老神経内科医のボヤキ その8 ”腰痛” | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

首と腰はつながって動いている



 脊椎と骨盤とは非常に深い関係で結ばれています。仙腸関節を触りながら頭を動かすと、仙腸関節も動いているのがわかります。つまり、脊椎と骨盤にある仙腸関節とがコンビを組んで、お互いに連動しながら、頭や体の重みを支えているのです。
 このコンビは運命共同体のようなものです。すなわち、仙腸関節に異常があれば頸椎や腰椎にも異常が出ますし、頸椎や腰椎に異常があれば、仙腸関節にも異常が生じます。ですから、首や肩の不調の原因に仙腸関節が関係している場合は大変多いのです。また、仙腸関節の異常から、頭痛と腰痛の両方に悩まされているという方も多くおられます。
 仙腸関節の機能異常を解消する決めては、やはり関節内包矯正です。
 仙腸関節への関節内包矯正は、仙骨の位置を調整することによって行います。この仙骨は、脊椎を一番下で支えている土台のようなものですから、仙腸関節を開いて、これを的確に動かすことにより、腰椎や頸椎の微妙なバランスの歪みを正すことができるのです。
 言ってみれば、仙腸関節を動かすことによって、腰椎や頸椎を動かしているということです。仙腸関節に関節内包矯正を行うと、ストレートネックの人も元のカーブのある状態に戻りやすくなりますし、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアなど、椎間板の症状も解消させることができます。
 なお、仙腸関節に対するケアは自分でもできます。
 とにかく、この仙腸関節は、首から遠く離れていても、首に与える影響はとてつもなく大きいのです。例えば、腰痛の治療目的で、関節内包矯正を行いますと、肩こりまで解消する場合が多く経験されます。首と腰とはいつもつながって動いています。
 どちらかのバランスの崩れは、必ずもう一方のバランスの崩れへとつながります。


生物の進化からみた腰痛


 今から3億5000年前、生物がこの地球上に誕生しました。それ以来、生物は地球の重力に、ある意味では守られ、またある意味ではそれと闘ってきたのです。この地球の重力をいかに克服するか、これは生物にとっても重要な課題でした。
 一番手っ取り早い方法は、水中での生活でした。生物たちは浮力を使うことによって、重力から逃れ、背骨や筋肉を発達させてきたのです。魚類の背骨に彎曲が見られないのはそのためで、真っ直ぐになっています。
 さらに、生物たちは陸上の生活を試みるように進化が進んでいきます。すると、足が発達しました。そして、爬虫類では、腹部が地上から離れるようになると、背骨は力学的構造に順応したアーチをつくり始めました。哺乳動物になると、腹部は完全に地上から離れ、四足で大きな身体を支えるために、四肢がますます発達していきます。骨格や筋肉も強化されました。背骨か4本の頑丈な足に支えられて、重力に対する負担も軽くなりましたが、頭をもたげるために頚部の筋肉を発達させていきます。その後、類人猿が出現し、人類へと進化していくのです。
 そこで、二本足で立ち上った人間ですが、その背骨の変遷を人間の一生の中で見ていくと、その進化の過程をうかがうことが出来ます。
 生後、脊柱はC状のカーブを示しているだけです。それから3、4ヶ月に入り、寝返りや首をもたげる動作を始めると、頚部は前方凸のカーブを示してきます。お座りができるころには、腰部にわずかながら前方凸のカーブができ始めます。生後1年後くらいして、立ち上る練習を繰り返しているうちに、腰の前方凸カーブが完成され、S字状の脊柱カーブ、つまり人間特有の背骨(大黒柱)ができあがります。しかし、まだ完成された形ではありません。
 立ったり、歩いたり、人間としての動きが繰り返されているうちに、股関節や膝の関節も真っ直ぐになり、筋肉も立位を維持し、活動していけるように強化され、一人前の人間の姿が完成されるのです。つまり、上体を垂直にして立つ人間は、頚部と胸部と腰部に、交互に凹凸のカーブをつくり、力学的な負荷を軽減する構造になっているのです。
 こうして、二本足で立つ人間の腰には、前方凸のカーブができるべくして出来あがったわけですが、ゴリラや類人猿、あの北京原人でさえ腰のカーブをつくり、脊椎起立筋群は歩くことによって強化されていきます。現代のように歩くことが少なくなると、こうした筋群は弱体化し、あるいは退化してしまいます。文明の発展とは逆に、今度は腰や体の弱体化が進んでいくのです。腰痛はこうした必然性のもとにどんどん増え続けるに違いありません。
 また、脊柱にかかってくる負荷や背骨の故障は、脊柱が末梢神経を脊髄から分枝しているため、即神経のトラブルにもなるのです。人間は立っていること自体、すでに骨格や筋肉に生理的な緊張を強いています。それに加えて社会環境や労働環境のストレス、老化という身体の退行性があります。


