これってビジネスの現場でよく使うテクニックなのですが、結構効きます。


まず、事実しか述べてないので、その事実が誤認でない限り文句を言われることがないです。


「Aさんが遅れてきたことと引き継ぎに長い時間がかかったことで、顧客への対応開始に遅れが生じ、私が電話会議に参加した時に顧客は引き継ぎ時間が長いと非常に怒っていました」



「Aさんからの引き継ぎ開始は8:50からでした。引き継ぎが完了したのは9:50くらいで、その直後に参加した電話会議で顧客から引き継ぎ時間が長いとお叱りを受けました」


どちらの文章の方が状況が的確に伝わると思いますか?


私たち日本人は最初の言い方で状況を伝えることが多くあります。状況を判断する人が知りたいことは、顧客が怒りに至る前に何が起こっていたか、顧客がどう扱われていたかです。そして、それが起こった原因が何かです。それをある程度的確に推測させる伝え方が後者はできています。


元々怒っていたのか、それとも引き継ぎの最中に起こったのかは分かりませんが、引き継ぎの間に自分達の時間を止める方法というものがあります。


それは、顧客へ引き継ぎにかかる時間を伝え、合意を得るという行為です。これを期待値の設定という言い方をします。期待値を設定し合意したことについては、顧客側の言い分を退けることができます。

引き継ぎに1時間かかると予め伝えれば、顧客が怒ることはなかったはずです。例えば15分で引き継ぎを終わらすと伝えたとしても、15分後に時間がかかるのでその後15分おきに状況を伝えるみたいな形にすれば良い話なのです。


形容詞は事実ではあれど、基準が定まっていないと想いとして受け取られてしまいます。長い時間という表現は、10分間なのか1時間なのか1日間なのか、その人によって変わってきます。だから実際の時間や測定可能な情報を出すことで、想いを事実へ変換していくことができます。


厳密な会話が必要な状況じゃなければ、想いで良いんですよ。

ビジネスでも想いで話をする人が結構いますが、それもお互いにある程度なんでも許し合える間柄ならいいと思います。

問題はそうじゃない間柄の時に起こるわけですね。かつてはそういう間柄だったかもしれませんが変わってしまった場合とか。


対立が少しでも起こりえると思う場面では、できるだけ事実で話をしておく方が会話が安全になってきます。これはインド人の友達がくれた素晴らしいアドバイスの1つです。


日本人は一般的に、事実を突きつけられても、曲解して感情的になりやすい民族のようですので、受け取り方も「事実について述べられている」と思いながら読み取るのが良いかもしれません。


言うまでもないですが、事実だからといって相手が不快になることを言っても良いという理屈はないです。例えば先の例で言ったら、「Aさんの説明が的を得てない」みたいなことを言葉にしたら、Aさんがアメリカ人なら炎上必至です。


状況を判断する人(大抵は上司)が事実を並べて、不明な部分の穴埋めをするときまで、期待値の話をする必要もなければ、Aさんの手際の悪さも述べる必要がないのです。


あなたが優秀であれば、顧客との会話で、どう期待値が設定されていたか確認するでしょう。それを伝えれば良いだけです。 ( Can I see how your expectation was set previously? )

引き継ぎ時間の話なら、かかる時間が伝えられていなかったと顧客が言っていたという事実だけ伝えれば良いのです。手際の巧拙に関わらず、期待値の設定をしてなかったことが原因だっていう結論になります。


顧客がいる仕事では、期待値の設定という仕事がとても重要で、内側からも外側からもその期待値の設定や共有が大切になってきます。


期待値設定が適切に行えていれば、不幸に巻き込まれずに済みます。スライディングキャッチみたいな豪快なファインプレイはないですが、安定して良いパフォーマンスを継続していくことができます。余計なことに気を遣わなきゃならないことが大きく減るので、自分の時間を確保することも容易になるのです。


私の場合は、違和感を感じたら顧客へ次に行う手順を共有します。まずはリーダーに共有、次いでエスカレーション手配、定期的な報告の実施みたいな内容を伝えています。できることとできないことがあるので、最終的にはそれも伝えます。


ノードストロームはNoを言わないサービスで面白い逸話を残してますが、私は自分ができないことははっきり言って、そこは人を繋いで終わりです。顧客にとって時間の無駄だからだって説明すると理解してもらえます。


エスカレーションという仕事はプロセス準拠だけの仕事をしてると本当につまらない仕事なのですが、プロセスを超えたところで仕事をしていると逆にとても面白い仕事になっていきます。

顧客の本音を聞ける仕事というのは、美しい世界では最も興味深い仕事なのです。


面倒臭くならないようにする物事の伝え方は、事実を誰も貶めないように伝えることです。面倒くさくなりそうなところは顧客に裏どりさせましょう。それが最強の兵器です。

曲解する人はたくさんいますが、電話でもメールでも記録の残るものは、事実だけが残るように話しましょう。

最後は誰かがあなたをその面倒くさいところから救済してくれます。