続きです↓



エコー室に入ると見知らぬ先生と、おそらく研修生であろう先生が5〜6人もいた。
それに加え看護師さんが2人。ただのエコー検査なのにこんなに人が居るのは驚いた。

“大学病院だから実習とか研修とかで、いっぱい人がいるのだろうな”

そんな風に思いながら、エコー台に横になる。カーテンはなく、大勢に囲まれながらお腹を出すのはなんだかとても恥ずかしい。

中でも特別偉そうな先生が私に挨拶をする。
どうやらこの産婦人科のお偉い教授だそうで、先生や看護師さんからも張り詰めた空気感を感じた。
初診でお世話になった先生も、この教授には頭が上がらないようだった。


そのお偉い教授が私のお腹にエコーを当てる。
画面には昨日と同じ頭の大きな赤ちゃんが映し出された。
今日も元気。よく動いた。

画像は赤ちゃんの頭にクローズアップされ、やがてカラーのエコー画像へと切り替わる。

そこで教授は驚きの事実を口にした。


『あぁ…これ脳腫瘍だね』

『赤ちゃんの脳に大きな腫瘍、つまりガンができてる、◯◯さん、これはとっても稀な事なんだけど、赤ちゃんの脳にガンがあります。それで頭が大きくなってるみたいだね』

“え?  ガン? 赤ちゃんの脳に…ガンが?”

“全前脳胞症じゃなかったの?”

《ガン》という言葉に少し驚いたけれど、あの異常なまでに大きな頭・明らかに形の不明瞭な脳みその画像になんだか納得がいった。

続けて教授は
『どちらにせよ処置する事には変わらないけれど、お母さんへの転移も心配だから赤ちゃんの詳しい検査をした方がいいと思う』
『とても珍しいから、前例が分からないけれど、お腹から出てきたら病理検査をして、詳しく調べた方がいいね』
そう言った。

転移と言われ少し怖くなったけれど、転移の可能性は極めて低いという言葉に救われた。
 
胎児の時、赤ちゃんに脳腫瘍が見つかる事はかなり珍しい事なようで、教授も先生も、更にはその後ろに立つ研修生達も食い入るように私のエコーを見ていた。

「赤ちゃん、ガンがあって痛くないんですか?  脳にガンができても頑張って生きているのですね」

私がそう言うと

『おそらくの話になるけれど、痛みは感じていないと思います。赤ちゃんはとっても強いから、例え脳が発達していなくてもお母さんのお腹の中では生きていけるんですよ。でも外に出たら、やっぱり生きてはいけないでしょうね。残念ですが』
教授がそう言って、その後は学生に私の赤ちゃんのエコーを見せながら解説を始めた。

大勢に囲まれながらしばらくエコーの検査が続き、ようやく解放される。

その後診察室に移り、今後の処置についての説明を助産師さんが丁寧に説明してくれた。
明日は子宮の入り口を広げる処置をするようだ。
しっかりと開いたら後、その翌日がいよいよ出産となるとのこと。


検査が終わり、やっと自分のベッドに戻ることができた。
ホッと一息つく、そしてまた検索の鬼と化した…。

いくら調べてもなかなか胎児の脳腫瘍については出てこなかった。
新生児、つまりは生まれてしばらくしてから脳腫瘍が見つかる事はあるようだが、やはりお腹の中にいるうちから脳腫瘍が見つかった例は出てこなかった。

“更に珍しい病気なんだ…”

“こんなにも珍しい病気に、しかも自分がかかるなんて、私はなんてくじ運が悪いのだろう…いや、引き当ててしまったのだからくじ運はいいのか?”

そんな事を考えながら、どちらにせよやっぱり赤ちゃんは諦めなければならないのだと改めて思い知らされた。


夕方過ぎ、旦那さんが面会に来てくれた。
赤ちゃんの脳にガンがあった事を伝える。

『赤ちゃん取り出して、脳の手術してまた元に戻したらいいのにね』

笑ってそう言ってくれたけれど、やっぱり悲しそうだった。
辛い現実、それと向き合い受け入れ、明日からの出産へと気持ちを切り替える。
泣くだけ泣いた。

だから後は精一杯頑張ろうと心に決めて眠りについた。