そういえば、週刊大衆増刊ヴィーナスで「西川口オカルト科学研究所」という連載を始めたのだ。

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博士:おお、これが2人を殺したという“呪いの雛人形”か!

 怪談蒐集家の西浦和也氏からガモ博士が人形の話を聞いたのは半月前のことである。

 両親が娘に雛人形を買ったのは40年近くも前のこと。毎年飾っていたが、ある時、気が付いた。人形に歯が生えている! 人形の顔も醜く変わっている気がする。気味が悪くなり、納戸にしまい込んだが、昨年、父親が納戸の掃除で見つけた。

 そして怪異が始まった。

 処分しようと故物業者を探し始めた父親が、その夜のうちにポックリ死んでしまったのだ。さらにそのひと月後、父親の遺品整理で雛人形を見つけた母親も、処分の手配をした翌朝、クモ膜下出血で死亡。両親をなくした娘は、何かおかしいと拝み屋を呼んだ。

「拝み屋が言ったそうなんですよ、この家に人形があるはずです」
 と西浦和也氏。拝み屋はお札を貼っただけで逃げ出し、西浦和也氏が引き取った。
「夜、カタカタ動くんですよ。あとお線香みたいな臭いが部屋中にするんです」
 そんな“呪いの雛人形”が研究所に到着したのだ。


子どもの観察(ピカピカの1年生編)

博士:これがそのお札? こんなの、効くのか?
助手:月刊ムーの御札特集に同じものが載っていたそうですよ。

 ダンボールの箱を開け、詰め物を取り除くと出てきたのは2体の雛人形。たしかに1体には歯が生えている。しかしガモ博士はガッカリしたようだった。


子どもの観察(ピカピカの1年生編)

博士:もっとキバっぽいのかと思ってたよ。これじゃ森の子リスだ。
助手:たしかに歯がチャームポイントになってますね

博士:助手くん、今回、私は人形がなぜ動くのかを突き止めたいと思う。本当に動くなら、人形を動かす力が働いている。それが人形自体から発生しているのか、外から来ているのかを確認する。その上でその力が何なのかを突き止めたい。

助手:可能性としては電磁波ですか?
博士:ああ、たしかに幽霊の正体は電磁波かもしれない。ローレンシア大のマイケル・パーシンガーは、磁気で脳の側頭葉を刺激するデバイス『ゴッドヘルメット』を製作したが、使った80%の人が目に見えない何かを自分の周りに感じ、1%の人は至高体験、すなわち神を見た。だがそれはあくまで脳の中だ。動く人形とは原因が別だろう。

助手:博士はどんな力だと思っているんです?
博士:電磁波で物が動くなら、物自体が帯電しなければならない。この人形のような布製の物体を動くほど帯電させたら、放電が起き、発火する。

助手:電磁波ではない? では何だと?
博士:ダークマターだ。宇宙の95%を占めるダークマターは電磁波とも弱い力強い力とも作用しないが、重力とは作用するらしい。

助手:重力なら物を動かすのは簡単ですね。
博士:そういうことだ。人形が動けば、ダークマターの性質を解明できる!
助手:物理学の新しい夜明けですね、ガモ博士! で、何をしているんです?

博士:砂鉄を撒いているんだ。ぐるっと砂鉄で囲んでおけば、外からの力が電磁力なら砂鉄が乱れるからわかるだろう。
助手:ああ、だから昨日、公園の砂場に磁石を……これはドライアイス?

博士:ドライアイスの煙で包んでしまえば、煙の乱れで力の方角がわかるはずだ。
助手:昭和の結婚式みたいになってますよ、雛人形。

子どもの観察(ピカピカの1年生編)

博士:さあ、動いてくれ、ノーベル賞が我々を待っているぞ!……助手くん、ドライアイスの湯気が止まった。お湯をかけてくれ。
助手:あの、根本的に間違っている気がするんですが……これ、何時間ぐらい待ちます? 
博士:最低24時間は欲しいな。
助手:24時間、ひっきりなしにお湯をかけては人形が動くのを待つ?
博士:! ああ、そうか!
助手:わかっていただけましたか? そんなに人がチョロチョロしていて人形が動くわけないですよね? 物の動きを見るなら、無人でレーザーセンサーや圧力センサーの、
博士:そうだ、まずはドライアイスにお湯をかけるマシンを作ろう!
助手:そ、そう来たか。

 マシンを作っている間にドライアイスが蒸発、結局、雛人形は何もしないまま倉庫にしまわれてしまった。熱しやすく冷めやすいいつものガモ博士と助手くんなのである。

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