生理活性物質とは、わずかな量で生き物の生理や行動に何らかの特有な作用を示し、身体の働きを調節する役割をもった物質のことです。例えばビタミンやミネラル、核酸、酵素などがそうです。また、アミノ酸から作り出されるホルモン、神経伝達物質、サイトカインなども生理活性物質のうちの1つです。
生理活性物質は、体内でタンパク質やアミノ酸などから合成されます。また、ある種のビタミンやミネラルのように体内で合成できないものは、食物から摂取する必要があります。さらに、自然界に広く生息する微生物が、ヒトにとって有益な生理活性物質を作り出すことも知られています。アオカビの作り出す抗生物質ペニシリンなどはその代表的な例です。
私たちのカラダの中では、食べ物を分解したり、エネルギーを作り出したり、侵入してきた敵から身体を守ったりなど、絶えず、さまざまな生命活動が行われています。
それらをうまく調節するために欠かせないのが生理活性物質です。
生理活性物質の主な働きには、次のようなものがあります。
生理活性物質が正常に働くことによって、細胞や臓器など、体内の各器官が一定のバランスを保ちながら、健康な体を作り上げているのです。生理活性物質が不足すると、それらの正常な機能は乱れ、さまざまな器官に疾患が現れます。
生理活性物質は、私たちのカラダがきちんと働くために欠かせない物質なのです。
生理活性物質の種類
生体調節物質(生理活性物質)には下記のように3つあります。
作用範囲 運命
神経伝達物質 狭い(20 ~ 30nm) 極めて短い(mm 秒単位)
オータコイド 中間(近傍の細胞) 中間(分単位)
ホルモン 広い(全身?) 長い(時間単位)
オータコイド(Autacoid)とは、動物体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す生理活性物質のうち、ホルモン(特定の器官で分泌され体液で輸送されて他の器官に作用する)および神経伝達物質(シナプスでの情報伝達に与る)以外のものの総称です。
オータコイドは、身体に異常が加わったとき、それに対処するように動員され、これが動員されること自体で新たな病態を生じることがあります。
次のようなものが知られています。
ヒスタミン
セロトニン
エイコサノイド(プロスタグランジンなど)・・脂肪酸由来物質
アンジオテンシン
ブラジキニン
一酸化窒素(NO)
また、サイトカイン(細胞から分泌され免疫応答や増殖など各細胞の機能に作用する)を含めることもあります。
オータコイドは局所ホルモンとも呼ばれ、比較的局所にのみ働く傾向がありますが、ホルモンや神経伝達物質と厳密に区別されるものではありません。
アンジオテンシンやブラジキニンはホルモン的遠隔作用も持ちます。またセロトニンは神経伝達物質としても働くことが知られています。
機能としては炎症・アレルギー反応(ヒスタミン、エイコサノイド)や平滑筋への刺激(セロトニン、アンジオテンシン、ブラジキニン、NO)などがあります。
物質としてはアミン(ヒスタミン、セロトニン)、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)、ペプチド(アンジオテンシン、ブラジキニン)、ガス状物質(NO)に分けられます。
NOは細胞内におけるセカンドメッセンジャーであるとともに、隣接する細胞にも容易に拡散してオータコイドとして働きます。ヒスタミンやセロトニンなどは細胞内に貯蔵されていて刺激に応じて細胞外に放出されます(神経伝達物質と同様)が、その他のものは刺激に応じて合成されます。
この生理活性物質には、以下の大きな3つの働きがあります。
①炎症を悪くする、
②その炎症を調整する、
③それらの働きを抑制する
たとえば、血管を広げる生理活性物質があれば、それを収縮させる逆の作用を持つもの、さらにそれぞれの作用を抑制するものが存在します。
この3つがバランスよく保たれていれば何も心配ありませんが、バランスが狂ってしまうと、「酸化ストレス・炎症体質」を形成してくる、ということになってしまいます。
脂肪酸由来物質の「エイコサノイド」
「ホメオスターシスの三角形」の一角に”内分泌系”があり、全身のさまざまな生理機能を調節するもの(生理活性物質)には、「ホルモン」がありますが、特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、これまで述べたように、局所ホルモン(エイコサノイド)がこれとは別にあります。こうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにしますが、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。(そのため局所ホルモンと呼ばれています)しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
ここでは、脂肪酸由来の生理活性物質であるエイコサノイドについて述べます。
局所ホルモン(プロスタグランジン)の働き
プロスタグランジンとは?
