片頭痛医療の世界にトリプタン製剤が導入された段階で、トリプタン製薬メーカーは、トリプタン製剤の販売促進目的のために、私達一般の方々に向けて、新聞・テレビ・ネットを通じて、「片頭痛の啓蒙活動」を行い、医師には、こうした片頭痛の知識をパンフレット・冊子にして啓蒙活動を盛んに行ってきました。
こうした啓蒙活動のなかで常に示されるのは、「片頭痛が緊張型頭痛とは明確に区別される」とされてきました。これは、医師に対しては片頭痛であれば、トリプタン製剤を処方させるためであり、一般の方々には「片頭痛であれば、片頭痛の”特効薬”がある」ということを宣伝する目的で、明確に区別していました。これが、いつしか専門家の間ですら片頭痛と緊張型頭痛は明確に区別されると”錯覚”される原因にもなっています。
こうしたなかで、専門家が使う、「国際頭痛分類第3版 β版」の真の目的とすることは、片頭痛を明確に定義することによって”片頭痛と間違いなく診断”して、この片頭痛に対して”トリプタン製剤を処方する”ためのものです。
このため、”片頭痛と明確に定義された”「国際頭痛分類 第3版β版」の基準に合致しないものが緊張型頭痛とされ、いわば緊張型頭痛は”ゴミダメ”的な性格の強い頭痛とされ、専門家の間では、極めて”取るに足らない頭痛”とされています。
しかし、緊張型頭痛と片頭痛、の境界領域にあるものが存在し、この2つが明確に区別できません。
そして、現実に、”同一の”一次性頭痛(慢性頭痛)の患者さんを詳しくみてみますと、緊張型頭痛の要素、片頭痛の要素、を混在しています。このように考えれば、緊張型頭痛、片頭痛、も一連の連続したものと考えるのが当然と思われ、こうしたことから、機能性頭痛一元論という考え方をされる頭痛の専門家もおられることを忘れてはなりません。
単純に言えば、”生活に支障を来せば”片頭痛であり、”生活に支障がなければ”緊張型頭痛であり、この両者は連続したものであり、そして、緊張型頭痛であれ片頭痛であれ、共通した病態が存在しているということです。
緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
「日常的に肩こりを自覚していて,疲れたり睡眠不足になると肩から後頭部に重い感じの痛みが上がってくる。後頭部の鈍痛で終わるときもありますが,我慢していると頭全体がガンガン痛んで吐き気も出現し,ひどいと嘔吐する。ガンガン痛いときには,家族の話し声もうるさく感じて,静かな部屋で暗くして横になると少し楽になる」といった患者さんはよく遭遇します。ひどい頭痛はおそらく片頭痛と診断して問題はないでしょう。後頭部の鈍痛に関しては、緊張型頭痛と診断される場合が多いと思われます。このように緊張型頭痛で始まり、程度が強くなると拍動性の頭痛を伴うものを、オーストリアのランス Lance は緊張・血管性頭痛 tension-vascular headache と命名しました。このように一連のものです。
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
「20 歳ころから時々片頭痛発作を起こし結婚後片頭痛発作が頻繁になるが、40 歳ころから緊張型頭痛が加わってきて、50 歳を過ぎると寝込むようなひどい頭痛発作は起こらない代わりに、だらだらと重く締め付ける感じの頭痛が続くようになった。」このような患者さんは古い分類で混合性頭痛としていた典型例です。国祭頭痛学会分類では、以前のものは片頭痛で、中年以降の頭痛は緊張型頭痛と診断されるでしょう。このようなパターンを片頭痛が加齢とともに変化したということで、米国の Mathewは変容性片頭痛という概念を提唱しています。ただ国祭頭痛学会分類の範疇としては現在のところ認められていません。
一方、片頭痛の治療に市販の鎮痛薬・トリプタン製剤などを乱用していますと頭痛が発作性の型から、連日性になっていくことがあります。
いわゆる薬物乱用による「慢性連日性頭痛」ですが、これも 変容した片頭痛の一種と考えられています。
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
片頭痛と緊張型頭痛の症状の多くは重複していて、個々の症状のみで診断することは困難です。たとえば、軽度~重度の頭痛、両側性および片側性の頭痛は両者に認められます。
