8枚目の3分の1ぐらいまで

 

1 設問1

1,本件において警察官P及びQは長時間にわたり甲を一定の場所に留め置いているところ、これは無令状の強制処分(刑事訴訟法(以下、法令名省略)1971項ただし書き)として違法になるのではないか。

1)「強制の処分」とは強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格な法的制約に服させる必要があるものに限定されるべきである。

したがって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利・利益に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものをいうと解すべきである。

ア、これを本件についてみるに、まず、Pは、尿の提出を促したものの、甲は「行きたくねえ」といい、甲車を降りてH警察署とは反対方向に歩き出し、23メートル進んだが、その進路を塞いでいる。甲は明示的にPの要求に従う意思のないことを示し、そこから逃れようと移動しているがこれを阻まれ、重要な権利たる身体活動の自由が制約されている。

もっとも、その意思に反しているということは認められるも、単に間接的に進路を塞いだに過ぎないPに対して「仕方ねえ」などといい、甲車運転席に戻っており、ある程度任意にしたがっているものといえ、必ずしもその意思を制圧したということまではいえない。

したがって、この時点では「強制の処分」に至っているとはいえない。

イ、次に職務質問から約30分後の午前1120分及び午前1125分の時点において、甲は二度にわたり甲車を降りて歩き出し、23メートル進んだが、その都度、同様にPは甲の前に立ち進路を塞いでいる。

この点についても、身体活動の自由の制約が認められるといえるが、その都度甲は、「警察に行くくらいなら、ここにいる」といい、同様に甲車運転席に戻っており、一応、任意にその留め置きにしたがっているとみることができ、その意思を制圧するまでに至っていると評価することはできない。

したがって、この時点においても「強制の処分」にはあたらない。

ウ、さらにその約5分後の午前1130分の時点において、捜索差押許可状を請求することとし、それまで待つように言ったが、なおも「嫌だ」などといい、その拒否の態度を崩していない。

そのような中、P2台のパトカーを、甲車を挟むようにして停車させ、甲車が容易に移動できないようにした上、甲が容易に移動することができない状態にし、前記までよりもより強度にその身体活動の自由に対して制約を加えている。

そして、その後、再び甲車を降りて歩き出した甲に対しPは両手を広げ進路を塞ぎ体を接触させ、足を踏ん張り、前に進めないようにし、より強度に身体活動を制約している。

職務質問の開始から約35分が経過していること、その制約態様が強度になってきていることからすれば、その意思に対する制約の程度はより大きなものになってきていると言うことができるが、なおも「仕方ねえな」というのみであって、任意に甲車運転席に戻っており、前記事情を考慮してもなお意思を制圧するに至っているとはいえない。

したがって、この時点においても「強制の処分」とはいえない。

エ、それから1時間後の午後零時30分の時点においては「帰るぞ」といい、留め置きに従う意思のないことをこれまで以上に強く示し、甲車を降りて歩き出したが、これに対して再び従前通りその進路を塞ぎ、さらには胸部及び腹部を前方に突き出しながら押し戻すなどしてその有形力の行使の程度をさらに強度にしている。

もっとも、なお「車から降りられねえのか」と言うのみであって、甲車運転席にすわり、その指示に任意に従っている。

したがって、「強制の処分」には至っていない。

オ、そこからさらに3時間後の午後4時、再度歩き出した甲に対して同様にこれを押し戻し、その身体活動の自由を制約している。

この時点では実に4時間半もの時間が経過しており、通常、そのような長時間の留め置きに任意に従うことはないこと、時間が経過するにつれその制約の態様が強度になっていることを考慮すれば、その意思を制圧する程度まで至っているものとも思われる。

しかし、甲はなおも従前通り「帰れねえのか」などと言うのみであって、Pの制止を振り切って移動することも必ずしも不可能ではなかった状況において、Pの指示通り甲車運転席に戻っている。

そうであるとすれば、なお任意にしたがっていると評価することは不合理とはいえない。

カ、以上からすれば、本件留め置いた措置は「強制の処分」には当たらず、無令状の強制処分として違法となることはない。

2)強制処分に当たらず、違法にならないとしても任意捜査として適法か。任意捜査といえども、無制限になし得るものではなく、留め置きはその身体活動の自由を制約することになるから、捜査比例の原則により、留め置きの必要性及び緊急性が認められ、具体的状況の下において相当といえる範囲であることが必要である。

ア、これを本件についてみるに、P及びQは「大声で叫ぶ不審な男がいる」との通報を受け、臨場したところ、甲は、エンジンの空吹かしを繰り返して発進せず、大声で意味不明な言葉を発しており、その挙動の不審から様子をうかがう必要性があった。

さらに、甲は目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど、覚醒剤使用者特有の様子が見られ、また、甲には覚せい剤取締法違反の有罪判決を受けた前科があることが判明したことから、Pは覚醒剤使用及び所持の疑いを抱いた。覚醒剤の使用所持は10年以下の懲役という法定刑が定められる重大な犯罪であり、その嫌疑の有無を確認する必要性があるし、また、覚醒剤を使用していたとすれば即座に確認しなければその性質上証拠の取得が相当困難となる事情があり、留め置く必要性とともに緊急性も認められる。

イ、また、Pは甲の左肘内側に赤色の真新しい注射痕を認めて、覚醒剤の使用等の疑いをさらに強めている。真新しい注射痕と言うことは近接した時点において覚醒剤を使用したことが予想されるのであって、これを検査する必要がある。