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6は、全身のさまざまな生理機能を調節する局所ホルモンの原料になります。この脂肪酸からつくられる局所ホルモンはエイコサノイドと言われ、「プロスタグランジン」「ロイコトリエン」「トロンボキサン」などの種類があります。 そうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにします。
従来のホルモンが特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
プロスタグランジンの生成過程と種類
プロスタグランジンは、次のようなプロセスで生成されます。
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変化を繰り返し、各種の「プロスタグランジン」が生成されていきます。(※食物として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大部分は、他の脂肪酸と同じく燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部がプロスタグランジンに変換されます。)
プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループに分けられます。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種類のプロスタグランジンがつくられます。
プロスタグランジンによる生理調節作用
ここで大切なことは、プロスタグランジンは大きく3つのグループに分かれ、グループごとに異なる働きをしているということです。なかでも「オメガ3系のEPA」からつくられるプロスタグランジンと、「オメガ6系のアラキドン酸」からつくられるプロスタグランジンは、相反する働きをして細胞機能のバランスをとっています。
もう少し詳しく見てみると、オメガ6系からは2つのグループのプロスタグランジンがつくられ、互いに相反する働きをしています。現在、その材料となる「オメガ6」は大量に摂取されています。そのうえ大半の人々は、肉・乳製品・卵などの動物性食品を多く摂っていますが、そうした食品には直接「アラキドン酸」が含まれています。
そのためアラキドン酸由来のプロスタグランジンが大量につくられることになります。 つまり1グループ目に比べ、2グループ目のプロスタグランジンだけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠くことになります。(炎症を悪化させることになります)。
2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グループ目のプロスタグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2つは、オメガ6系のグループ同士より強力な競合関係にあり、一方が大量につくられると、他方はその分だけつくられなくなります。ということは、現在のような「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「アラキドン酸」由来のプロスタグランジンが生成されることになるのです。
「オメガ6」と「動物性食品」の過剰摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く生成され、「オメガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端に不足してしまっているということです。そのために細胞機能のバランスが大きく崩れ、さまざまな障害・病気が引き起こされているのです。
例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが「オメガ3」からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」からは炎症を激化させるプロスタグランジンがつくられます。
このように―「血栓を減らしたり、増やしたり」「発ガンを抑制したり、促進したり」「子宮を弛緩させたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、狭めたり」して、互いに相反する働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブレーキのようなものです。
1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしながらコントロールしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関係をもちながら、身体全体の機能を維持しているのです。
「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成分となるだけでなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となっています。
プロスタグランジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節系」と言われ、油の中でも最新の研究分野となっています。1982年には、欧州の3人の研究者がノーベル医学生理学賞を受けています。
生体膜の構成・・・脂肪酸の種類の違い
脂質は細胞内小器官(ミトコンドリア)の膜構造を構成します
細胞内小器官(ミトコンドリア)の膜構造には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、膜構造の状態が大きく異なり、ミトコンドリアの働きが左右されます。
このようなことから、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6の摂取バランスが悪くなれば、ミトコンドリアの働きを悪化させることに繋がります。
このように「体の脂肪酸バランス」は、食べ物として摂った脂肪酸によって決まってしまいます。すべての細胞の脂肪酸の状態が、摂取した脂肪酸によってストレートに決定してしまうのです。
人間の体の中で“脳”は最も重要な器官の1つですが、その構成成分の60%は脂肪が占めています。そして、このうち一番量が多いのが「オメガ3」です。無数の神経細胞から成り立っている脳は、神経刺激を伝達したり、外からの刺激を受け取ったり、いつも活発な活動をしていますが、その動きに鋭敏に反応し、素早く対応しているのが「オメガ3」なのです。脳では「オメガ3」が最も大切な脂肪酸なのです。
「オメガ3」と「オメガ6」のバランス
必須脂肪酸である「アルファ・リノレン酸(オメガ3)」と「リノール酸(オメガ6)」は、単なるカロリー源ではなく、細胞膜の構成成分になったり、体のほとんどすべての機能を調節するホルモン様物質(局所ホルモン)の原料となる不可欠な脂肪酸です。
栄養学で問題となるのは、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率についてです。