また、片頭痛、緊張型頭痛ともに拍動性でないことが多く、さらに、緊張型頭痛の特徴と認識されることの多い「肩こり」も多くの片頭痛で随伴しています。
片頭痛因子(血管症状)
拍動痛
片側性
高度頭痛
悪心・嘔吐
緊張型頭痛因子(筋症状)
締め付け感
圧迫感・頭重
後頭部の頭痛
肩こり
片頭痛の本質は「エスカレーシヨン」(Cady )
まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、さらに、三叉神経が刺激・感作されますと(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。
血管が活発化・賦活されますと神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度の頭痛)片頭痛へ、中枢感作(再刺激に感じやすい状態)が起きますと、ひどい片頭痛(重度の頭痛)が起きてきます。
すなわち、片頭痛は三叉神経の脱抑制(抑制が効かなくなった状態)により緊張型頭痛が起こり、さらに神経血管系が活性化されて初めて片頭痛が起こってきます。
エスカレーシヨンの程度によって、緊張型頭痛~強弱さまざまな片頭痛が出現することが理解されることと思います。このように一連したものということです。
天気に喩えますと、片頭痛は「雨」、緊張型頭痛は「曇り」に相当し、両者には明瞭な差があります。雨は曇り空から降り出します。つまり、緊張型頭痛が先行します。雨の降り方もさまざまであり、片頭痛の臨床症状の”多彩さ”と一致します。
Cadyは片頭痛と緊張型頭痛は”共通の病態生理”を持つと考えられるとして,一次性頭痛(機能性頭痛)一元説について述べています。
片頭痛の発生過程は,まず患者の”遺伝素因”にホルモン状況の変化や睡眠時間の変化,アルコール摂取などの”環境因子”が加わることで,片頭痛が起こりやすくなること,すなわち脳の感受性が高まることから始まります。
次いで,気分や食欲の変調,肩こり,感覚や意識の変化,疲労などの前駆症状があり,症例によっては眼がチカチカするなどの前兆を伴って頭痛が出現します。ここまでが前駆期で,次の頭痛期は一般的に軽度の頭痛で始まり,病状が進行すると中等度~重度となり,光過敏や音過敏が増強,悪心・嘔吐などを伴って国祭頭痛学会分類診断基準を満たすことになります。そして頭痛が頂点に達すると,中枢性のアロディニア(異痛症)を呈することになります。
つまり,一次性頭痛一元説では,頭痛が軽度の段階でおさまる場合は緊張型頭痛とみなしています。ひどくなれば片頭痛へ移行するということです。
頭痛が起こり始めた時、この頭痛がどこへ行くかはミステリーなのです。緊張型で終わるのか、緊張型頭痛経由片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。これは患者さんにも分かりませんし、医者にはもっとわかりません。(引き金がどの程度重なるかで左右されます。)
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合は、飲み慣れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30 分後に頭痛が悪化してくるようならトリプタン系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛と考えられますし、ご自分の経験上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリプタン系薬剤を服用して下さい。
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛は明確には、現実に区別できないということがお分かり頂けたかと思います。その理由は、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、頸椎レントゲン検査で、ストレートネックを高頻度に認めます。このため、このように臨床症状には、重複するものが多いということです。
片頭痛は緊張型頭痛と連続したものです。緊張型頭痛から、片頭痛へと移行して発症してくるということです。
ただ、なかには、ミトコンドリアの働きが極端に悪いような場合は、いきなり片頭痛のタイプから発症してくる場合も当然あります。この点も重要な点です。
