昨日封切りの『パーフェクトデイズ』。早速見てきました。

 

もともとは渋谷区の「The Tokyo Toilet」プロジェクトの広報目的に、ヴィム・ヴェンダース監督に短編ドキュメンタリー映画を撮ってもらおうと始まった企画。プロデューサーは柳井康治さん(ユニクロの柳井正さんの次男)。監督は長編フィクションでやるとの意向で引き受けた。完成した映画がカンヌ国際映画祭に出品され、主演の役所広司が最優秀男優賞を受賞してから、配給がきまったとのこと。カンヌで日本人の最優秀男優賞は、2004年の柳楽優弥さん以来二人目。

 

ある意味予想通りの作風だった。ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが理想とする“無頼”な生き方を体現しているような主人公。自分の理解では沢木さんは”無頼”を、「自分に与えられた仕事と生活に満足し、単純で決まった生活を送り一生を終える。何者でもない自分を受け入れ、満足して生きる。」ような生き方と定義している。沢木さんのお父さんは、溶接工として規則正しい生活を送り、毎日の仕事終わりに1合の酒と1冊の本があれば良い人だったと。それでもノンフィクション作家の自分よりはるかに教養がある人だったという。

 

無頼な生き方をしている主人公の目には、急ぎ足で生きている人の目に留まらないものが多く入ってくる。弱い者、障害のあるもの、こども、傷ついた若者、そして、さやかな自然の移ろいと揺らめき・・・。それらとの間に、日々ささやかな交流がある。認識しないものは存在しないのだろうか、急ぎ足で生きている人と主人公は、同じ世界に生きているはずなのに、別の世界に生きているかのようだ・・・。哀しみは心の奥にしまい、ささやかな幸せを日々感じて笑みを浮かべて生きていく・・・。最終カットを撮影している時カメラマンが泣いてしまっていたと監督がインタビューで明かしている。自分も最終シーンを見ながら、ああ映画が終わるんだなと感じた。

 

本作品は、小津安二郎監督の『東京物語』へのオマージュらしい。主人公の名前も『東京物語』と同じ平山さん。『東京物語』と同じく、本作もオトナの映画ですね。「The Tokyo Toilet」を取り上げるという制約があるからこそ生まれた珠玉の作品だと思います。しかし、ドイツ人監督の作品とは思えないですね。役所さんのおっしゃる通り、ヴィム・ヴェンダース監督は前世は日本人だったのかもしれません w ちなみに自分が好きなシーンは、迷子だったこどもがバイバイするところと、妹と久しぶりに再会した後に別れる場面です。

 

PS アカデミー賞(国際長編映画賞)の日本代表作品に選ばれ、世界からの候補88作品から15作品のshort listまで絞り込みが終わっていますが、そこに残っているとのこと。そこから最終的にノミネートされるのは5作品でその発表は1月、最終選考結果の発表は2月。2008年の「おくりびと」、2021年の「ドライブマイカー」に続く栄冠が勝ち取れると良いですね。強敵は、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した「Close」(ベルギー)、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した「サントメール」(フランス)などでしょうか。Toilet パワーで、もう一歩前へ!


追記 妻と長男が見てきて、かなりキツめのコメント。妻は、「主人公がお育ちの良い人だったので、なんとか見られるものになったわね。デザイントイレ以外にも、首都高は外国人から見たら見どころかしら。三浦さん、久しぶりに見られたわね。」長男は、「辞めちゃった若い人の方がリアリティがあったな。」共通意見は、アカデミー賞は無理でしょ。見る人によって感想が変わる映画かもね。ま、いずれにせよ、「The Tokyo Toilet」の広報という目的は十二分に果たせましたね w