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朝日新聞BOOK
http://book.asahi.com/reviews/column/2012072900007.html
■昭和の共同体的な成功哲学
「ごく普通のダメサラリーマン」の主人公は、大富豪の日本人「兄貴」に会いに、彼の住むバリ島に出かける。
本書は“もしドラ”や“夢をかなえるゾウ”のように、小説を通してノウハウを学び取っていくタイプの成功哲学本である。
“もしドラ”であれば、ドラッカーの経営学、“夢を~”であれば、成功哲学の定番がベースにあるが、本書のベースは実はビジネスとは関係ない。
「男気」という文字が印刷されたTシャツ姿の兄貴が説くのは「つながり・ご縁・絆」の大切さである。尊敬するのは詩人の相田みつをだという。つまりは“居酒屋のおやじの説教”なのだが、強いて言うなら“共同体主義”という考え方でもある。
共同体主義とは「自由主義」に対抗する政治思想で、家族や近所、宗教などの旧来の地域共同体を重視する考え方である。
ガッハッハと豪快に笑いながら説教をたれる兄貴は時折、本音を漏らす。アメリカ的合理主義が家族や仲間の関係性を希薄にしてしまった。日本人は大切な「情」を失ってしまったと。
会社帰りの赤提灯(ちょうちん)、休日は家族連れで野球大会。昭和の会社は家族的な共同体だった。これらは確かに、90年代以降に失われたものだ。社内の人間関係が元になった鬱(うつ)の急増が社会問題化しているという事実も、これと無関係ではない。
だが、それは家族的な会社に戻すことで治る性質のものだろうか。会社が家族的だった時代というのも、それはそれでうっとうしい社会だったはずだ。昔に戻れば良くなるというのは、改善策としては二流である。
“絆を取り戻せ”という兄貴のアドバイスも、現実逃避にいそしむ若者に夢を与えるかも知れないが、現代の企業社会に生きるビジネスマンの役に立つ可能性は低いだろう。
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出典 日本経済新聞2012年8月7日朝刊 第3面広告