お話。 | cafe

お話。

黒猫をみた。
長く美しい尾を振りながら
僕を見つめる
『後を追って来い』
そう
誘うように


—彼女だ—



瞬間そんな思いに頭の中を支配され
突発的に追いかける
二度と放さない為に
後を追って
追って
追って
あと一歩
高く飛び上がった僕の手は
美しい尾を掴む事なく
全身を地面に叩き付けた
頭が痛くて
身体が動かなくて
目線だけを上げて見れば
静かに佇む彼女がいた

軋むような痛さに
涙が溢れ
その目で見つめる
静かに近寄る彼女は
僕の涙を舐め上げた
—キミはダレ?—
—キミはカノジョ?—
そう思いながら見つめると
彼女は口端を上げて微笑み
僕の耳元で声を上げる
—シッテルクセニ—
そう。
知っている
キミは彼女ではない
彼女は僕の腕の中で逝ったのだから
逝ったのだから
再び込み上げる涙は走り去るその子の後ろ姿をぼやかせ
更に彼女を思い涙を流す
もう二度と
舐め上げられる事のない涙を…。