6枚ちょうどぐらい

 

1 設問1

1,総論

1Aの付添人に選任された弁護士としてはまず、①監視対象者とされた者の継続監視するものとする性犯罪者継続監視法(以下、単に「法」という)3条、10条、14条、21条、22条は監視対象とされた者の位置情報を取得されない権利(憲法(以下、法令名省略)13条)を侵害するものとして違憲であるとして申立が棄却されるべきと主張する。

2)また、②監視対象者とされた者は一般的危険区域として指定された特定の区域に立ち入りについて警告をすることができるとし、さらに禁止命令を発令することができ、これに対して罰則を科すことができるとしている3条、23条、24条、313号及び①について監視対象者の移動の自由(221項)を侵害するものとして違憲であるとして申立は棄却されるべきと主張する。

2,①13条違反について

1)まず、法3条、10条、14条、21条、22条が13条に反するとして違憲を主張する。

2)ここで、位置情報は人がどこに存在し、どこに移動するのかを指し示すものであってこれを他人に知られることになればそれは位置情報を知る他人が常にその者を監視していることを意味するのであって、そのような情報は通常、一般人において他人に最も知られたくない情報と言うことができる。また、その位置情報の取得者が捜査機関となればなおさらである。

とすれば、そのような情報を取得されない権利は人格的生存に不可欠なものと言うことができ、13条により保障されると解する。

3)そして、上記のように通常、一般人において最も知られたくない情報としてこれを取得されない自由は重要性が高く、監視対象とされた者は警察において位置情報を継続的に取得されその現在地を把握されることになり、常時その行動を監視されることになるから、制約の程度は重大である。

以上からすれば、その合憲性は厳格に判断されなければならず、具体的には当該法令の目的が必要不可欠なものであり、手段において当該目的を達成するために必要不可欠なものといえなければならない。

4)これを本件についてみるに、本件法の目的は性犯罪の再発の防止を図り、地域社会の安全を確保することであり、これが必要不可欠な目的ではないと言うことはできないだろう。

しかし、継続監視の対象とされた者は最大20年間の期間に渡り、刑期満了、仮釈放等により釈放され日から捜査機関によりその位置を常時監視されることになる。

この継続監視は、監視対象者の体内に埋設されたGPSから送信される位置情報を警察において継続的に取得し現在地を把握し、警察署において対象者の現在地が表示されるとともに、同人の前科等の参考情報が表示され、同人が性犯罪やその準備行為を行っている疑いがある場合には警察官が現場に急行できる体制が整えられる。そのような長期間、捜査機関に継続的に監視されることはそのプライバシーを著しく制約するものであって、その不利益は相当重大と言うことができる。

また、GPS装置はその埋設においていかなる健康上、生活上の不利益も生じず、手術痕外部から認識できない程度に治癒されるとされるが、身体に与える影響は皆無とはいえないし、小型のブレスレット型GPSの装着によりその目的を達することができるのであるから、そのような埋設は相当性を欠く。

そもそも、その目的は再犯の防止にもあるところ、このような方法では抜本的な解決にはなっておらず関連性すら怪しい。

5)以上からすれば、本件法は13条に反するから違憲であり、申立は棄却されるべきである。

3,②221項違反について

13条、23条、24条、313号及び①について監視対象者の移動の自由(221項)を侵害するものとして違憲であると主張する。

2221項は居住、移転の自由を保障するが、その前提として移動の自由も保障する。

3)そして、移動の自由は単にその行動の自由を保障すると言うだけではなく、知的接触を求める機会を保障するという意味において精神的自由としての側面を有すると言うことができ、その保障は最大限の尊重されなければならない。

また、立ち入りの許されない特定の区域として法3条により一般的危険区域が指定されるとされるが、その指定範囲は抽象的なものであり、どこに立ち入ることができ、どこに立ち入ることができないのかが判然とせず、移動に対して萎縮的効果を生じ、事実上一定の区域において監禁されているような状態となる。さらに、継続監視による常時の位置情報の監視も相まって、その萎縮効果は著しいものとなり、その制約態様は重大である。

以上からすれば、その合憲性は厳格に判断されねばならず、具体的には当該法の目的が必要不可欠であり、手段において目的達成のため必要最小限どのものでなければならない。

4)これを本件についてみるに、本件法の目的は上記と同様であり、必要不可欠な者と言い得よう。

しかし、監視対象者とされ者は、監視対象者が性犯罪を行う危険性があると認めるときは、特定の区域に一定期間立ち入ってはならない旨の警告を行うことができ、警告を受けたにもかかわらず、監視対象者が特定区域に立ち入り、当該区域内において性犯罪を行う危険性が高いと認められるときは、当該区域に立ち入ってはならない旨の禁止命令の措置を執ることができるとされ、禁止命令違反に対する罰則も規定されている。

