​朗読台本『第三の走者:ウサギとカメと、ときどきオオカミ』

​【所要時間】

約10分(読み手1名〜複数名可)

​【登場人物】

​語り(ナレーター): 落ち着いた口調。物語の進行役。

​ウサギ: 自信過剰で早口。ハイテンションで少し生意気。

​カメ: マイペースで超スローな話し方。何事にも動じない。

​オオカミ: 乱暴な口調だが、実は寂しがり屋でツンデレ気質。

​【序章:いつもの始まり】

​語り:

むかしむかし、あるところに、足の速さを自慢するウサギと、のんびり屋のカメがいました。

この二匹といえば、誰がどう考えても「かけっこ」の話になるのが相場です。

今日も今日とて、あの有名な丘の上で、二匹は言い争いをしていました。

​ウサギ:

(呆れたように)ねえカメくん。君、本当に僕と勝負する気? 歴史的敗北を喫するのがオチだよ? 教科書に載っちゃうよ、「無謀なカメ」ってさ。

​カメ:

(非常にゆっくりと)いやあ……ウサギさん……。やってみないと……わかりませんよぉ……。一歩一歩……進めば……いつかは……。

​ウサギ:

あーもう! その喋り方がすでに遅い! いいかい? 向こうに見える山の頂上。あそこがゴールだ。僕が昼寝をしてても君は勝てないと思うけど、まあいいや。

それじゃあ、位置について……。

​語り:

ウサギがスタートの合図をしようとした、その時です。

茂みの奥から、地の底に響くような、低く、恐ろしい唸り声が聞こえてきました。

​オオカミ:

(ドスの効いた声で)……グルルルルゥ……。

​ウサギ:

ひっ! な、なんだ今の声……?

​オオカミ:

おいおいおい。またその「かけっこ」かよ。

お前ら、何百年同じことやってんだ? 耳にタコができるどころか、全身タコだらけだぜ。

​語り:

茂みを掻き分けて現れたのは、鋭い牙とギラついた目を持つ、一匹のオオカミでした。

ウサギは恐怖で震え上がり、カメは……首を甲羅に引っ込めるタイミングを完全に見失って固まっています。

​【予期せぬ参入者】

​ウサギ:

(震え声で)オ、オオオ、オオカミ!? な、なんでここに……僕を食べに来たの!? 筋肉質で美味しくないよ!?

​オオカミ:

はんっ。誰がてめぇみたいな貧相な肉、食うかよ。

俺様が言いたいのはな、「マンネリ」だってことだ!

「ウサギが油断して寝て、カメが勝つ」。

この結末、世界中の子供たちが飽き飽きしてるんだよ!

​カメ:

(ゆっくりと)それは……痛いところを……つきますねぇ……。

​オオカミ:

だから俺様が決めた。

今回のレース、この俺、「迅雷(じんらい)のオオカミ」様も参加する。

ルールは簡単。一番速かった奴が「森のカリスマ」の称号を得る。

そして、ビリになった奴は……俺様の今夜の夕食の支度当番だ!

​ウサギ:

夕食そのものじゃなくて、支度当番!? ……意外と家庭的だね?

​オオカミ:

うるせぇ! 腹が減ったら気が変わるかもしれねぇぞ。

さあ、位置につけ! スタートは俺様が切る!

……よーい、ドンッ!!

​【中盤:それぞれの走り】

​語り:

オオカミの咆哮とともに、奇妙なレースが始まりました。

ウサギは脱兎のごとく、ものすごいスピードで飛び出します。

オオカミもまた、強靭な脚力で地面を蹴り、風のように駆け抜けました。

残されたのは、一歩を踏み出したばかりのカメだけです。

​カメ:

(ゆっくり)あらあら……みなさん……お早いですねぇ……。まあ……私は私で……景色でも楽しみながら……。

​語り:

さて、先頭を争うウサギとオオカミ。

森の中腹あたりで、ウサギはオオカミの驚異的なスピードに焦りを感じていました。

​ウサギ:

(息を切らしながら)はあ、はあ……っ! 冗談じゃないよ!

カメ相手なら昼寝もできるけど、肉食獣相手じゃ命がけだ!

このままじゃ負ける……いや、食べられるかもしれない! 本気出すしかない!

​語り:

ウサギは必死です。しかし、さらにその先を行くオオカミにも、ある異変が起きていました。

彼は、ただ走るだけではなく、森の様子を妙に気にしているのです。

​オオカミ:

(走りながら独り言)……ちっ、あの木の枝、折れそうじゃねぇか。リスの奴らが通ったら危ねぇな。

(立ち止まる音)

おいしょっと。……よし、これで大丈夫だ。

……おっと、こっちの道はイバラが生えすぎてやがる。カメの野郎が通ったら引っかかって進めねぇだろうが。

(草を刈る音)

オラオラ、道を開けろ! ……ふん、こんなもんか。

​語り:

なんとこのオオカミ、見た目の怖さとは裏腹に、森の安全パトロールをしながら走っていたのです。

折れそうな枝を直し、通りにくい道を整備し、時には迷子の小鳥を巣に戻してやり……。

そんなことをしているうちに、必死に走るウサギに追い抜かれてしまいました。

​ウサギ:

(走り去りながら)やった! オオカミが道草食ってる!

