「アルミー…」
 
オレンジ色の照明の中でもわかる
腰辺りまで伸びた綺麗な白髪、
光に反射して輝く琥珀色の瞳、
細くて柔らかそうな白い肌。
 
僕は、つい、見蕩れてしまい
白髪の彼女と目が合った。
 
「ア、ア、アル、アルアルアルミ?
誰、これ、なにっ?」
 
白髪の彼女は僕と目を合わせたまま
わなわなと唇と体を震わせながら
アルミナさんに僕のことを聞く。
 
 
「地球人。日本人。もやしっ子。」
 
アルミナさんひどっ !!
 
「ちょ…えっとぼ」
「…もやしっ !!」
「ぐほぉっっっ」
 
自己紹介をしようと
試みたら白髪の彼女はいつの間にか
体中の震えが治まっていて
目をキラキラさせながら
僕に抱き着いてきた。
 
僕を押し倒すようにして
僕の上に乗かった白髪の彼女は
僕の胸元に埋まっていた顔を上げ
じーっと観察するように
僕の顔を見つめてくる。
 
前髪がぎりぎり
目にかかっているのが
なによりも救いで
少し、直視できないことに
後悔の念を抱いた。
 
じーっと僕を見つめながら
 
「これっ、もやしなのっ?」
 
ぶんっと音が聞こえるくらいの
速さでアルミナさんの方を向き
キラキラした粒子を振り撒き
らんらんたる声で再度確認をとる。
 
「見ればわかるだろ?
もやしっ子ってのは
そういう奴のことを言うんだ。」
 
そう、聞かされた途端。
白髪の彼女は、ばっ、と
僕に振り返り、突然
耳を噛んできた。
 
「…いっ…だぁああああい !!!!」
 
僕ははじめて、耳を噛まれました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「いくら私に見蕩れたからって
鼻血を出すのはだめじゃないか」
 
 
「…すみません」
 
僕は天井を見つめながら謝る。
 
 
「おや?否定しないのか。
やっぱり面白いな君。
ほら、少し痛いかもしれない」
 
ピリッと音が聞こえ
 
「いっ…!!」
 
鼻の頭に電流が
走ったような痛みがした。
 
「ごめんごめん。もう大丈夫。
これ、はじめてだった?」
 
顔を徐々に下げて
彼女の手にあるものを見る。
 
…ボールペン?
 
鼻血はこのボールペンのおかげか
すっかり治まっていた。
 
少し戸惑っていると
彼女が声をかけてくる。
 
「君、名前は?」
 
「あ…ゆぎと、星守靭人…です。」
 
下を俯きながら言うと
 
「靭人、ね。いい名前…?
私はアルミナ・ケレス・ハイリ。
なんとでも言ってくれ。」
 
…え?
アルミナ・ケレス・ハイリ?
名前が気になり
顔をあげて聞いてみる。
 
「えっ…と、あの…
外国の方…ですか?」
 
「そんなとこ。」
 
くす、とまた笑っている。
 
 
「じゃぁここは、外国ですか?」
 
「いや?外国と言うより内国。」
 
「内国?…つまり日本?」
 
「まぁ…そうかなー」
 
「じゃぁ、その…
アルミナ…さん?は
どこの国の人ですか?」
 
そう聞くとアルミナさんは
ため息をつき、やれやれという
そぶりをしながら
 
「質問攻めはさすがに危ないわ…
あ、いや、こっちの話だ。
気にしないでくれ。」
 
「はぁ…わかりました。」
 
 
一旦の沈黙がやってきた。
やはりここがどこなのか
僕は気になって
 
「あの、やっぱりこ」
ぷんっ…
 
突然、入口と思われる
ドアから人が入って来た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼女の話を聞くところによると
 
僕が居るこの場所は
異星なんかじゃなくて
 
僕の故郷の星、地球。
 
それの内側。
 
 
 
…内側?
 
地球の、内側…?
 
 
つまり土の中?
 
 
そんな馬鹿な話ないよね…
 
僕は7階から落ちたとき
土の中に入っちゃったとでも?
 
 
ありえないって。
 
 
一人、悩んでいるとほっぺに何か
棒みたいなものが刺さってきた。
 
 
「ありえないって顔、してる」
 
 
何か刺さっている方を向くと
 
僕のほっぺに人差し指を
刺しながら彼女は
くす、と笑った。
 
 
 
 
 
 
「…君、髪長いな。
こっちからじゃ目が見えないね。
君にはこっちが見えるんでしょ?
それじゃ、私の見られ損だ。」
 
と、言い、目を隠している僕の
前髪をくっと持ち上げる。
 
 
 
 
「あ、…ぅ、…っま、って…!!」
 
 
星を見るときだけ
仕方なくどける前髪が消え
僕の目の前を遮るものが無くなり
彼女の顔が、わずか30cmくらいの
場所で僕の顔を見据えている。
 
 
その彼女の顔が
いままで前髪で
ぼやけて見えていたのに
今ははっきりと見える。
 
 
 
前髪で見えにくかったのに
綺麗だとわかった彼女の顔。
 
はっきりと見てみると
より、綺麗な顔立ち。
 
白い肌から光が出ているみたいで
目の下にはこんぺいとうみたいな
形をした小さなホクロがある。
 
目尻はキリッとしていると
思っていたけど少し垂れていた。
 
 
「…。」
 
「君…」
 
 
彼女がにこっと歯を見せる。
 
 
「な…に?」
 
「鼻血出てるよ」
 
 
 
前髪を持ち上げている手とは
逆の手でピッと鼻の下を
指で拭かれた。
 
 
「ほら」
 
 
 
くすっと笑った
彼女の顔とは裏腹に
 
彼女の指には
真っ赤な僕の血がついていた。