「峰岸君と言ったね。用件は何だね」

峰岸と峰岸の上司の前にスーツ姿の人物が机の向こうにいる。


机には「厚生労働省審議官」と書いた札が置いてあった。


「はい。現在未知の感染症が蔓延しています。早く対策を打たなければ大変な事態になります」


審議官は鋭い視線を峰岸に投げつけ腕を組んだ。


「対策か・・・・・・・・・・」


「はい。現在N県県立病院にて、多数の患者が収容されています」


峰岸は続ける。


「感染者の年齢は広く分布しており、したがって若年、後年による免疫力に影響されるものではないと判断しております」


「それは、ウイルスや細菌によるものかね」


「いえ、分析の結果によると新型のアオコかその派生型だと思われます」


「アオコか、県立病院の記録はあるんだろうな」

「はい。またリアルタイムで情報をやり取りする事も出来ます。」


「わかった。まず現場の現状を知りたい。今会議室につなげれるか」


数十分後


峰岸は、会議室に機材を持ち込みN県県立病院の回線につなげた。


会議室からでると審議官、上司と共に他の部局の面々も会議室に入室する。

審議官から順に着席するとまわりを一目すると


 「現在、N県立病院で緊急事態が起きている。その現状を把握するために皆に集まってもらった。ではたのむ」

とよく通る声で言った。


「はい」返事をしたのは、峰岸の上司である。

「今から、3週間前病院から通報がありました」

「私は、並木、峰岸両名を派遣、そして現状を報告に峰岸が戻ってきました」


「峰岸君」


「はい、私、並木両名が病院に着いた頃すでに感染者数名は隔離処置がなされていました。第一患者の容態は高熱、吐血を繰り返している状況で、私たちも直接患者に居合わせる状況ではありませんでした。」


「私たちは、その間も収容されてくる患者の状況を鑑みこれを非常事態と受けとめ

並木の判断により血液分析を開始、結果新種のアオコの特定にいたりました」


「アオコ?」

少し顔を傾けた職員に対し峰岸は、水の表面に生息する微細藻類の生物です。

日本にも珍しいものではありません。ですが今回の場合はと向きを変え、峰岸は、用意してきた端末のキーボードを叩くと会議室のモニターに川一面の画像に切り替わった。


「これが現在N県県立病院ほか周辺の河川の状況です。」


河川全体に粉を撒いたかのようにあたり一面が緑色になっている。よくみると鮒が浮いていた。


「これがどのくらいの規模に広がっている」


質問された峰岸は、またキーボードを叩くと画面が切り替わり、地図が現れた。


「観測された時点でですが、小学校、病院、公園あと河川をそれぞれ線で結ぶとある形が出来ますそれを同心円に変換すると」


地図に線が現れたかと思うとそれを囲う形で円が広がっていった。


これは、目撃された地点を中心に現したものですが、時間と共に小さい点が地図に着けられそれが集まって大きい円になった。


時間の経過と共にその円が肥大して行きやがてN県全体を覆い尽くそうとした時その表現は誇張じゃないかと声が聞こえた。


「いいえ、時間と共に大きくなっています現に私は、病院から出るとき河川一面が緑色になっている光景を見ています」


峰岸は、少し声を上げると審議官が現地との連絡は、と尋ねた。


「少しまってください」


峰岸は、スピーカーとマイクを置くと回線につないだ。


「はい。」


画面に並木の顔がでるかなり疲れが出てきている。


「並木さん、今省庁にいます。ここは会議室です。審議官、その他部署から招集され今対策会議を開いています。そちらから情報を与えていただけませんか」


並木の顔に一瞬だけ安堵がめぐるとすぐに深刻な顔に戻り最初に搬送された患者が死亡したと告げた。


「現在、対症療法で何とか持ち合わせていますが、医薬品、人員の数が圧倒的に足りません。援助を願います」


審議官は顎に手をやると、俯いた。


「お願いします。こちらは、はっきり言ってもう限界だ。看護師、医師の疲労も限界です。ただちに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


画面から並木が消えた。そして何か悲鳴のような声が聞こえてくる。

かなり若い人間の声だ。内容が聞き取れない。

スピーカーのボリュームを上げていくと。


「人、人か、人から、芽が生えてきてヤガる」


その声が聞こえた後、送信が途絶えた。