肥満は片頭痛を悪化させる!? | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 この点は、片頭痛の発症要因を考える際に、示唆的なものが多く、取り上げてみたいと思います。
 皆さんは、片頭痛と肥満が関係あると考えておられますでしょうか?
 少なくとも、私には、信じられないことです。片頭痛の患者さんのイメージとしては、
なで肩でスマートな方々としか思い浮かびません。実際に多くの方々を診せて頂きましたが、この中で肥満の方は、日本では少なく、ピンとこないのではないでしょうか。
 ところが、竹島多賀夫先生の論文「片頭痛はなぜ慢性化するのか?慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の臨床とメカニズム」(臨床神経2010;50:990-993)には、はっきりと、片頭痛が慢性化するリスク因子として「肥満」、そして肥満と関連する「睡眠時無呼吸症候群」が挙げられております。そしてネット上では、すっきりんバイバイ頭痛講座 において以下”片頭痛になりやすい要因にはさまざまなものが知られていますが、肥満もそのひとつと考えられています。肥満はさまざまな生活習慣病の元になりますが、肥満の人は頭痛が慢性化しやすい、太っている人ほど頭痛発作が頻回に起きやすいということが報告されています。また、アメリカの研究では、肥満の子どもは頭痛になりやすく、頭痛を訴える未成年の若者にダイエットを勧めたところ、体重の減少とともに頭痛が軽減したという結果も示されています。
 日本人には海外ほど極端な肥満の人は少ないため、過度に気にする必要はありませんが”・・・と述べられております。

 肥満と片頭痛に関する研究は、日本では少ないためか、欧米での研究が多く、そのほとんどはBMIとの関係から、肥満度が増すにつれて、頭痛の頻度も程度も増加傾向にあるとされています。逆に、痩せすぎもよくないような結果が示されています。
 それでは、肥満が多く、片頭痛との関連を研究されておられる欧米人の片頭痛とはどのようなものなのでしょうか?


欧米人と日本人の片頭痛の差異


皆さんは、日本人と欧米人の片頭痛とは、異なっていることをご存じでしょうか。

まず、欧米人の片頭痛では小児で5 %、成人男性で15 %、成人女性では25 %にみられるといわれていますが、日本人では6~8%位ですので欧米に比べると頻度の少ない頭痛です。
 これまでこのような比較は寺本純先生がされておられます。欧米人との比較で、前兆のある片頭痛の場合、日本人では大半が視覚症状であり、欧米人では、視覚症状は40 %で、残りは、言語障害、体の半身のしびれであり、日本人では後頭動脈領域に、欧米人では、前頭動脈領域に痛みを訴え、欧米人では、80 %に吐き気、嘔吐を伴うのに対して、日本人では低いようです。
 欧米人では、わずかな光、小さな音、階段をゆっくり昇る程度の振動でも嫌がることが多く、頭痛を起こしていなくても、わずかな光、小さな音、階段をゆっくり昇る程度の振動でも、頭痛が誘発されることが多いのに対して、日本人では少ないようです。食べ物によって誘発される片頭痛が、欧米人では多いのに対して、日本人は少ないようです。
 発症年齢は、ともに20 歳前後とされています。
 薬剤使用率を見ると、日本人では、全体を平均して56.8%が市販薬のみで対処しています。医師の処方薬のみを使用している人は5.4%と極めて少なく、市販薬と医師の処方薬の両方を使用している人は18.6%で、薬を使用していない人は19.2%でした。アメリカの報告では、49%が市販薬のみ、23%が医師の処方薬のみ(このように日本人に比べ圧倒的に多いようです)、23 %が市販薬と医師の処方薬の両方を使用し、薬を使用していない人は5 %のみであることが分かりました。
 このように、欧米人の片頭痛は、日本人に比べて発症頻度も高く、さらに頭痛の程度・頻度も強度で・回数も多いことが指摘されています。そして、片頭痛と肥満の合併頻度は圧倒的に欧米に多く、日本人では、片頭痛と肥満の合併率は低いようです。
(米国人健常者のBMIは28.5、日本人健常者のBMIは22.7といわれていますので、これから推測しても、片頭痛に肥満が多いことは想像できると思います)
 このような背景をみますと、「片頭痛と肥満」が片頭痛の程度と何らかの関係がありそうに思えます。そこで、まず、以下の点から考えてみましょう。


