ステレオ | 暮らしの中の陽明学

ステレオ

けだし言(ことば)は心の声なり。
ゆえに心あって言に発し、
言によってその心を知る。



 中江藤樹の『孝経啓蒙』の言葉です。声というのは、息です。体内でわき起こった息が声帯に当たって振動させることで声になります。では、息はどの様に発っするのかと言えば、脳幹の指令を自律神経が伝えることで発します。つい最近の研究で、呼吸器官が呼吸のリズムを発動する直前に脳幹の延髄に呼吸と全く同じリズムのシグナルが出ている事が発見されています。では、脳幹はそのリズムの根拠をどこに置いて判断しているのでしょうか?

人間の呼吸のリズムは、一分間に15回〜20回です。実はこのリズムは、海に起こる波のリズムとほぼ同じです。海の波は、地殻の振動、気圧の変化など様々な要因で起こりますが、大きな要因としては、海面を打つ風の力です。地球上で大気の流動が波のリズムをつくるように、人も気の胎動により息のリズムが決まるのです。極端な表現になるかも知れませんが、良知の周波数を受信すれば、良知の息となり、声となるのです。

と感じるものの、如何せん、周波数がなかなか合わない「おんぼろラジヲ」をどうしたものか?



◆ 徒然日記
 お亡くなりになった有名人のご遺族に取材をする記者が、「今の気持ちをお聞かせください」という紋切り型の質問をする光景をテレビやネットで目にされた方も多いと思います。その言葉には、遺族を労る「気」などさらさら無く、注目を浴びるリアクションを映像に収めたいだけという意図がありありとして分かります。視聴者の中には、こうした無神経な記者の素行に眉をひそめている人も多いのではないかと思います。画一化された紋切り型の質問というものには、心がこもっていない、つまり、良知が発言されていないと思うのです。

倉本聰さんの脚本によるテレビドラマに『北の国から』というものがありました。数あるシリーズの中で女優の中嶋朋子さんが子役として重要な役割を演じるドラマの撮影がありました。クランクアップの後、番宣の為、倉本聰さんと当時まだ子供だった中嶋朋子さんが全国を縦断するような形で記者の取材を受けることになりました。倉本聰さんの回想によると、どの記者も紋切り型の質問ばかりで、後半の方になると「また、同じ質問か?」と辟易とされていたそうです。そんな時、金沢のMROラジオ番組の取材を受けることになり、倉本さんは、どうせまた同じ質問だろうと半ば投げ槍な気持ちになられていたそうです。取材は、屋外で行われ、音響担当のスタッフがマイクを設定し終わり、いよいよラジオ番組の収録が始まろうという時、番組のプロデューサーが倉本さんと中嶋朋子さんに声をかけました。

「では、〇〇分後に戻ってきますので、それまで自由に話してください」

そう言ってプロデューサーと番組スタッフは皆いなくなったそうです。つまりそのプロデューサーは、番組の進行を自然に任せた訳です。番組では、紋切り型のインタビューからは引け出せない貴重な話がいっぱい収録できたことは言うまでもありません。