息子とタクシーで救急センターに向かう。
2023年の12月に白血病と告げられた場所だ。
あの時の息子は死んでしまったとしても不思議ではない病態だった。
思えばそこからは綱渡りをしている感じで命をつなぐことでができている。
受付を済ますと熱がある人専用の場所で待つように指示された。
その場所に行くと先客が一人いた。
息子と同年代の男性で父親に付き添われている。
看護師さんがやってきた。
看護師さんは先客の男性の鼻に棒を差し込んで検査をして、いつからどんな症状があるか聞いている。
男性は、2日前に39度の熱が出て下痢、ふらつきがひどく我慢できなくなった、と言った。
そんな話をしている間にも反応が出てきたようで、看護師さんが言う。
「あぁ、もうほぼ間違いなくインフルエンザA型ですね」
男性と父親は、そんなすぐに結果分かるんや、と感心している。
「そうなんですよ。タミフルと解熱剤を出します。学校はいつからですか?熱が下がってから2日後から行けますよ」
男性と父親は、処方された薬を飲むことで学校に行く日常に戻れる見通しがついたからか、半分治ったかのような明るさを取り戻した。
「じゃパパ、薬もらってくるから、ちょっと待っててや」
先客の男性に言い置いて父親が足早にイスを離れた。
私の両隣にぐったりした男性が二人。
別の看護師さんが息子のところへ来た。
先の男性にやっていたのと同じように息子の鼻に棒を差し込んでから一旦去って行く。
ふたたび戻ってきた看護師さんは息子に向かって言った。
「結果が出たんですが、ちょっとこっちに…立てますか?」
人に聞かれるのをはばかるくらい何か良くない結果なんだろうか。
座っているのも辛くてイスに横たわっていた息子は無理をして立ち上がった。
看護師さんに促されてイスから少し離れたところで立ち止まる。
看護師さんがやや声をひそめて言う。
「人がいるので…。結果はインフルエンザのA型でした」
それだけ?
そんなん座ったままでよかったやん、と思う。
またイスに戻る。
「タミフルと解熱剤を飲んで様子を見ることになります」
そう言って立ち去ろうとする看護師さんに私は言った。
「あの、ウイルス感染かもしれないと思って今日はいつも飲んでいる薬の中で免疫抑制剤だけは飲んで来なかったんです。それは今後どうすればいいですか?」
「あぁ…それは血液内科に聞いてきます」
看護師さんが去ったあと先客の男性の父親が戻ってきた。
「薬もらってきたで。帰ろうか」
「39度の熱なんか今までなかったし人生終わるんかと思ったわ」先ほどよりかはいくぶん元気になった男性と父親が帰って行った。