近所に美味しい焼鳥屋さんがある。



しかも安い。



とても狭いスペースで立ち飲みスタイルの店だ。




私と主人は何年も前に行ったことがあり、「また行きたいね」と言っているうちに息子が病気になった。




息子は外食するなら個室で、と言われていたため立ち飲みの焼鳥屋さんは選択肢外だった。




その焼鳥屋さんのそばを通るたびに主人が「あそこのレバーは絶品や」と言う。



それを聞いた息子が「オレも行ってみたい」と言う。




息子は焼鳥が大好きなのだ。



誕生日に行く店も焼鳥屋さんがいいと言ったくらいだ。


息子が移植してから2年がたち、主治医から出されていた生活上の制限が少しずつ緩くなってきたこともあり「行ってみようか」ということになった。






三人で店まで歩いて行くと運良く席が空いていた。


人気の店で狭いから、いつ見ても満席のことが多いのだ。




その店は前面に壁がなくドアもない。



ドア代わりのビニールカーテンがあるだけだ。



だから換気状態は非常に良く、息子には好都合だ。






しばらくして、道路側を向いて立っていた主人が言った。



「あっ、雨や!予報では雨降るて言ってなかったのに」



私が振り返って見ると、道行く人が傘をさして歩いていた。


それも結構きつく降っているようだ。




私のすぐ後ろの席の女性が叫んだ。


「うわー、洗濯物干したままやのに!!」




彼女と、往来を見ている私の目が合い、思わず微笑みあった。




久々のこの距離感。




店に居合わせたよその人との交流なんて、うちには何年もなかったこと。




しょっちゅうこんな店に来ていれば常連同士で顔見知りになったりするのだろうな。




立ち飲みも、人と近いことも、すべてが新鮮に感じられた。





立ちっぱなしはしんどいので長居はしないと思っていたが、雨が上がるのを待つうちに思いのほか長時間居ることになった。




その間に息子が、あんたは焼鳥を食べるロボットかと思うくらい、気に入った焼鳥串を延々と頼みつづけていた。