂げた研究の質という意味では、研究者Bの圧勝です。

 

下記の日経の記事は、論文数のかさ増しで偽りの高評価を得ようとしている研究者が日本に増殖している実態を報道しています。「ほぼ引用なし」の論文は、ほぼゴミです。日本の論文のほぼ半数がゴミだという事。アカデミアがこのようになっている背景には、かなり根深い問題があるはずです。

 

ゴミ論文が増殖する要因の一つは、ハゲタカジャーナルの存在です。ハゲタカジャーナルとは、お金を払えば論文を掲載する金儲けが主目的のジャーナルのこと。ハゲタカジャーナルはオープンアクセスと言って、雑誌を閲覧するのはタダだが、投稿するにはお金がかかる形式を取っています。タダなのに読んでもらえないジャーナル=ゴミジャーナル。

 

ちゃんとした学会誌や専門誌は、購読するのにそれなりのお金がかかります。オープンアクセスでもまっとうな雑誌はありますが、この形態の雑誌は自分はうさんくさいと思ってしまいます・・・。投稿をリジェクトすると収入が減るので、雑誌の運営者と投稿者の間に利益相反がある。専門誌に対する投稿論文の査読はボランティアで行われています。突然メールに査読依頼が届くということは日常的にあり、それなりにimpact factorが高いオープンアクセスジャーナルから査読依頼が来たので引き受けてしまったことがあります。きちんと論文を読み、理由を明確に説明してリジェクトしたのに、その論文はなぜかアクセプトされ、以降その雑誌は無視することにした、なんて経験が自分にもあります。