今のうちに差をつけるぞ! やっぱり僕は天才だー!

​オオカミ:

あ? ……ちっ、あの短足野郎、挨拶もなしかよ。まあいい、俺様には俺様の流儀があるんだ。

​【転換:罠と選択】

​語り:

レースは終盤。ウサギは独走状態。オオカミは親切活動で遅れ気味。カメは……まだスタート地点の少し先にいました。

ところが、ゴール手前の深い森の中で、事件が起きます。

ウサギが調子に乗って走っていた、その時でした。

​ウサギ:

ゴールは目の前! 優勝は僕のもの……うわあああっ!!

(ガシャン!という音)

​語り:

ウサギの足が、古い狩人の罠にかかってしまったのです。

幸い、怪我はありませんでしたが、強力なバネで挟まれた足は、自力ではどうにも抜けません。

​ウサギ:

(泣き声で)い、痛い! いや、痛くないけど抜けない!

どうしよう、誰か! 誰か助けてー!

​語り:

そこへ、息を切らせたオオカミが追いついてきました。

​オオカミ:

ん? なんだその情けない声は。

……おいおい、狩人の罠じゃねぇか。お前、前方不注意にも程があるぞ。

​ウサギ:

オ、オオカミさん! お願い、助けて!

このままだと僕、本当に干し肉になっちゃう!

​オオカミ:

はんっ。これはレースだぞ?

お前を助けてる間に、俺様がゴールすれば俺の勝ちだ。

お前をここに置いていけば、俺様の優勝は確実……。

​語り:

オオカミは意地悪な笑みを浮かべ、ウサギの横を通り過ぎようとしました。

しかし、数歩進んだところで、ピタリと足を止めます。

​オオカミ:

……あー、くそっ! なんか気分が悪ぃ!

あんな間抜けなウサギを罠にかけたまま勝っても、「森のカリスマ」の名折れだ!

​語り:

オオカミは乱暴に戻ってくると、自慢の剛腕で罠をこじ開けました。

​オオカミ:

(力を入れて)ぐぬぬぬ……!! オラァッ!!

(ガキン!と罠が開く音)

​ウサギ:

あ……抜けた……!

オオカミさん、ありがとう……! でも、なんで……?

​オオカミ:

勘違いすんな。正々堂々、実力でお前をねじ伏せたいだけだ。

さあ、立てるか? ……って、おい。

​語り:

オオカミが振り返ると、そこにはいつの間にかカメがいました。

汗だくになりながら、しかし着実に、二匹の横を通り過ぎようとしています。

​カメ:

(ゆっくり)あらあら……大変でしたねぇ……。

オオカミさんが整備してくれた道のおかげで……とても歩きやすかったですよぉ……。

では……お先に……失礼しますねぇ……。

​ウサギ・オオカミ:

(声を合わせて)ええーーっ!?

​【結末:三匹のゴール】

​語り:

なんと、オオカミがウサギを助けている間に、カメが追いついていたのです。

しかも、オオカミが道をきれいにしていたおかげで、カメのペースはいつもより格段に上がっていました。

​ウサギ:

ま、待てカメくん! ずるいぞ!

​オオカミ:

おのれ、甲羅野郎! 俺様の親切心を仇(あだ)で返しやがって!

​語り:

ウサギとオオカミは慌てて走り出しました。

しかし、ウサギは罠の恐怖で足がすくみ、オオカミは罠をこじ開けた腕が痺れて、うまく走れません。

結局、ゴール手前で三匹は横並びになりました。

​オオカミ:

はぁ、はぁ……! どいつもこいつも、しぶといな!

​ウサギ:

ぜぇ、ぜぇ……! 絶対に……負けない……!

​カメ:

ふぅ、ふぅ……! あと……もう少し……!

​語り:

夕日が差し込むゴールライン。

三匹は互いの顔を見合わせました。

ウサギの必死な顔。オオカミの不器用な優しさが滲む顔。カメの穏やかだけど芯の強い顔。

誰からともなく、三匹はふっと笑いました。

​オオカミ:

……けっ。めんどくせぇ。おい、一緒に飛ぶぞ。

​ウサギ:

え?

​カメ:

はい……。

​語り:

「せーの!」

三匹の声が重なり、同時にゴールラインを越えました。

​結果は、なんと同着。

「森のカリスマ」は一匹には決まりませんでしたが、その日の夜、ウサギとカメは、オオカミの家で美味しい野菜シチューをご馳走になったそうです。

もちろん、支度当番はジャンケンで負けたオオカミさんでしたけれど。

​めでたし、めでたし。

​この台本が、素敵な朗読の時間になりますように。