まず、消化管の構造と機能の面から・・


”食べ物を食べてから便として排泄されるまでの時間”は24 ~ 72時間と言われます。
 日本人の場合、排便までの時間が平均で34時間から44時間(一日半から二日)、アメリカ人は70時間(約三日)、イギリスでは実に104 時間(四日以上)なのです。
ところが、食物繊維を多く食べるインドやアフリカでは欧米諸国よりずっと短く、10時間程度なのです。つまり、食物繊維を多く食べる国は排便までの時間が短く、肉食を主とする欧米では時間が長いという傾向があるのです。
 ところが、日本人の大腸の長さが約1.5m、欧米人で約1m。
そう、我々の方が1.5倍も長いのです。このように大腸の長さが、欧米人では日本人に比べ短いにも関わらず、食べ物を食べてから便として排泄されるまでの時間に差が見られます。これは、欧米人は、肉中心の脂肪分が多い食事ですが、日本人は昔から野菜や穀物中心の繊維が多い食事だったことに関係があるといわれています。
このように食事の内容によってこのような違いがあるようです。


食事内容による差は、何を意味するのでしょうか


 欧米人の”肉中心の食生活”は、マグネシウム不足をもたらすことになります。
 また、食品添加物、土・水・大気汚染などが、マグネシウムの働きを阻害しているとも言われています。
 牛乳、鶏卵、マグロ、牛肉の摂りすぎは「脳内セロトニン」不足を招くことに繋がります。
 さらに、脂肪の摂取量も欧米人では、数段日本人より多いものと推測されます。
 とくに、米国人のオメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸の摂取比もかなり高いことからも生理活性物質との関連が示唆されます。


肥満とミトコンドリア


 これまでの繰り返しになりますが、ミトコンドリアは細胞内に含まれる小器官で、細胞内に数百から数千個含まれており、私たちのエネルギーであるATPをつくることから、発電所と言われています
 ミトコンドリアは酸素を使って、脂肪からATPを合成しますが、運動不足などで酸素を十分に使えない状態が続くと、ミトコンドリアは機能低下に陥ります。
 すると、消費される体脂肪の量が減り、蓄積されるようになってしまいます。
 脂肪は体に悪影響を及ぼすホルモンを分泌するため、動脈硬化などを加速させ、血管が細くなり、さらに酸素不足からメタボリックシンドロームを悪化させてしまいます
 運動すると、筋肉の中で消費されるグリコーゲン、糖質、脂肪は、筋肉の中にあるミトコンドリアという細胞組織の中で燃やされています。このため、ミトコンドリア自体の量を増やせば、脂肪などを燃焼する場所が増えるということになります。
ミトコンドリア自体の量を増やすためにも、ウォーキング・ジョギング・サイクリングなど、長い時間続けられるような有酸素運動が、そういった意味でも中性脂肪を減らすためには、大切になってくるのです。
有酸素運動で、付けることの出来る赤筋でも基礎代謝量は上がるのです。
ミトコンドリアが働いてくれないと、体に入ってくる糖や脂肪はエネルギーに変換されにくくなってしまいます。
 ミトコンドリアは、食事から摂取した栄養をエネルギーに変えてくれるからです。
余った糖は血液に流れ込み、分解されていない脂肪は細胞に蓄積し始め、肥満へと繋がります。