この2種類の脂肪酸の「摂取比率・体内比率」が崩れると、現代人の多くが抱えているような病気が引き起こされるということです。必須脂肪酸のアンバランスは、ガン・心臓病・脳卒中・糖尿病・関節炎・不妊や生理のトラブル・アレルギー・喘息・精神疾患など、さまざまな病気に関わっています。
最新の栄養学によって、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率が、私たちの健康を大きく左右するということが明らかにされてきました。
現代栄養学では、「オメガ3」と「オメガ6」の理想的な摂取比率を、およそ1:1~1:3くらいであると考えています。これはアメリカで言えば、百年ほど前の食事の内容です。それが現代では、極端に崩れてしまっています。オメガ3は、必要量の20%程度しか摂られていません。
その状況は日本においても同様です。我が国では1960年頃までは、かなりよい比率を保っていたと思われますが、その後急速に悪化してしまいました。今ではオメガ3とオメガ6の摂取比率は、1:10~1:50というような、ひどいアンバランス状態にあります。オメガ3の著しい不足に対して、オメガ6は極端な過剰摂取に陥っています。
オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因
では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょうか。「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取されるようになったのは、1960年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭でも毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれているのです。
(一般に使われる油の中には、45~75%もの「オメガ6」が含まれています。)
一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとんどは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(日本ではあまりなじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、どこの家庭でも使われていました。)
また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、かなり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理を頻繁に摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だったのです。
現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなくなっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。
現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」
食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因としては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物より、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸入によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられるようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。 ホウレン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3の摂取源となっています。
また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オメガ3」が失われてしまいます。
さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられているのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。それ以外のほとんどの食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230℃以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうすると油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。
こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやすい「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずかですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとんどなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪酸が生成されることになります。
(※「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」という現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養素も失われてしまいます。)
このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻な状態になっています。
酸化ストレスを悪化させる危ないやつ!
植物油に多く含まれるのが「リノール酸」です。リノール酸は「必須脂肪酸」で、私達のカラダには欠かせません。でも、穀類や豆類中心の食事をしていれば、充分に必要量がとれます。
リノール酸は、活性酸素の発生などを抑える「生理活性物質」(体内でのさまざまな生命活動を調整したり影響を与えたりする)の原料になりますが、摂り過ぎてしまうと逆にそれを抑制してしまいます。現代人の食生活は植物油を多く摂り過ぎなので、むしろ活性酸素を過剰に発生させてしまっているのです。
それから問題なのが「トランス脂肪酸」。これは天然の植物油(昔ながらの低温圧搾でつくられたもの)にはほとんど含まれません。
大量生産で工業的につくられる場合にできる副産物で、いわば人工的な有害物質です。 ですから、精製・加工された植物油には多くのトランス脂肪酸が含まれています。このトランス脂肪酸も酸化ストレス・炎症体質を悪化させます。
トランス脂肪酸は多くの国で使用が制限され、表示義務があります。ところが、日本ではほぼ“Free”という状況です。ほとんどの人がその危険性をよく知りません。あなたは知っていましたか?