 文明の発展とは逆に、今度は腰や体の弱体化が進もうとしている。


 直立二足歩行によって形成された脊柱のS字状カーブ。そしてそれを支える脊柱起立筋群は、歩くことによって次第に強化されていきます。しかし、現代人のように歩くことが少なくなると、こうした筋群は弱体化してしまうことになります。皮肉にも、二足歩行によって生まれたとも言える文明が、その加速度的発展によって、今度は逆に人間としての機能を低下させようとしているのです。


現代社会の腰痛


 姿勢を正しく保持するには、脊椎起立筋群の関与が重要な位置を占めています。


これまで当ブログでも明らかにしていますように、ここ50年間の間のうちに、活性酸素を異常に発生させる生活環境にあります。このため50年間の間のうちに正常人においてさえ、「ミトコンドリア自体の働き」が悪化していることから、「脳内セロトニン低下」と相まって、「体の歪み(ストレートネック)」を引き起こしやすい状況にあります。
 すなわち、脊椎起立筋群に対して、ミトコンドリアの働きの悪さは、”筋肉そのもの”への関与し、さらに脳内セロトニンは、”神経系の要因”として、関与しています。
 こういったことから、現代では、ストレートネックが日常茶飯事にみられるようになったわけです。このように考える限り、「ミトコンドリアの機能」「脳内セロトニンの作用」「体の歪み(ストレートネック)」の3者は、お互い密接な関与をしています。
 とくに、片頭痛の場合、生まれつき「ミトコンドリアの機能低下」の状態にありますから、こうした相互関係から、容易に「体の歪み(ストレートネック)」を来しやすいことになります。問題は、こうした「体の歪み(ストレートネック)」が以上のように”日常茶飯事”に見られるように現代ではなっていますが、その根源的な意味合いを考える必要があります。


 以上述べてきましたように、背骨は、ひとつに繋がっているものです。ストレートネックがあれば腰椎にも湾曲異常を引き起こします。ストレートネックを呈する方は、当然、肩こり・頭痛・腰痛を共通して訴えているのが普通です。「頭痛外来」では”頭痛”にしか目を向けず、トリプタン製剤だけを処方されます。そして整形外科ではMRIをご丁寧に撮影され、手術は必要ないが、”異常”ありといって、リハビリに通院させます。
 これでは、医療費は高騰するばかりです。なぜ、一連のものとして対処しないのでしょうか? ストレートネックを治してしまえば、頭痛は治ってしまうし、腰痛も酷くならずに、そのまま軽快してしまうはずです。


現在の問題点


 こうしたことから、日常茶飯事にみられる「体の歪み(ストレートネック)」を「頭痛・腰痛と関連のあるストレートネック」と明確に区別する診断基準が必要とされるはずです。このような基準は、当ブログでもお示し致しました。
 このような基準を作成することもなく、日常茶飯事にみられる「体の歪み(ストレートネック)」を「頭痛・腰痛と関連のあるストレートネック」とすべて一緒くたに、いわば”クソ”も”ミソ”も一緒くたに考えるために議論が進展しない根源となっています。
 こうしたことを、ひとつずつ解決していく必要があるはずです。これらが解決しないことには、慢性頭痛・腰痛の本態に迫ることは到底不可能と思われます。


頭痛専門医にとっては、「国際頭痛分類」に従って、単に症状だけから「頭痛の診断」を下しておれば、それで十分と考えておられるようで、ここに「臨床頭痛学」がいつまでも混迷を深めている最大の原因となっています。頭痛の根底に何があるのかという洞察をすることなく、上っ面にある”症候論”に終始する限りは、一歩も踏み出すことは不可能なはずなのに、どなたもこれを認識されないところに悲劇があるようです。
 「頭痛と首の関係」は、まさしく「慢性頭痛」の”根源的な鍵”を握っているはずです。


 いつも、頭痛と腰痛を同時に抱えておられる方々を診せて頂くたびに、以上のようなことを考えて、ボヤかざるを得ません。