~“安らぎ”と“満腹感”の深い関係「セロトニン」~


 セロトニンは、脳内の様々な神経伝達物質に作用して「精神を安定させる」役割を持っていて、実は「満腹感」を感じさせ、食欲を抑制する作用も持っているのです。強いストレスを感じたりイライラする時に甘いものや肉類などを食べたくなった経験はありませんか?セロトニンは、精神安定作用と食欲コントロール作用を合わせ持っているので、不足すると「精神的不安定」と「食べたい!」という欲求がよく連動して現れます。特に甘いものや肉類を食べると一時的にセロトニン分泌が増え、一時的でも気持ちが落ち着くのでこうしたものへの欲求が強くなると言われています。
 実は女性は男性に比べて元々セロトニンの脳内合成が少ないので、ストレスを感じるような状況におかれると、セロトニンが枯渇状態になって、情緒不安定になったり甘いものを中心とした過食へと走る行動が男性よりも強く出る傾向があります。その上「月経前の体調不良期(PMS期)」には、セロトニンの受け取りを阻害する物質が出るため、更にその傾向が顕著になるとも言われています。こうした情緒不安定&食欲亢進状態を落ち着かせて、食べ過ぎを防ぐためにはセロトニン分泌を増やして食欲を抑制することが効果的なのですが、甘いものや高カロリーの肉類を食べることで一時的にしのいでいたのでは結局は過食となり肥満を招いてしまいます。食べることで気を紛らわせるのではなく、十分に休息し、ストレス解消&気分転換を上手に行って気持ちを安定・リラックスさせることがセロトニン分泌増加につながり、過食を防ぐことになるのです
セロトニンによって各機能が活発化するので基礎代謝が上がり、脂肪を燃焼させます。
しかし、セロトニン量が不足すると、視床下部の満腹中枢への伝達が傷害され、さらに耐糖能も傷害されるため、肥満、糖尿病になりやすくなります。
 一見やせているように見えても内臓脂肪がたっぷりついてしまいやすくなります。
 このように、セロトニンの量が不足すると、食べても満腹感が得られず必要以上に食べてしまい、肥満になるといわれています。
かといって過度なダイエットは血糖値低下によって片頭痛の誘因となり、お勧めできま
せん。痩せ過ぎの人も片頭痛になりやすい可能性が示されており、どうやら急激な体重変化にも何らかの関係がありそうです。
 以上、「ミトコンドリアとセロトニンの活性化」によるダイエットが、肥満の防止と片頭
痛改善のために効果的と考えられ、適正体重を維持することが片頭痛の悪化を防ぐために重要であることは事実のようです。


 以上、肥満にはミトコンドリア、セロトニンがともに関与し、このため片頭痛を増悪させてくることになります。
逆に、ダイエットしすぎで痩せすぎになることも、同様の理由から、片頭痛を悪化させ
ますので、正しいダイエットを行う必要があります。



分子化学の立場からみれば・・


 分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は以下のような見解を示されます。

 近年の研究では肥満そのものが、慢性的酸化ストレス炎症状態を惹起することが明らかになっています。いわゆる、肥満であること自体が片頭痛を発症しやすくする要因であり、症状を増悪する要因となります。
 全ての哺乳動物に存在する脂肪組織は、余剰エネルギーを中性脂肪として貯え、空腹時などにエネルギーを再供給するだけのエネルギー貯蔵庫として考えられていました。しかし、近年の研究によりさまざまな生理活性物質(アディポカイン)を分泌する内分泌臓器として認識されてきています。
 脂肪組織には白色脂肪組織と褐色脂肪組織があり、褐色脂肪組織には20~40μmの数多くの脂肪滴と数多くのミトコンドリアが存在しますが、皮下脂肪組織や内臓脂肪組織を形成する白色脂肪組織には単一の脂肪滴のみであり、ミトコンドリアも存在しません。いわゆる、白色脂肪組織といわれる皮下脂肪組織や内臓脂肪組織は細胞核と一つの風船のような脂肪滴がおもな構造体となっています。
 白色脂肪組織の発育は、身体発育に並行し、ある時期に急速に増大します。第1期は胎生期の終わり3ヶ月と生後より12~18カ月であり、特に生後より急速な発育がみられ、生後1年間で体脂肪の絶対量は3~4倍に増加します。この間の、脂肪組織の増大には、脂肪細胞数の増加より、主として容積の増大が起きます。
 第2期は思春期で、男女とも思春期において脂肪組織の発育が著しく、特に女性は顕著であり、体重当たりの体脂肪量は男性の2倍にもなります。この時期の脂肪組織では脂肪細胞容積の軽度の増大とともにその数の増大がおもに起きます。その後は通常ほぼ一定の脂肪組織数が維持されます。
 白色脂肪脂肪滴の大きさは痩身者~肥満者で次のように異なります。

