REAL ME -10ページ目

why don't u call me?

いくつになっても、あたしは何て馬鹿なの。

相変わらず全部欲しくて、苦しんでるの。

現実との差も変わらず大きい。

目を閉じたときだけね、全てが思い通りにいくのは。

今もずっと君のこと考えて、彼のことも考えて、彼女のことも考える。

そこにある差は何なのかって。

アインシュタインの有名なあの言葉には、意訳に少し誤りがあるって。

あたしは今も人よりも優れている何かを欲しがって、

ソレとは行動が伴わずにいるの。

ずっと苦しいのに、涙さえ出せずにいるの。

この呼吸がうまくできない原因は何なのか、ずっと分からずにいるの。

他人にはただ虚像を映して、本当は地面をのた打ち回る程、叫び声をあげたい程、苦しんでいるの。

君が手には入れば、少しでも楽になれるなんて考えてない。

ただ少し自尊心を満たして、別の何かへ無理矢理目を向けたいのよ。

あたしが発する「殺して」っていう言葉は、決して冗談じゃない。

今は君の反応を、様子をみて、本気にされないように抑え込んでいるけど、

そのうち、涙を流しながら懇願するかもしれない。

でもそれもきっと叶わないんだろう。

だって君はマトモな人間だから。

ねぇ、君はあたしのこと「分かりやすい」なんて言うけど、

本当に理解した気になっているの?

本当のあたしは違うんだよ、

こんなに自己愛的で、こんなにも醜い。

本当のあたしを見て。


とても苦しかった。

私は、彼に残された時間を、正確にではないけれど把握していた。


3ヶ月という余命を告げられてから、既に2ヶ月が過ぎようとしていた。


日に日に状態が悪くなるのが目に見えて分かった。
彼の苦しそうな呼吸ノ音が、夜眠るときも聞こえる気がした。

時折彼は私を恨めしそうな目で見つめた。
その度に、私は目を逸らした。

どこかで早く死んで欲しいと考えていたから。
それを見透かされそうな気がして。



この世から彼の存在が跡形もなく消えることよりも、苦しみが長く続くことが、
苦しむ姿を毎日毎日見続けることが、ずっとずっと恐ろしく感じた。


苦しかった、とても。
ホントだよ。

君の感じていた苦しみには程遠いけど、私も苦しかった。









心電図は徐々に延びた。
焦点は一切合わなくなり、瞬きという行為さえなくなった。

そのせいか、彼の眼からは絶えず涙が流れていた。
この場合の涙は感情とは無関係なことは分かってる。
きっと瞬きしないせいで眼球が乾いているんだろう。

それでも、胸を大きく上下させて天井を虚ろに見上げる彼は
苦しくて泣いているように見えた。


私は彼を見ても何も感じなかった。
不思議と、何も考えなかった。
ただ、そんな彼の姿を見ているだけだった。













遠くの方でけたたましいアラームが鳴り響いている。
きっと彼の心臓が動くのを諦めたんだろう。

私は、ただモニターを見つめていた。
周りではバタバタと忙しそうに人々が行き来している。


彼は最期まで泣いていた。

口の中は血液の味でいっぱいになった。
私は、涙の代わりに唇から血を流して、彼の最期を見届けたの。


苦しかった。本当に。
本当だよ。


私の心臓は、彼から活動電位を譲り受けたみたいに激しく拍動していた。

周囲の人間は無意識のうちに残酷な言葉を吐く。

そんなこと、分かってるんだよ。
でも余計な知識がつくと、そう願うことが無意味であると気付いてしまう。

でも周囲の人間はそんな当人の心情など理解しえないから、さらにまくし立てる。
生きろ、なんて。

そんな励ましも無知から生まれる残酷な言葉も、多重な苦しみの一つに過ぎない。
でも、不安にさせないように、期待に応えるかのように、
大丈夫、だとか、頑張る、なんて思ってもいない言葉を口にして、
夜独りきりになってからまた涙を流すことになる。

だから、下手な慰めは辞めて欲しい。

ましてや、生きろ、なんて、絶対に口にしないで。