ウ、さらにはその30分後の1120分あたりの時点において注射器の所持を認め、かつその不自然な言動から覚醒剤使用等の疑いを一層強めている。

エ、以上のような状況において、その身体活動の自由に対する制約は前述の通り、強度になっていったという状況もあり、また、すでに約5時間もの時間が経過しており、その制約の程度は必ずしも軽微なものとはいえない。しかし、そのような長時間を要したのも交通渋滞のというやむにやまれぬ事情が存在すること、必要性及び緊急性がかなり存在することに鑑みれば、任意捜査としての有形力の行使として必ずしも相当性を欠くものと言うことはできない。

オ、以上からすれば、任意捜査としてもその適法性を肯定できるものと考える。

2,したがって、本件留め置いた措置は適法である。

2 設問2

1,措置①について

1)弁護士Tは甲の弁護士になろうと、午前1030分から、甲との接見を求めているところ、Sは午前11時からにしてほしいとして午前1030分からの接見を断っている。これはTの接見交通権(391項)を侵害するものとして違法ではないか。

ア、接見交通権は憲法373項が保障する弁護人選任権を実質化するものとして特に尊重されなければならない重要な権利であって、慎重に判断しなければならない。

具体的には、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合に限られると言うべきである。また、捜査の中断による支障が顕著な場合には、原則として間近いときに取調等をする確実な予定がある場合も含まれるとみてよい。

これを本件についてみるに、Sは午前945分から弁解録取手続を開始しているところ、弁解録取手続の終了までさらに約30分を要し、I地方検察庁からH警察署まで自動車で約30分要することから、午前1030分から接見を行えば取調を中断しなければならず、その支障が顕著である。

したがって、「捜査のために必要があるとき」といえる。

イ、もっとも、「捜査のために必要がある」として接見指定が許されるとしても、被疑者の防御に対して「不当な制限」になるような場合は許されない(393項後段)。

ただ、本件においては単に30分ずらしただけであるし、Tもそれにすんなり同意しているのであるから、「不当な制限」ということはできない。

したがって、本件措置①は適法である。

2,措置②について

1)措置②においても、同様に、接見指定の適否が問題となる。

ア、本件についてみるに、Sは当初午前11時から予定されていた接見を午後零時30分以降に変更する旨の接見指定を行っている。甲は弁解録取手続において弁解をして否認し、同手続は、午前1020分に終了していたものの、自白しようか迷っていると察したSはこの機会に自白を得たいと考え、その取調を続行する必要性を認めている。

とすれば、これを中断して接見をさせれば捜査に対する支障が顕著といえ、「捜査のために必要があるとき」にあたるといえる。

イ、もっとも、「不当な制限」にわたることは許されないところ、甲はまだ弁護士とは接見しておらず、いわゆる初回接見の場合である。

初回接見は、弁護人の選任を目的とし、憲法34条の保障の出発点をなすものであるから、これを速やかに行わせなければならない。

したがって、弁護人となろうとするものと協議し、即時又は近接した時点での接見を認めても捜査に顕著な支障を生じるのを避けることができるか検討し、可能であれば比較的短時分であって即時又は近接した時点での接見を認めるべきである。

これを本件についてみるに、STに電話を掛け、一方的に時間を変更したいと言うのみであって、Tが譲らなかったにもかかわらず、電話を切り、以後電話に出なかったというのであり、STと協議すらしていない。

2)したがって、本件措置②は「不当な制限」にあたり、違法である。

3 設問3

1,下線部③の証言は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述として伝聞証拠に当たり証拠能力が認められないのではないか(3201項)。

1)伝聞法則の根拠は、伝聞証拠は知覚・記憶・表現・叙述の過程で誤りが入り込むおそれがあり、これを反対尋問等によってチェックする機会を確保する点にある。したがって、上記誤りをチェックする必要がない場合には、伝聞証拠とみる必要はない。

したがって、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とする供述証拠であり、その供述内容の真実性立証に用いるものをいう。そして、それは要証事実との関係で相対的に決せられることになる。

2)これを本件についてみるに、乙は甲に対する覚醒剤譲渡の被疑事実を一貫して否認しているところ、公判前整理手続において①譲り渡しの事実、及び②覚醒剤の認識が争点とされた。

ここで、下線部の証言は同一の証言内における甲の証言を考え合わせれば、それは覚醒剤を持っている甲が検問に捕まれば覚醒剤の所持が発覚してそれを譲渡した自分が刑務所行きになってしまうという意味にとれるのであって、乙が甲に対して覚醒剤を譲渡したこと、それが覚醒剤であることを認識していたと言うことを推認することが可能であり、すなわち、本件証言による要証事実はそれであって、そうであるとすれば、その内容の真実性が問題となることはない。

3)以上からすれば、本件証言は伝聞証拠には当たらず、その証拠能力を認めることができる。

4 設問4

1S2951項による制限を申し立てているところ、このような異議は認められるか。「その他相当でないとき」の意義が問題となる。

1)思うに、2951項が尋問等を制限することができるとしているのは、「重複するとき」などをその列挙事項としてあげていることに鑑みれば、訴訟経済の観点から尋問等をさせることが相当でない場合にこれを制限することができるものする趣旨の規定であると解される。

2)そして、Sが「公判前整理手続において主張されてない事実に関するものであり、制限されるべきである」として異議を述べたのは、せっかく公判前整理手続において争点を確定し円滑な訴訟運営の確保がなされたにもかかわらず、これを覆すことは訴訟経済に反するという観点からのものであると思われる。

3)確かに、公判前整理手続において確定された事項がむやみに覆されたならばその実効性が失われることになる。

しかし、本件においては終始曖昧な供述に終始していた公判前整理手続における供述に対して、思い出したとしてより正確な供述をなそうというものであり、これを許すことは必ずしも訴訟経済に反するものではない。

2,以上からすれば、「その他相当でないとき」にあたらず、制限することはできない。

以上