<2018年7月26日  >

 

  

【コサギ社員の机の中の手紙】

 

 

  ところで

  先生

 

 僕には、あの修学旅行の盗難事件に関して

 許せないヤツが2人いるのです。

 

 1人目は

 

 吉田君です。

 

 

 あのとき、

 先生は吉田君のお小遣い2万円を、

 全額、盗んだ誰かに代わり、吉田君にかえしました。

 

 でも

 本当は、あのときの

 吉田君の財布には、1万4千円

 しか入っていなかったはずです。

 

 

 吉田君は、あろうことか、

 土産物屋の

  木刀

 

 

 500円ガチャ

 で散財し、

 

 

 

 

 初日の夜の時点で、

 既に6千円近くを使い、残り1万4千円しか持っていなかったのです。

 

 それなのに

 吉田君は先生に、お小遣いとして持参を許されたマックスの2万円を申告しました。

 

 そうして、まんまと先生から差額の6千円を騙し取りました。

 

 全てを知っていた当時の僕は

 先生の善意を利用する吉田君が許せず

 この一連の流れを、歯がゆい思いで見ておりました。

 

 

 

 そうして、修学旅行から、1年少しが経過した卒業式の日でした。

 

 

 

 

 

 

 

 先生は僕に笑いながら仰いました。

 

京都(修学旅行)の件は、もう時効にするから気にするなよ

 

 と。

 

 晴天の霹靂でした。

 

 

  先生も

  みんなと同じように

 

  犯人は

 

  僕だと思っていた

 

  のですね。

 

 

 

  確かに

  吉田君の財布を盗ったのは

  僕です

 

 

 

 

 

 あの日は卒業式でしたので、

 今日限りで、教師生徒の関係がなくなる、というあなたの気の緩みもあったのでしょうか。


 先生は、いつに増して饒舌に、

 あの夜、あの盗難事件のせいで、行きつけの大人の店の予約時間に危うく遅れるところだった旨のことを、

 みんなの前で、面白おかしくお話になりました。

 

 

 わが校の修学旅行は毎年、京都でしたから、先生に、例年、旅行初日に通っていたお店があってもおかしくありません。


 そのこと事態、僕は責めるつもりはありません。

 遠方の滅多に会えないお気に入りを、何日も前から、指名されていたのかもしれません。

 

 先生にとって、とても大事な行事であり楽しみにされていだのでしょう。

 

 

  ただ、

  先生は、予約の時間が迫っていたから、あの事件を早く解決したかった。

 

  起こってしまった些細なトラブルをすぐに解決し、外出したかった。

 

  先生は

  僕を信じていた

  わけではなかった

 

 

 その事実は、漬け物石のように

    僕の心を沈め、

 

 僅かばかりの

  僕の良心の欠けらが

  グシャリと

  硝子のように崩れ、

 

  暗い海底へと

  堕ちていったのです。

 

 

 

   もっとも、先生の行為は、非難されるべきところはないでしょう。

 むしろ先生は、被害者です。

 

 しかし、

  あの時の先生の言葉が

  僕の人生を大きく変える契機

  となりました。

 

 

 そうです。

 

 もう一人の許せない人間は、

 

 先生です

 

 

 あのとき、先生が立て替えてくれたお金は

  2万円でした。

 

 いっぽう、先生の奥様は、老後資金として2000万円をお持ちです。

 

 これから、奥様には、

 この資金を情ジャグコインという、

 将来の爆上げが期待される仮想通貨に両替をしてもらいます。

 

 奥様には、この先の人生を

 安心して・豊かに

 暮らしてもらいますので御安心ください。

 

 

 これが僕の先生への精一杯の贐です。

 

 

 恐惶謹言

 コサギ

 

  

 

 

〔音楽〕

  甲賀忍法帖