DEER the bride's hood -2ページ目
なんで笑うんだ?
ここは異星じゃないってこと?
「じゃ、君の質問に
答えてあげようか」
散々笑っておいてから
真面目な顔で話してくる。
信用…していいのかな?
僕はいつの間にか
口いっぱいになっていた
生唾をごっくん、と飲み込む。
「ここはね、地球。
一度は聞いたことあるでしょ?」
だって君も住んでるもんね、と
オッドアイの彼女はくすくす笑う。
僕は顔がカァーっと
赤くなっていくのを感じながら
「そ、そうだよねっ !!
知ってるよ、そんなの !!
冗談。そう。ジョークだよっ」
必死に弁明する。
「でも。」
オッドアイの彼女の冷淡な声に
僕の熱くなった体が冷やされる。
「………な、に…?」
「今、君は地球の内側にいるよ。」
「……………はい?」
きっと僕は
ポカンと、口を開けていた。
「…うるさい。」
僕の頭が乗っている
太ももの持ち主が
あからさまに怪訝な顔を見せる。
赤い右目に比べて
黒い左目が歪んでいる。
…明らかに怒っていることが
太ももの上からでも見て取れる。
「………ご」
「柔らかい?」
言葉の上に言葉を重ねられる。
「…え?」
「太もも。君、寝顔が
気持ち良さそうだった」
慌てながら無意識に
太ももに置いていた右手で
自分の顔を触って確認する。
「…ご」
「そろそろどいて。」
また、言葉を遮られる。
僕は渋々、柔らかい太ももから
頭を離して太ももの彼女の右隣に
座るような形であぐらをかく。
「…。」
「…。」
沈黙。
僕は目の前の景色に
意識を向ける。
壁(?)…は茶色くて
ボコボコとしている。
床も茶色いけど
フローリングとは違う。
平らな土?みたいだ。
僕と太ももの彼女、改め
オッドアイの彼女がいる場所は
ベッドよりもずっと柔らかくて
低反発素材に似たような感触。
でも、絨毯みたいに薄い。
壁の左側には部屋の入口…かな?
人が普通に通れそうな大きさで
薄くて白く霞んで見えるドア?が
閉まっているみたい。
よく見るとその先に空間がある。
右側には…望遠鏡がある。
それも、僕が持ってるのと
同じ型の望遠鏡だ。
「てか、あれ僕のじゃね?」
いつものように
独り言を呟くが
返事がくる。
「そう。君と一緒に落ちてきた」
「…落ちて?そうだよ !!
僕、落ちたんだよ !!
しかも7階から !!
なんで生きてるの !?
というよりここはどこ !?」
彼女のほうに顔を向け
一息で一気に話す。
するとオッドアイの彼女は
また、顔を歪めた。
「………ごめ」
「なにが知りたい?」
僕をからかうように首を傾け
赤い瞳で僕を捉えながら
赤い絵の具みたいな唇を
ニッと軽く釣り上げる。
白い髪が揺れる。
「あの…ここは異星ですか?」
さっきから見るものは
はじめて見るものだ。
現実よりもSFアニメに
出るような部屋に似た部屋。
きっとここは異星なんだ。
「…くっ…くくっ。
あははっ !!
…。面白いね、君。ふふ…」
会って間もない人に、
それも同い年と思われる
女の子に爆笑された。
たぶん、落ちる前の僕。
いつもみたいに
今日の曜日もわからず
ベッドから起き上がると
すぐにパソコンと向き合って
姿の知れない女の子と
恋愛チャットをはじめる。
『ユキナ、ちゅうしてよ』
画面上の彼女、ユキナに
いつものように話し掛ける。
『今、学校だからだぁめ』
『別にへーきだよ』
『私、靭人みたいに
ヒマじゃないの~』
『俺だって学校だし~』
『じゃ、今はリアルを楽しもっ
またね、靭人っ ちゅっ ///』
『…うん。また、夜ね』
チャットをやめ
パソコンの日時表示を見る。
そっか、今日は月曜日か。
みんな、学校なんだ。
月曜日は僕が一番嫌いな曜日だ。
特にすることがないから。
「……アニメ見よ」
人と暫く話さなくなってから
必然的に独り言が増えた。
パソコンをいじって
一日を潰そう。
暫く時間が経つと
コン、コンコンと
昼飯が運ばれてきた合図がした。
「ゆ、ゆぎと…?起きてる?
お母さん、ちょっと出るからね?
ちゃんとご飯食べるのよ?
学校…行きたくなったら
いつでも行っていいからね?
じゃぁ…行ってきます。」
弱々しい母さんの声。
前までは
「靭人、勉強をしなさい。
勉強をして、いい大学に入って
いい会社に就きなさい。
頭の良いあなた。
それだけが私の自慢よ。」
が、口癖だった母さん。
僕が部屋に閉じこもるように
なってから急に態度を変えた。
パソコンをいじりだして
何時間経っただろうか?
日時表示を見ると
21時を示す少し前だった。
「…っと、そろそろだ」
パソコンをスリープ状態にして
14歳の誕生日に買ってもらった
望遠鏡を取り出しベランダに出る。
今の季節の一等星を見つけ
ネジを回してピントを合わせる。
この時だけは
生きててよかったと思える。
あの、美しくて綺麗な光は
幾年も昔の光で
現在の光ではない。
過去の光が僕らの現在にある。
その光がこんなにも美しい。
僕は思わず手を伸ばしていた。
夢中で手を伸ばす。
もう少しで届く。
次の瞬間
僕はベランダから落ちていた。
7階から真っ逆さまに落ちて
生きているはずがない。
あぁ…呆気ない人生だったな。
最後に、願いを思い出す
逆さまになった一等星に向けて
僕は願う。
「僕を異星に連れていって。」