このように、片頭痛にしても緊張型頭痛の場合も、どのような”症状”があるかということで「国際頭痛分類 第3版β版」という国際頭痛学会が定めた基準に従って診断されていますが、これまでも述べてきましたように、クリアカットには区別できません。この理由は緊張型頭痛と片頭痛が連続したものであるからに他ならないからです。
単純な表現をすれば、日常生活を送る際に、支障を来す程の激しい頭痛の場合は、片頭痛であり、支障を来す程でない軽い場合は緊張型頭痛ということになります。ということは、この中間に位置するものが当然存在するということに他なりません。
こうしたことから、実際に頭痛が起きた場合、今回はどちらの頭痛なのかを、その都度、自分で判断する必要があります。ここが実際の対処の仕方の難しい点です。
多くの片頭痛の方々は、「典型的な片頭痛」の経過を示し、「予兆期」に”生あくび”が出たり肩が異常に凝ってきたりというように”頭痛信号”を自覚されておられるようです。 こうしたことから、自分の「片頭痛の経過」を、あらかじめ把握しておくことが大切になってきます。そして、間違いなく「片頭痛の発作」であると判断できれば、即座に「トリプタン製剤」を服用することです。こうして、たちまちの発作に対処しましょう。こうしておいてから、予防・改善のための工夫をしていくべきです。
片頭痛も緊張型頭痛も共通して「頸部筋肉群の疲労」を基盤として発症すると考えられます。この根拠として、両頭痛に共通してストレートネックが認められる点です。
片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)のない場合は、首の筋肉のこりは、大後頭神経に痛みのみ起きることによって、純然たる「緊張型頭痛」を発症します。
片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)があれば、片頭痛の場合は、「セロトニン神経が働きが同時に悪くなって「痛みの感じやすさ」が存在するところに、首の筋肉のこりの刺激が、大後頭神経から三叉神経に絶えず刺激が送られ続けます。このため、「痛みの感じやすさ」がさらに増強され、常時、脳の過敏性が高まった状態が継続していきます。
片頭痛の基本的な病態は「脳過敏」(脳がちょっとしたことで反応しやすくなることです)にあるとされます。このように少なくともこうした3つの「脳過敏」を引き起こす要因が次々に追加されることによって、”緊張型頭痛”から”片頭痛”にまで進展していくことになります。
そして、「体の歪み(ストレートネック)」は、これら慢性頭痛の起点となり、慢性頭痛の骨格ともなるもので、慢性頭痛の基本的な病態となるものです。
こうしたことから、緊張型頭痛も片頭痛も連続したものであるということです。
そして、その共通する病態は以下の6つが挙げられます。
1.ホメオスターシス・・ストレスの関与
2.免疫(腸内環境)の関与
3.生理活性物質との関与・・脂肪摂取の問題
4.体の歪み(ストレートネック)の関与
5.セロトニン神経系の関与・・脳内セロトニン
6.ミトコンドリアの関与
以上のように、緊張型頭痛と片頭痛が別の頭痛であるといった考え方は、2000年に、日本にトリプタン製剤が導入された時点で、トリプタン製薬メーカーが、洗脳した”愚かな”専門医を介して、大々的にあたかも片頭痛と緊張型頭痛が”全く別の頭痛”と啓蒙活動を行ってきたことにその由来があります。
現在では、ネット上では、片頭痛と緊張型頭痛が全く別の頭痛とされるのが一般常識とされます。こうしたことは、専門医にまで波及させるほど徹底しています。こうしたことから、片頭痛が緊張型頭痛と連続したものでありながら、片頭痛と緊張型頭痛は全く別の頭痛であるとの考え方が専門家のなかまで浸透し、片頭痛と緊張型頭痛は全く別の頭痛であるとの”神話”を作り上げてしまったことを忘れてはなりません。
このようにして、慢性頭痛の起点ともなる緊張型頭痛を取るに足らない頭痛と考えさせることによって、片頭痛の病態解明を”闇へと葬むる”ことにしてしまいました。
片頭痛と緊張型頭痛が全く別の頭痛といった論点は、あくまでもトリプタン製薬メーカーの論理であり、慢性頭痛とくに片頭痛の本態解明を阻害してきた最大の原因があると考えなくてはなりません。このような事実を専門家ですら認識できていないことが、まさに憂うべきこととしか言えないはずです。