   肥満者:130~140μm
   日本人普通体重:70~90μm
   痩身者:70%以上が30μmに収斂する

 いわゆる、痩身者では白色脂肪細胞の中の脂肪滴は小さく、肥えるに従い脂肪滴は水を注入した風船のように膨らんでいき、140μm程度まで膨らむと満杯になってしまうというのです。
ここで、肥満初期(BMI:27)にはMCP-1(単球・リンパ球の遊走を引き起こすケモカイン)が脂肪組織に発現し、脂肪組織へマクロファージの湿潤を誘導し始めます。この湿潤してきたマクロファージよりTNFα(腫瘍壊死因子)が分泌されはじめます。その結果、悪玉アディポカイン(IL-6、レジスチン、遊離脂肪酸、PAI-1など)の分泌が亢進し、善玉アディポカイン(アデイポネクチン)の分泌が減少するため、全身の軽度の慢性炎症状態が誘導されます。
 さらなる過栄養が続くと、肥満度に比例しマクロファージの湿潤は増大し、脂肪組織において上昇した遊離脂肪酸とマクロファージが分泌するTNF-αの相互作用が起き、互いの炎症性変化を増強し(悪循環を形成)、慢性酸化ストレス・炎症状態が形成されます。
 皮下脂肪組織や内臓脂肪組織とアディポカインの分泌量の関係については、次のようにまとめられています。
 皮下脂肪:レプチン
 内臓脂肪:TNF-α、カテコールアミンによる脂肪分解能、アディポネクチン産生能、PAI-1産生能、アンジオテンシノーゲン産生能
 内臓脂肪多い:血清TNF-α上昇、空腹時インスリン増加、中性脂肪増加
 皮下脂肪多い:血清TNF-α変わらず、空腹時インスリン変わらず、中性脂肪変わらず肥満度の上昇に伴いで脂肪細胞は130~140μmまで肥大する(BMI:30)が、更なる過栄養が続くと、出芽、分裂し、脂肪細胞数が増加します。
そのため、一旦BMI:30以上の肥満、特にBMI:40以上の肥満になると、減量したからといって脂肪細胞数は減少することはなく、脂肪滴が収縮するだけのため、皮膚層が垂れ下がった襞状の体型となってしまいます。
 結局、肥満とともに「酸化ストレス・炎症体質」は悪化をたどり、減量することによりアディポネクチンなどの善玉アディポカインの分泌が増え、「酸化ストレス・炎症体質」は改善されていくことになります。

 以上述べましたように、肥満であることは常に酸化ストレス・炎症状態にあるといえ、片頭痛を起こしやすく、症状をひどくする要因ということになります。
 米国人健常者のBMIは28.5、日本人健常者のBMIは22.7といわれていますので、米国人の多くは既に「酸化ストレス・炎症状態」にあるといえ、米国人のオメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸の摂取比もかなり高いことから、健常人と定義されている人たちですら、慢性的酸化ストレス炎症体質であるということができると思われます。
 なお、米国人については皮下脂肪と内臓脂肪はほぼ正関係にあるようですが、日本人では痩せていても内臓脂肪は多いという方も多いようですので、日本人男性や閉経後の女性についてはBMIが低くとも(痩せてはいても)、内臓脂肪蓄積状態との関連で見ていく必要があります。