8枚目半分ぐらいまで

 

1 設問1

1,小問(1)について

1)本件においては、Aを代表取締役から解職する旨の議案が臨時取締役会において提出され可決されているところ、当該取締役会の招集通知がAについてのみ発せられてない。

取締役会の開催に際しては招集通知を発することが必要とされているところ(会社法(以下、法令名省略)3681項)、これを欠く取締役会決議は瑕疵あるものとして違法ではないか。なお、各取締役は日常的に業務に関わっているため、取締役会の目的である事項の記載は不要である。

ア、思うに、私法の一般原則からすれば、瑕疵があり違法であれば、無効となるのが原則である。もっとも、瑕疵があったとしてもそれが決議に影響をもたらさないと認められる特段の事情がある場合には例外的に無効にならないと解する。

イ、これを本件についてみるに、本件臨時取締役会はAを代表取締役から解職することを目的としたものであり、Aが適切に招集通知を受ければ、これに出席し反対の意思を表明したであろうこと、賛成が3名、反対2名で可決されており、Aが出席していれば可決はなかったであろうことが認められ、そうであるとすれば、決議の結果に影響があったものとして特段の事情が認められないとも思える。

ウ、しかし、Aは解任の対象となる者であるところ、「特別の利害関係を有する者」(3692項)にあたり、そもそも決議に参加することはできないのではないか。

ここで、「特別の利害関係を有する者」とは当該取締役が、当該決議について会社の利益と衝突する個人的な利害関係を有し、忠実義務違反のおそれがある場合を言う。本条項は忠実義務違反を事前に防止する点にその趣旨があるからである。

そして、代表取締役の解任において、その対象となる者はこれに当たる。なぜなら、会社の利益のために議決権行使が期待できないからである。

したがって、解任の対象となるAは特別利害関係人に当たり、決議に参加することはできない。

エ、そうであるとすれば、そもそも参加できないのであるから、招集通知を発しなかったことは決議の結果に影響がなかったということができる。

2)したがって、特段の事情が認められ、本件臨時取締役会の決議は有効である。

また、仮に無効であったとしても、後日適法に取締役会が開催され同内容の議案について可決されていることから、いずれにせよ問題ないと言うことができる。

2,小問(2)について

1)本件においては定例取締役会においてAの報酬の額を解職を契機とし、月額150万    円から月額20万円に減額している。このような減額は許されるのか。

ア、まず、甲社においては取締役の報酬の額について株主総会が総額を決めてその配分を一任しているところ、これはそもそも取締役の報酬を株主総会決議事項とした3611項に違反するのではないか。

イ、取締役の報酬を株主総会決議事項とした趣旨は、お手盛り防止にあるところ、原則として報酬の決定を取締役会に委任することはできない。その趣旨が没却されることになるからである。

もっとも、株主総会において総額を定めて配分を一任するなどすることはその趣旨に反することにはならないから、認められる。

そして、本件においてはその範囲での委任がなされているから、この点について違法はない。

ウ、そこで、改めて減額の可否について検討するに、報酬請求権が確定すると、報酬額は会社との委任契約の内容となり、当事者を拘束することになる。とすれば、一方当事者がこれを勝手に変更することは許されない。

ただし、従前の取り扱いによりその減額が予定されており、当該取締役がこれを了知していた場合には、一方的な変動が許されると解する。

エ、これを本件についてみるに、甲社は報酬額は前述の通り総額を一任した上、取締役会の決議によって役職ごとの一定額が定められ、これにしたがった運用がされていたのであり、そうであるとすれば、Aはこのような取り扱いを認識した上で認容契約を締結したものと考えられ、黙示の合意を認めることができる。

オ、ただ、それはその運用にしたがった月額50万円までの減額についてのみである。そこから、さらに月額20万円に減額することは認められるのか。

月額20万円への減額は従前の運用にしたがったものではなく、同意権の放棄に関する黙示の同意を認めることはできない。

そうであるとすれば、そのような減額は認められないのが原則である。

カ、もっとも、取締役に著しい任務懈怠があり、役職の変更が生じた場合には3392項の法意に照らし、一方的に報酬額を変動させることができると解する。

これを本件についてみるに、確かにAA主導の下、事業の海外展開をしたが、この海外事情は売り上げが伸びず、低迷し、3年あまりで撤退することになっている。

しかし、これに際しては事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を行い、その調査結果に基づき、事業の海外展開を行うリスクも適切に評価して、取締役会の可決に基づいて行われたものであり、その事実の認識及びその事実の認識に基づいた判断のいずれにおいても著しく不合理なものと言うことはできず、これをもって著しい任務懈怠があったものと言うことはできない。

2)以上からすれば、月額20万円に減額することは許されないと考える。

したがって、従前の運用に従いAは月額50万円の報酬請求権を有すると考えることになるから、Aは甲社に対して50万円を請求することができる。

2 設問2

1,小問(1)について

1Aは解任されたことが不当であると主張しているところ、3392項に基づき、損害賠償請求をすることが考えられる。

もっとも、「正当な理由」が存する場合には損害賠償請求は認められないところ、本件において「正当な理由」は存在するのか。その意義が問題となる。

ア、「正当な理由」が認められる場合に、損害賠償責任が認められないとした趣旨は株主が会社の実質的所有者として誰が経営者として適任なのかという判断を尊重し任期の途中であっても取締役を自由に解任することができるとした一方で(3391項)、むやみに解任されたならば相当期間任期が残っている状態で突如解任された取締役の地位へも配慮したものであると解される。

