7枚目の半分ぐらいまで

 

1 設問1

1,本件においてはX1らとX2らは本件例外許可の取消訴訟を提起しているところ、いずれも本件例外許可の名宛人ではない。名宛人でないものが取消訴訟を提起するにはこれらの者に原告適格が認められる必要があるところ、「法律上の利益」(行政事件訴訟法(以下、単に「行訴法」という)91項)を有するといえるか。

1)「法律上の利益」とは、取消訴訟が主観訴訟であることに鑑みれば、当該処分により自己の権利・利益又は法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるものをいう。

そして、処分の根拠法規が不特定又は多数人の利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される場合には、そのような利益も法律上保護された利益として、認めることができる。これを判断する際には行訴法92項所定の考慮要素を勘案することになる。

ア、これを本件についてみるに、X1及びX2はいずれもその住居環境の悪化、交通事故の多発を理由に本件例外許可は取り消されるべきであると主張している。

ここで、処分の根拠法規たる建築基準法は建築物等の最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図ることを目的とし(建築基準法1条)、第一種低層住居専用地域内においては、原則として別表第二(い)に掲げる建築物以外の建築物は建築してはならないとし、これに掲げられる建築物は文教施設など第一種低層住居専用地域の環境を破壊するおそれが少ないものに限定されている(同481項本文)。

また、そのような建築物でなくとも一定の場合には例外を認めるとしているが、それは第一種低層住居専用地域における良好な住居環境を害するおそれがないと認められる場合に限るとして、その地域の環境に配慮を示している(同ただし書き)。

イ、このように、建築基準法が特に第一種低層住居専用地域における建築物について配慮する姿勢を示しているのは、都市計画法が都市計画区域について第一種低層住居専用地域を定めることができるとし(都市計画法811号)、同9条においてはその良好な住居の環境を保護するとして、その住環境に対して特に配慮していることを受けたものであると解される。

ウ、このように、法が特に第一種低層住居専用地域における住環境を保護している趣旨に鑑みれば、法はその住環境たる利益を一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益として保護しているということができる。

2)そして、騒音、ライトグレアや排気ガスによる住環境の悪化、交通事故の多発はその発生源に近づけば近づくほどその被害の程度は大きくなると解されるところ、本件要項が例外許可の許可基準としてその公開による意見聴取を定め(第7)、おおむね50mの範囲の土地又は建物の所有者をその対象者としていることからすれば、少なくともその範囲に土地又は建物を所有している者については「法律上の利益」を有する者と判断してよいと解する。

2X1らについて

ここで、X1らは本件自動車車庫に隣接し、本件自動車車庫から直線距離で約6メートルしか離れていない位置の建物に居住している住民であり、その主張する騒音等による住環境へ影響は大きいものと考えられるから、「法律上の利益」を有する者として原告適格が認められると解する。

3X2らについて

X2らはX1らに比較して本件敷地から距離があるが、なお約45メートル離れた位置で、かつ、幹線道路から本件自動車車庫に通ずる道路沿いの建物に居住する住民であって、本件自動車車庫に出入りすることによりその住環境に対する影響が未だ大きな者ということができるから、「法律上の利益」を有する者として原告適格が認められる者と解する。

2 設問2

1,建築基準法82条違反の点について

1)まず、例外許可に際して建築基準法4814項は建築審査会の同意を得ることを要求しているところ、本件例外許可においてはY1市建築審査会の本件同意にかかる議決には、Aの代表取締役の実弟Bが委員として加わり、賛成票を投じていたことが明らかとなっている。同82条は委員の除斥を定め、Bはこれに当たるから、このようなBが参加してなされた同意は違法であって、これを踏まえてなされた本件例外許可も違法ではないか。

ア、ここで、同481項ただし書きによる例外許可に際して、建築審査会の同意を得なければならないとしているのは、例外許可の要件は第一種低層住居専用地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認めるとき、又は公益上やむを得ないと認められるときとされ、いかなる建築物がそのようなおそれがない場合に当たるかについては高度に専門性が求められる判断になることが予想されるため、そのような判断に際して専門知識を有する委員(同79条)に判断を仰ぐとしてその適性を担保しようとしたものである。

そして、このような同意に関する議決に際して利害関係を有する者が参加すればこのような高度に専門的な判断を要する同意に公正さを疑わせる自体を生ぜしめ判断の適性を担保できなくなることから除斥するものとしたものである。

イ、そして、本件においては確かに、Bを除外してもなお議決の成立に必要な過半数の委員の賛成があるとして、本件同意にかかる議決をやり直すことなく、そのまま維持しているが、このような専門的判断に際しては個々の委員による意見が相互に作用して意見が形成されることに鑑みれば、利害関係人の参加によりその判断内容に影響を与えた可能性は否定できず、判断の適正に疑義が生じているということができ、これでは法が利害関係人の除斥を定めた法の趣旨が没却される。

