蟲
君の素顔は不気味な程に人間味に溢れていた。
普段の姿からはまるで想像がつかない。
一体誰が彼のこのような姿を想像出来るだろうか。
君は甘えた声で母親らしき人物に何か催促をしている。
でもそんなことはどうでもよかった。
私は人知れずその想像もつかない状況を一瞬も逃さず記憶することに必死になっていた。
君のことを全て知りたいと願ったのは事実。
この場所に来た以上は喩え受け入れられないような彼の一部分でさえ受け入れなければいけない。
君は私を二階の一番奥の部屋にそっと手をとっていざなう。
何事も無かったように。
それも当然のこと。
もし彼が一連の彼の行動を少しでも“オカシイ”と感じていたら、決してこんな醜態は曝さなかったはずだ。
それでも私の彼に対する興味は薄れない。
何故ならどんな醜態を曝そうと彼はミステリアスなままだった。
君の大部分は謎に包まれたままだった。
身体が熱い。
炎に焼き殺されるような感覚に襲われて目を開けると、君の素顔は変わらず目の前にある。
身体中に感じる不快感、私は流れ落ちる程の汗をかいている。
一体今のほんの一瞬の間に何が起こったのか、全く見当もつかない。
君はこれまで見たこともないような人間とは思えないような顔で、ニタニタと笑っている。
火照った身体が一瞬で凍りつくのを感じる。
今身体から流れ落ちているのはきっと冷や汗だろう。
ふと、
何やら下の方で皮膚の上に細かく蠢くものを感じる。
同時に身体の硬直は解かれ、驚いて飛び起きると確かに脛の皮膚上に何か黒いものがたくさん蠢いている。
私は恐る恐る顔を近づける。
何十、何百という糸にも似た黒い小さな蟲達が私の中に潜り込もうと必死に蠢いていた。