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングにもたくさん含まれています。マーガリンは即やめたほうがいいし、ショートニングを使っているお菓子なども、やはり気をつけたほうがいいです。そのほかでは、市販の揚げ物なども要注意です。何度も使い回しができる“持ぢのよい「硬化油」という植物油が使われていて、これにはトランス脂肪酸がいっぱいです。
必須脂肪酸の摂取のバランスをとる
からだにいい油と悪い油がある
脂質の役割
脂質(脂肪)とは、糖質、タンパク質とともに食品の3大栄養素のひとつであり、水に溶けず、脂肪酸をもち、生体で利用されるもののことを言います。
人の生体内にある脂質は、おもに、中性脂肪、リン脂質、脂肪酸、コレステロールの4種類。
中性脂肪はおもにエネルギーの貯蔵、リン脂質は細胞膜の主要な構成成分としての役割があります。脂肪酸とコレステロールに関しては、このあと詳しく述べることにします。
糖質はほとんどがエネルギー源として働きますが、脂質には、エネルギーの貯蔵のほかにも多くの機能があります。たとえば、エネルギー源になるほか、生体膜の構成成分・ホルモンや胆汁酸・ビタミンなどの原料ともなります。また、血管の保護や、免疫や炎症を調節する機能、細胞同士の情報を伝達する機能もあるのです。
このように、脂質は生体内でとても重要な多くの役目を果たしており、いい脂質を摂取することは、健康にとって極めて重要になります。「脂質は太る」というイメージがあるためか、摂取を極端に制限する人がいますが、無理なダイエットなどは慎むべきです。
基本の食事のなかで、脂質はバランスよく摂ることが大切になってきます。
からだにいい油と悪い油の見分け方
からだにとっていい油と悪い油を見分けるには、脂質のなかのおもな成分である脂肪酸の分類を理解する必要があります。
I.飽和脂肪酸……酸素などと反応しやすい「二重結合」を持たないもの
(ヤシ油や牛乳・バターに多く含まれる)
Ⅱ.一価不飽和脂肪酸……「二重結合」がひとつだけあるもの
(オリーブ油の主成分であり、ナタネ油や牛脂に多く含まれるオレイン酸など)
Ⅲ.多価不飽和脂肪酸……複数の「二重結合」を持つもの
(シソ油に多く含まれるα-リノレン酸や植物油に含まれるリノール酸、青魚に含ま れるEPA・DHAなど)
脂肪酸は炭素同士が長く繋がった構造をもち、この炭素同士の結合に二重結合がない脂肪酸を「飽和脂肪酸」、二重結合がある脂肪酸を「不飽和脂肪酸」と言います。飽和脂肪酸は常温では固体で、動物性食品(バター、ラードなど)に多く含まれています。不飽和脂肪酸は二重結合の数(価数)により性質が大きく変わり、数が多いほど油はやわらかくなるいっぽうで、酸化しやすくなります。常温で液体であり、植物性食品(植物油)に多く含まれ、価数によりオメガ9系、オメガ6系、オメガ3系に分けられます。
一価不飽和脂肪酸はオメガ9系であり、オリーブ油やなたね油に多く含まれます。
多価不飽和脂肪酸は二価のオメガ6系と、三価のオメガ3系に分けられます。
ほとんどの植物油はオメガ6系に分類されます。オメガ3系の油はえごま油、あまに油、青魚に多く含まれます。
不飽和脂肪酸に関して重要なことは、オメガ6系とオメガ3系のバランスです。
ほとんどの植物油などのオメガ6系はからだの炎症、アレルギー反応などを促進し、えごま油やあまに油などのオメガ3系は抑制します。現代の日本人は、圧倒的にオメガ6系を摂りすぎていてオメガ3系は足りない状態です。
オメガ6系は、「まごわやさしい」の食材をとっていれば十分なので油としての摂取は控え、オメガ3系を積極的に摂る必要があります。オリーブ油などのオメガ9系は、炎症などには関係していませんが、脂質自体が生体に必要ですので、加熱して少量摂るくらいがいいでしょう。
