1978年8月に公開された「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」は、故郷の映画館で比較的早い時期に観たと思う。映画館は満員で、席に座れず、一番後ろの通路での立ち見だった。映画館なんて滅多に行けるものではなかったが、終幕で泣いたのを覚えている。この時点では、本当に「さらば」だったからだ。
ところが、何箇所か記憶にあるシーンが、今回の4Kリマスター版には無い。例えば、ヤマトへの復讐に出撃したデスラーへの監視を命じたサーベラーに、ズォーダー大帝が「女だな、サーベラー」と言うシーン。
Wikipedeiaによると、どうも「さらば宇宙戦艦ヤマト」は公開初期(自分が観た)のバージョンと、現在、流通しているバージョンがあるらしい。ただし、前者については公式情報が無く、自分のような一部観客の「記憶」や「証言」しか無いらしい。
オールナイトニッポンのラジオ版「ヤマト」や、その年の秋から始まったTV版「ヤマト2」には当該シーンがあることから「記憶の混同では?」と思われるのも仕方がないが、しかし、今回の4Kリマスター版では、シーンの繋ぎが不自然な箇所がある。
(1)無人のヤマトの第一艦橋で古代が沖田十三の幻を見た後、計器類が作動
4K版ではそこで、次のシーンに移る。これはこれで、ヤマトの死出の旅路を暗喩しているようで、じ~んと来るのだが「宇宙海賊キャプテンハーロック」のアルカディア号のように、艦に魂がある設定なら問題ないが、ヤマトはそうではない。この箇所については、初見時にどうであったかの記憶はないが、Wikiによると徳川機関長が現れて出発の準備をしていたと分かるシーンがあったそうだ。
(2)惑星テレザード上陸作戦の多弾頭砲の登場
テレザードに駐留していたザバイバル将軍の戦車軍団の襲撃を受けた、空間騎兵隊の斉藤の要請を受け、古代と真田が多弾頭砲を積んで揚陸艇で降下してくる。記憶ではここで真田が「組み立てに時間が掛かる」と説明し、その時間稼ぎのために、空間騎兵隊は生身で戦車に取り付いて必死に戦う。つまり、多弾頭砲の登場までに「溜め」があったのだ。だから、真田が「出来たぞ」と言って、巨大な多弾頭砲の姿が映った時に「おぉ!」という驚きと「これで逆転できる」という安心感を覚えたのだ。
4K版では「溜め」が無いため、多弾頭砲の登場があっさりしたものになっている。
(3)テレサ初登場シーン最後の斉藤の涙
テレサが発したメッセージは宇宙を救うためのものだった。ここで真田が「宇宙の愛か」とつぶやく。このシーンで斉藤は涙しているのだが、4K版では真田のつぶやきで終わっており、斉藤が泣いている意味が分からない。
斉藤はこのシーンの前に、敵のザバイバル将軍と1対1で戦っており、将軍の銃を奪って、直接、銃身を将軍の胸元にあてて引鉄を引いている。きっと、これは斉藤にとって初めての直接的な「殺人」であったに違いない。彼はその場で銃を捨て、無言で立ち尽くす。その姿を映して、画面は次の場面(テレサが幽閉されている鍾乳空洞への古代と真田の侵入)へ切り替わり、二人の空洞侵入後、斉藤も合流する。
つまり、斉藤の心は傷ついていたのだ。そこに「宇宙の愛」を説くテレサの言葉を聞き、女神のような姿を見た。だから「(心の広い)いい女じゃないか」と涙を流しながら言ったのだと思う・・・正確なセリフは覚えていないのだが、このセリフがあって初めて、斉藤の涙の意味が分かると思う。
何しろ45年前の出来事である。自分が観たバージョンのフィルムが発見されない限り、真偽は永遠に不明だろう。しかし、自分の中の「さらば」にはそれらのシーンがあるのだ。4K版を見る際には、少しばかりの記憶補正を加えながら、往時の少年の感動を楽しむことにしよう。