そうであるとすれば、「正当な理由」とはそのような取締役の不利益を考慮してもなお、解任する必要性が認められる場合を言うと解する。

イ、これを本件についてみるに、Aの解任が可決された時点においてAの取締役としての任期は8年残っており、この時点での解任は不利益の程度が大きい。

また、確かに前述の通り海外展開に失敗しており会社に相当程度の損害を与えていると考えられるが、それは経営判断としては妥当なものであったのであり、これを「正当な理由」の判断における事実として考慮することはできないとも思える。

しかしながら、3391項が株主の解任権を尊重した趣旨に鑑みれば、たとえ4231項に規定するような任務懈怠がなかったとしても、事業の失敗に関する評価として解任の対象となる者が取締役として経営遂行に適しない人物であるとすることは株主の判断として尊重されるべきものであり、これを「正当な理由」の判断に組み込むことは認められると言うべきである。

そうであるとすれば、Aの不利益の程度に鑑みても、Aを解任するとした株主総会の判断について「正当な理由」があるものといえると考える。

2)以上より、甲社のAに対する損害賠償責任は認められない。

2,小問(2)について

1)①解任を請求する際の手続

ア、本件においてはAの取締役の解任が議案とされた定時株主総会が、Aにより定足数を満たさないこととなり、流会となっている。このままでは、Aを株主総会において解任することができないことから、Bとしては役員の解任の訴え(8541項)を提起しその解任を請求することが考えられる。

イ、役員の解任は通常、株主総会において取り扱われるものであるが、何らかの事情により解任すべき役員を解任することができず、株主の意思を適切に反映することができないと認められる場合に、例外的に保有要件など株主総会における議決権行使要件とは異なる比較的厳格な要件を課した上で、訴えにより役員の解任を株主に対してその権利として認めるものである。

2)会社法上の問題点

ア、まず、Bは総株主の議決権及の20%を有する株主であり、「総株主の議決権の100分の3」以上の議決権を有する株主に当たる(同1号)。

また、甲社は非公開会社であるから保有要件は適用されない(同2項)。

被告は甲社及びAとなる(855条)。

イ、また、Aは「役員」にあたり、さらに、Aが多額の会社資金を流用していたことが明らかとなっており、「不正の行為」があった(同1項柱書)

ウ、では、「否決されたとき」にあたるか。本件では、流会になったに過ぎないから問題となる。

ここで、「否決されたとき」において役員の解任の訴えをすることができるとしたのは、不正の行為等の事実が存在し当該役員が解任されるべきであるにもかかわらず、何らかの理由により株主総会が正常に機能せず適切な株主の意思を解任決議において反映させることができない自体を想定したものである。

そうであるとすれば、事実として否決された場合にかぎらず、否決されるに準じる状況、すなわち、株主総会が正常に機能していないような場合も含まれると解するべきである。

以上に従い、本件を見るに、AAの取締役の解任に関する議案が可決されることをおそれ、旧知の仲である甲社の株主数名に対し、欠席するように要請し、その結果、定足数を満たさず流会となっている。 このままでは株主総会が有名無実化し、その存在意義を失う事態に陥ることになるから、本件において株主総会は正常に機能していないと言うことができる。

エ、以上からすれば、「否決されたとき」にあたり、したがって、Bは役員の解任の訴えを提起することができる。

3 設問3について

1,①Cの損害賠償責任

1Cは本件Eによる行為によって生じた損害の発生について任務懈怠責任が認められるとして4231項により損害賠償責任を負うことが考えられる。

ア、Cは「役員」に当たるところ、「任務を怠った」と言うことができるか。

まず、甲社は会社法上の公開会社であり、資本金の額は20億円で、従業員数は3000万円を超える大会社であり(26号イ)、大会社である取締役会においては内部統制システムの構築義務が認められる(3625項、46号)。

イ、ここで、甲社の取締役会は「内部統制システム構築の基本方針」を決定しており、内部通報制度を設けたり、法令遵守に向けた取り組みを実施している。さらに、下請け業者との癒着を防止するため、同規模かつ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定し、これにしたがった体制を整備し、運用している。

以上のような内部統制システムは特に何らかの不備があるものではなく、これをもって内部統制システムの構築義務を果たされていると考えられるから、構築に関してCに任務懈怠が認められることはない。

ウ、一方、取締役はその内部統制システムを適切に運用し、それにしたがって業務の適切を確保するよう努める義務を負うと解されるところ、報告を受けたCは、直ちに、本件下請け工事や本件通報について、法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示しており、内部統制システムに従い、通報に応じ適切に処理している者と言うことができる。

そうであるとすれば、その運用において任務懈怠と評価すべき事情はなく、したがって、Cに任務懈怠は認められない。

2)以上より、Cは損害賠償責任を負わない。

2,②Dの損害賠償責任

1Dについても同様に4231項に基づく損害賠償責任が問題となる。

ア、まず、構築義務についてはCと同様であり、この点について問題となるところはない。

イ、しかし、DCと同様適切にシステムを運営し業務の適性を確保すべき義務を負うところ、甲社の内部通報制度の担当者は、平成273月末に本件通報があった旨をDに報告しているにもかかわらず、その報告を受けたDは、これまで不正行為が生じたことがなかったこと、会計監査人からそのような指摘を受けたことがなかったこと、Eに信頼を置いていたことから、本件通報には信憑性がないと考え、調査を指示せず、他の取締役等にも知らせることをしていない。

以上の判断には合理的な理由は存在せず、Dとしては調査を指示し他の取締役にもこれを知らせるなどして可及的に損害を防止できるよう行動すべきなのであって、にもかかわらず、漫然と信憑性がないと判断し何ら損害の発生防止について対処しなかったことは、任務懈怠があると言わざるを得ない。

したがって、Dは「任務を怠った」といえる。

ウ、また、EF5000万円を着服しており、「損害」が発生しており、これについて因果関係が認められる。

2)以上より、Dの甲社に対する損害賠償責任は認められる。

以上