もっとも摂ってはいけないのは、マーガリンやマヨネーズなどに入っている、自然界にないトランス脂肪酸です。トランス脂肪酸は自然界には存在せず、植物油に人工的に水素添加してつくられた油です。次に、バターや乳製品など、動物性である飽和脂肪酸になります。
いずれにせよ、どんな油でもつくられる過程が重要です。オーガニックで遺伝子組み換えでない国産の原料を使った油や、低温・圧搾法でつくられた本物の油が理想です。
必須脂肪酸について
ほかの脂肪酸から合成できないため、食事などから摂取する必要のある脂肪酸を「必須脂肪酸」と言います。
必須脂肪酸には、オメガ6系とオメガ3系があります。
オメガ6系の脂肪酸の代表はリノール酸とアラキドン酸です。オメガ3系の代表はα-リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)です。
オメガ6系とオメガ3系の脂肪酸は互いに抑制し合い、身体内ではまったく逆の反応を誘導するため、このふたつの比率がとても重要です。
オメガ6系は、炎症やアレルギー性疾患を誘導したり、血管が詰まりやすい状態にしたりします。逆にオメガ3系は炎症やアレルギー性疾患を鎮め、血管が詰まりにくい状態にします。
簡潔に言い換えますと、オメガ6系脂肪酸の摂りすぎが炎症体質を悪化し、オメガ3系脂肪酸を摂ると炎症体質は改善されるということになります。
これらのことから、摂取する「オメガ6系油とオメガ3系油の比」をもって炎症体質や酸化ストレス体質にならないための油脂の摂取量の目安量を知ることができます。
いわゆる、オメガ6系/オメガ3系の比が大きな値を示すほど「酸化ストレス・炎症体質」は悪い状態に向かい、逆に小さな値であるほど「酸化ストレス・炎症体質」は良好な状態に向かうということなのです。
ガンなどの生活習慣病のベースには「酸化ストレス・炎症体質」があり、オメガ6系とオメガ3系脂肪酸の比率が関係しています。オメガ6系は、炎症やアレルギー性疾患、血栓(心筋梗塞や脳梗塞)、ガンなどを引きおこしやすくするので悪い印象を受けますが、オメガ6系が働かないと感染に対して炎症を起こして治る力が働きませんし、少しの傷で出血が止まらなくなります。
どちらがいいというよりも、あくまでバランスが重要であり、理想的なオメガ6系とオメガ3系の摂取割合は3:1とされています。現代の日本人は、圧倒的にオメガ6系が過剰で、オメガ3系が極端に少なくなっています(20~40:1)。揚げものや炒めもの、洋食中心の食生活が多い人は注意しましょう。
オメガ3系を積極的に摂り、オメガ6系を控える必要があります。ただし、えごま油やあまに油などのオメガ3系の油は非常に酸化しやすく、加熱料理には向きません。あえものやドレッシングなどで、積極的に摂るよう心がけましょう。
トランス脂肪酸について
トランス脂肪酸は、液体である植物性の油に人工的に水素添加を行うことにより固体化させた脂肪酸です。自然界にも極くわずかに存在しますが、人工的につくられた極めて不自然なものです。あらゆる脂肪酸のなかでもっとも害があるとされています。
普通の脂肪酸と構造が異なり、おもに細胞膜の性質を変化させ、全身の細胞の機能を阻害します。動脈硬化、ガン、アレルギー性疾患、クローン病、認知症などとの関係が強く指摘されています。
マーガリンやショートニングに入っているのが有名で、いつまでもパンをやわらかいままにしたり、クッキーをサクサクにしてくれたりする便利な成分です。そのほか、フライトポテト、スナック菓子、コーヒーフレッシュなど、非常に多くの加工品に使われており、知らず知らずのうちに多くの人々が摂取してしまっています。
欧米のほとんどの国では、表示義務が課され、使用制限などの規制もあります。日本でも一時規制がかかる動きが見られましたが、なぜか途中で頓挫したままになっており、現在は表示の義務すらありません。どうしても使いたい場合には、トランス脂肪酸フリーのものを使いましょう。