綿毛ほわほわ…

どこにでもある綿毛なんですよね。

でも、その向こうに広がる田園風景…

私は大学時代の二年間を、愛媛県のとある場所で過ごしました。

…年寄りってのは自分が若くて輝いてた頃のことを話したがりますね…すみません。

時間のある方はお付き合いください。

…で、

その愛媛に住んでた頃の話です。

初めての一人暮らしでした。

生活に必要な最低限の事だけ覚えて、

愛媛の片田舎にあるアパートに住み始めました。

一人で生活するなんて事を、やった事がなかったので、

お金の使い方をよくわからず、

当時はろくに勉強もせず、

音楽とギターばかりの生活でしたから、

ギターの弦とかレンタルレコードとか…そんなところにばかりお金を使ってました。

だけど、家賃はきっちり月末に大家さんのところに持っていってました。

だから、年がら年中空腹で…

もちろん安アパートですからエアコンなどなかったです。

卒業する先輩からコタツを譲ってもらうまでは、

暖房器具すらありませんでした。

暖房といえば腕立て伏せと腹筋と風呂と布団…

そんな風に思ってました。

夏は夏で暑くて…寒いときは動けばなんとかなりますが、暑いのばかりはなんともならない。

ちなみに冷蔵庫は持ってませんでした。

暑くて、冷たいものを飲みたくても冷蔵庫がないので、近くの自販機を冷蔵庫と呼んでました。

自販機のジュース冷たくておいしかったなぁ…

そんな貧乏生活をしていたんです。

そんなある日、

呼び鈴の音がしました。

友人であれば呼び鈴など鳴らしません。

そういう場合は電気代、ガス代とかの集金がほとんどでした。

その日も茹だるくらい暑い日で…

お金ないなぁ…とか思いながら玄関を開けると、

大家のおばちゃんが立ってました。

 あついねー!

 これだったらたくさん飲めるから。

って、カルピス(当時はビンでした)一本と、

大きなザルに山盛りの氷を持ってきてくれたんです。

 氷すごいですねー

っていうと、

 だってあんた冷蔵庫ないでしょ?

 いつも、キチッと家賃納めてくれるし、

 きっと暑がってるだろうと思って…

って言って、カルピスセットを持ってきてくれました。

あのときは嬉しかったなぁ。

大家さんご夫婦は、私よりひとつ上の息子さんがいて、家を出て一人で暮らしてたそうです。

だから、私の事を息子みたいに可愛がってくれました。

(なんだか売れないお笑いの人と大家さんの話みたいになってしまいましたね…)

何かあると大家のおばちゃんが果物とか持ってきてくれたり、たまに旦那さんがきて、

ウチの息子が新聞に載ったって、新聞見せにきて散々自慢話して…

息子の研究がどうとかで新聞に載ってうんたらかんたら…

時々旦那さんにお説教されたり…

 今の時期は彼女も欲しいだろうけど、

 まずは勉強だ。

 彼女なんて働いてからでも遅くない。

 いくらだってできるから。

延々と話して満足して帰って行ったりしてました。

私もなんだか、両親と話してるみたいで、

真剣に話を聞いて頷いたり納得したりしてました。

お節介だけど、とても暖かいご夫婦でした。

愛媛は田舎です。私の実家も田舎ですけど、

比べ物にならない田舎の街です。

だけど、この愛媛はみんな優しくて、お節介で、

あたたかい人ばかりだったんですよね。

そんな時代というのもありますけど、

よそ者の私を全力で受け入れてくれて、

思いやってくれて、

本当に私は嬉しかったです。

一生忘れることはありませんね。

結婚してから10年ぶりくらいに、嫁を連れて訪ねたことがあります。

2年しか住んでなかった私を大家のおばちゃんがちゃんと覚えててくれて…嬉しかったです。

だけど旦那さんはもう他界したと…

でも、旦那さんもあんたがきてくれて喜んでるって言ってくれました。

ちょっと寂しかったですけど。


私の初めての一人暮らしで過ごした、

この愛媛のこの街…

人のあたたかさをたくさん教えてくれた街でした。

今でも時々こうやって思い出します。

きっと一生忘れることはないでしょうね。

暑い日に飲んだ冷たいカルピス…うまかったなぁ。