ニキビ跡が消えない。中学生の時、修行のように毎日潰したニキビが祟っている。女の子に「顔、汚いよね」と真顔で言われた。ほっぺたに残った痕は、えぐり込むように冴えなかった暗い青春の残り香だ。
人生も半ばも過ぎて、もう終わらせてもらえないか。わずか1mmにも満たない凸凹、消えないものなのか。
美容皮膚科にはダーマローラーという技術があるのだそうだ。小さなローラーに極小の針が200本。それで顔をテニスコートのようにゴロゴロとするという。痛そうだ。痛くないのか?
「ちょっとした拷問ですね」
ウォブクリニック中目黒の高瀬院長は、長身の美女である。にっこり笑って、
「砂利道で、10回ぐらい顔から転んだ感じ? そこに剣山が落ちていた、みたいな?」
絶対、この人は医者じゃなきゃ女王様やってたと思うんだ、五反田で。
ダーマローラーは創傷治癒、怪我したら傷が盛り上がって治る性質を使って、皮膚を持ち上げてしまおうという荒業である。
「真皮に針が刺さって、コラーゲンが再生してニキビ跡を押し上げるんですね」
まず顔に皮膚を麻痺させる麻酔クリームを塗る。このクリームのおかげで施術中の痛みはほとんどないらしい。
「ザクザクザクって音はしますけどね、針の刺さる音が」
先生、その憐れむような目は何?
血は出るのか?
「真皮まで浅く突き刺すだけなので、細かい血管が少し切れるぐらいですぐ血は止まります。ビンタ百回やられたぐらい、赤くなるだけですよ」
ビンタ百回……あの、そこで遠い目をしないでください。
麻酔クリームを塗られて20分。皮膚の感覚はある。あまり効いた感じはしない。
次にニキビ痕を中心に両頬に栄養クリームを塗る。ヒアルロン酸や細胞成長因子の入ったクリームで、傷の回復を早める。
高瀬院長が長い指にパチンとゴム手袋をはめた。
「では始めましょう」
ローラーが頬に触った感触に緊張した。麻酔、本当に効いているのか?
ゴリゴリゴリ。うん? あれ? 痛くないぞ。全然、痛くない。
「大丈夫ですか?」
痛くないです。
「チクチクもしませんか?」
全然しません、まったく大丈夫……今、力込めました? ローラーに込めました?
施術自体は15分ほどである。頬を何往復か、針が皮膚にザクザクと突き刺さっているはずだが、寝ているとわからない。最後に冷タオルで熱を取ったら終了だ。
鏡を渡されると、ほんとだ、赤い。変な格好で机に突っ伏して寝ていたみたいだ。しかし血はまったく出ていないし、痛くもない。拍子抜けだ。これなら会社員でも、土日を挟めば問題なく治療を受けられる。
「1カ月1回のペースで3~5回、受けていただくとキレイな肌になりますよ」
だいたい1カ月ぐらい経つと肌に張りが出るという。料金は1回3万1500円(両頬・回数割引あり)。
翌日、麻酔が切れて日焼け後のようにヒリヒリする頬は心なしかつっぱって、治る予感がする。
小学生以来のピカピカ肌が帰ってくる? 今さらモテ期が来ても困るなあと、鏡で赤い頬を見ながら一人でニヤついた。
問い合わせ先:ウォブクリニック中目黒 http://www.wove.jp/
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