2)以上からすれば、たとえ、賛成の数として影響がなかったとしても、なおその判断の適正に疑義が生じているとして同82条に反する違法がある。

2,裁量権の逸脱、濫用について

1)次に、Y1市長は本件例外許可を同481項ただし書きに基づいてなしているところ、Y1市には、例外許可の基準として本件要項が定められている。

例外許可は前述の通り高度に専門性が求められる判断であって、これを一律に判断することができるものではないし、「おそれがないとき」「やむを得ない」など抽象的な文言を用いていることからも、その判断には相当程度の裁量権が認められているものということができる。

2)ここで、そのような裁量権が認められるとしてその判断を市長の自由な判断に委ねるとすればその判断が高度に専門性を有することにも鑑みれば、不当な結論を招くおそれがある。

そこで、妥当な判断を担保するという観点から本件要項が定められ、それは市長の例外許可に際しての裁量を統制するものとして裁量基準としての役割を果たす。

3)そして、許可権者はその判断に際して特段の事情がない限り裁量基準に沿って判断をなすことが求められるところ、本件要項においては許可基準としてその構造として環境悪化への対応が困難な場合には遮音等の措置等を行うこと、目隠し版の設置等を行うこと、塀の措置等を行うことを求めているところ(要項第24))、本件においてはそのような影響が生じる危険性が現に存在するにもかかわらず、それらを防ぐ構造にはなっていないというのであり、にもかかわらず本件例外許可をなしている。

4)以上からすれば、本件例外許可においてはその判断において裁量権の逸脱・濫用が損するものといえる。

3,以上より、本件例外許可には違法事由が認められるから、本件例外許可は適法であると認められない。

3 設問3

1Xらは本件確認の取消訴訟を提起しているところ、その中で本件例外許可の違法事由を主張することができるのか。先行処分の違法事由を後行処分の違法事由として主張することが許されるのかが問題となる。

1)ア、ここで、本件例外許可は行訴法32項にいう「処分」に当たるところ、このような処分の違法事由を後行処分において主張することは原則として許されない。処分には公定力が認められるところ、取消訴訟の排他的管轄に反することになるからである。

もっとも、両処分が一連の手続を構成していると解される場合には先行処分の違法を後行処分で主張させることが便宜であるから、例外的に後行処分においてその違法を主張させることができると解する。

イ、これを本件についてみるに、建築確認においては、建築確認関係規定に適合するものであることについてその確認を受けることとされているところ(建築基準法61項)、その確認においては建築される建築物が同481項ただし書きに適合するものであるかについても含めて判断されるものと考えられ、481項ただし書きに反することが認められれば、建築確認はなされない関係にあるのであって、これらは一連の手続を構成しているということができる。

ウ、以上からすれば、本件訴訟2において先行処分である本件例外許可の違法事由を主張することができるものと考える。

2)また、先行処分と後行処分の上記のような関係が認められなかったとしても、先行処分に無効とすべき瑕疵が認められる場合には、先行処分の違法事由を後行処分の違法事由としてこれを主張することができるものと解する。この場合、先行処分について公定力が認められないからである。

もっとも、本件例外許可においてはその違法事由が重大ということまでは直ちにいうことができないし、その瑕疵が明白であるわけでもない。

したがって、先行処分に無効の瑕疵があるとして、これを後行処分の違法事由として主張することはできないと解すべきである。

2,以上より、Xらは本件訴訟2において本件例外許可の違法事由を主張することができる。

4 設問4

1,本件においてAは指定確認検査機関Y2に対して、本件スーパー銭湯及び本件自動車車庫を一体として、法6条の21項に基づく建築確認の申請をしているところ、Y2は、法別表第二(い)第7号によれば、本件スーパー銭湯は、第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物である「公衆浴場」に該当すると判断せざるを得ないとして、本件確認をしているところ、このような旧来の「銭湯」と本件スーパー銭湯とを同一のものと考えて行った本件確認は違法という主張が考えられる。

(1)ここで、別表第二(イ)第7号が「公衆浴場」について第一種低層住居専用地域に建築することができる建築物とされたのは、建築基準法が制定された当時、住宅に内風呂がない者相当程度おり、公衆浴場を設けることが必要不可欠であったためである。

そうであるとすれば、「公衆浴場」とは本来的に入浴を目的とした施設を想定していると考えることができる。

(2)ここで、公衆浴場法の適用を受ける「公衆浴場」については、「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」に区分されており、全社については日常生活において保健衛生上必要な施設として利用されるものとして、物価統制令の規定に基づき入浴料金が定められている。

そして、旧来の「浴場」は、その「一般公衆浴場」にあたり、物価統制令に基づく価格統制の対照となっているところ、スーパー銭湯は「その他の公衆浴場」にあたり、その価格統制の対象外となっており、本件スーパー銭湯は告示による統制額以上の入浴料金を課している。

また、本件スーパー銭湯には、飲食コーナー及び厨房があり、通常、入浴を本来的な目的とする施設においてそのような設備を必要とすることはない。

2,以上からすれば、本件スーパー銭湯は本来的に入浴を目的とした施設ということはできず、したがって、旧来の「銭湯」と本件スーパー銭湯とを同一のものと考えて行った本件確認は違法である。

以上