2020簿記論(第70回)の受験感想の合間に、閑話休題

 

 簿記系試験の難易度比較。

 

 ネットでよく比較されるのは、税理士試験の会計科目(簿記論・財務諸表論日商簿記1級との比較である。

 (自分自身は、財務諸表論(合)、日商1級(合)、全経上級(合)、簿記論(結果待ち))

 

 

(1) 問題の難しさの考察 

ア 個別問題(簿記論VS日商)  

 簿記論の方が「やや」難しい

 特に、推定問題(パズル問題)と構造論点(本支店会計、キャッシュ・フロー計算書など)は、簿記論が難しい。 

 ただし、連結会計については、簿記論での出題は少なく、捨て問扱いを推奨するクレアールのような予備校もある。連結に限れば簿記論で出題があったとしても基本問題であり、日商の方が難しい。税理士試験は中小企業の経理、日商1級は大会社の経理を想定しているからだろう。

 

イ 総合問題(簿記論VS財務諸表論VS日商)

 簿記論の方が難しく、財務諸表論と日商はイーブン

 日商では、連結の総合問題の準備をする必要がある。

 簿記論の問題指示は、日商から勉強をスタートし簿記論に移行した者にとっては、独特である。

 解答に行き着くための指示が、バラバラと複数ページに散らかっていることも当たり前にある。

 特に商品の問題は、資料や文章が読み取り辛い。解答に不要な情報が多く含まれる。

 そいういうことがあり、日商だけの試験対策では、簿記論の問題は解けない。簿記論の過去問を繰り返し、慣れる必要あり。

 

ウ 理論問題(財務諸表論VS日商)

 財務諸表論の方が難しい。合格には、財務諸表論はベタに近い理論暗記を要するのに対し、日商は穴埋問題がメイン。財務諸表論は、より多くの勉強時間が必要である。

 理論出題が多い全経簿記上級合格者であっても、時間をかけて暗記対策しなければ、財務諸表論の答案作成は無理である。

 公認会計士(短答)合格者も、理論暗記をしていないだろうから、無理だろう。

 

 

(2) 全体的な問題の量

 圧倒の簿記論>>>財務諸表論>日商

 

 簿記論を時間内に解ききれたことは一度もないし、トレーニングして出来るとも思わない。

 毎年、第3問では、法人税等調整額とか法人税(98%の人が解けないだろうに)が出るのだが、出題する意図は不明。

 3つの中で、一番問題量が少ない日商は、当初は時間が不足するが、トレーニングすれば、時間内で何とかなるかもしれない。

 ちなみに、自分は、日商に合格したときでも、時間は全然足らなかった。

 

(3) 合格率や受験生のレベルの比較

ア 合格率について

 試験の「合否の難易度」を決めるのは、試験問題の難易度ではない。

 「合格率」と、「受験生のレベル」が大きな影響を持つ。まず、客観的なデータがある合格率は、日商は10%程度、簿記論・財務諸表論は12%から20%である、

 

 

イ 受験生のレベルについて

(日商受験生)

 受験生のレベルは、推定するしかない。日商の試験範囲は、公認会計士試験でカバーされていることもあり、会計士受験生が混ざっている。これらの会計士受験生は、かなりの時間資源を勉強に投下しているので、その合格率は、その他受験生より高いと思われる。

 このことから、日商の合格率は10%程度であるが、会計士受験生を除く合格率は、10%を下回る。つまり、日商1級ゴールの受験生の合格率は、数%しかない。ただし、どの程度なのか、データがあるわけではない。

 また、日商試験の性質上、会計士受験生以外の、「その他受験生」は、ほぼ全て日商2級合格者である。その中で、1級まで受けるという意思決定をし、受験まで辿り着いたモノ好きだから、ある意味それなりの猛者である。

 

(税理士受験生)

 一方、税理士試験については、多くの受験生は、(税法科目ではなくて)簿記論や財務諸表論の科目から受験していく。

 税理士受験生は、一度、社会に出て、環境につまづき、(さらに、予備校の罠にハマり)「資格をとって逆転だぁー」、という人が多い。学歴は様々であり、試験ビギナーも多い。

 

 簿記論・財務諸表論の予備校コースは、日商2級レベルの知識を前提としていることも多く、2級合格程度のフルイには、かかっていると思われる。ただし、日商1級合格者は、少ないだろう。1級には、工業簿記、原価計算が試験範囲に含まれ、この勉強には、相当の時間が必要だ(感覚的に合否レベル到達までに300時間くらい。そこから何回か落ちる。)。

 自分なら、受けない。ついでに受けるには、遠回りすぎる。

 

(受験生のレベルまとめ)

 受験生の元々のスペック的には、日商の方が高いように思う。しかし、ここで検証すべきは、簿記試験の試験スキルである。

 簿記に対する「懸命さの面」では、将来の収入、資格に直結する税理士の方が高いだろう。

 色々と書いたが、受験生のレベルはイーブンと判断する。

  

 

(4) 総合比較

 まず、「試験問題の難易度と量」の観点からは、

 日商商業簿記=財務諸表論<<簿記論

 日商会計学<<財務諸表論

 

 であろう。

 

 

 次に、合否の難易度の大きな要素となる受験生のレベルはイーブン。

 合否ラインは、日商1級70点に対して、簿記・財務諸表論は60点であるが、いずれも相対で合否を決めており、上位の一定割合が合格すると言われる。つまり、難易度で、毎年の合否ラインが変化する。

 合格率と試験問題の難易度から考えるに、「日商の方が合格と判定されるのに必要な正答率は高い」と推定する。

 

 最後に、その他の要素。

 両社の非共通事項である。

 試験科目は日商の方が多い。

 日商には、簿記論・財務諸表論とは別に工業簿記・減価計算があり、これらも商簿・会計学と同じくらいの勉強が必要である。

 

 これらを合わせ考えると、商業簿記や会計学の試験問題の難しさでいえば、日商<税理士試験だけど、取得しやすさでいえば、微妙な雰囲気を感じる。

 

 個人的な見解を述べると

 総合的な合格のしやすさからは、

 

 財務諸表論=日商1級<簿記論

 

 というのが今の結論