これにより、監視対象とされた者はその特定の区域には一切立ち入ることができないことになり、また前述のようにその範囲の抽象性も相まってその範囲は広大なものとなることから、監視対象者に対して著しい不利益を及ぼすものであるし、罰則が科されることも加味すれば目的を達成する手段として必要性が認められるほどのものではない。

加えて、前述の通り継続監視によりその位置情報を取得されその行動に対して監視されているという意識から萎縮的効果が生じ、相まってより不利益が生じる。

また、その抽象性から濫用の危険性も認められ、より明確な範囲を特定できるように改善すべきである。

5)以上からすれば、本件法は221項に反し、申立は棄却されるべきである。

2 設問2

1,①13条違反について

1)検察官としては以下のように反論する

すなわち、継続監視により取得される情報は単なる「位置」であって、地図上に表示される点にすぎないからそのような情報の要保護性は低く、それを取得されない自由は保障に値しない。

また、保障されたとしても、そのような性質及び「位置」自体、常時公開されているものである以上、保障の程度は著しく低い。

加えて、取得された情報はこれを積極的に利用しようとするものではなく、むしろ受動的にこれを見守るだけであるからその制約の程度も高くない。

したがって、その合憲性は緩やかに判断されるべきである

2)以上を前提に私の見解を述べる

ア、ここで、位置情報を取得されない自由なる権利は憲法上明文で保障されていな いが、13条がその保障の根拠になると解する。

ただ、人権のインフレ化等への配慮からすれば、13条により新たに保障される権利は人格的生存に不可欠なものに限られると言うべきである。

そして、取得される情報自体、単純に見れば経度と緯度で示された地図上の点であって、単純な情報に過ぎず、人格的生存に不可欠なものとはいえないとも思える。

しかし、およそそのような情報が他人に取得されるがごときは一般人において想定しないものであり、平穏な生活を送る上でそのような情報が取得されないことは人格的生存に不可欠なものと言いうる。

したがって、位置情報を取得されない自由は13条により保障される。

イ、そして、上記の通り人格的生存に不可欠な重要な権利が問題となっていること、また、そのような情報が常時取得され常に監視されていることからすれば、その制約態様は重大であり、その合憲性は厳格に判断されねばならないのが原則である。

しかしながら、その位置情報は捜査機関以外に公開されることが予定されているものではないし、その取得の必要性が存在する。

したがって、その合憲性は目的が重要であり、手段においてより制限的でない他の選びうる手段があるかどうかを持って決すべきである。

ウ、これを本件についてみるに、目的は性犯罪の再発の防止及び地域社会の安全の確保にあり重要である。

また、確かに長期間に渡り捜査機関という一番知られたくない相手に常時、位置情報が取得され監視されるがごときは、対象者に対して著しい不利益を与えるものである。

しかし、一定の類型の性犯罪者は、心理的、生理的、病理的要因等により同種の性犯罪を繰り返すおそれが大きく、処罰による特別予防効果に期待することは現実的ではないのであり、このような性犯罪者の再犯を防止するためには、出所後の行動を監視する必要があるとされ、地域社会の安全の確保という特に重要な目的を達成するためにはその実効性確保の観点からやむを得ない。

その方法としても、埋設はいかなる健康上・生活上の不利益も生じず、取り外す際も同様であることが医学的見地から得られているというのであり、その不利益の程度は限定的である。

小型のブレスレット型GPSする案もあったが、社会的差別を引き起こし兼ねないという配慮から採用されなかったのであり、犯罪者に対する人権の配慮からなされたものであって、不合理とはいえない。

3)以上からすれば、本件法は13条に反せず、合憲である。

2,②221項違反について

1)検察官としては以下のように反論する。

すなわち、移動の自由が制限されているのは一般的危険区域として指定された限定された区域に過ぎず、その制約の程度が高いわけではないし、抽象性を付添人は主張するがそれは事実上のものにとどまる。

また、移動の自由は単に行動の自由に止まる。

そうであるとすれば、その制約の程度は高くなく、合憲性は緩やかに判断されるべきである。

2)以上を前提に私の見解を述べる。

ア、確かに、移動が制限されているのは一般的危険区域として指定された範囲に限られ、その範囲は形式的にはその移動を大きく制限するものではない。

しかし、その指定の方法如何によりその抽象性も相まって規制が広範に及び行動に対して萎縮的効果が生じることも十分想定される。

また、移動の自由が精神的側面を有することも否定できず、その保障は十分尊重されなければならない。

ただ、その実効性維持、規制方法の困難性の観点からすればある程度その範囲を包括的にすることもやむを得ない。

したがって、その合憲性は、目的が重要であり、手段において実質的関連性を求めるべきである。

イ、これを本件についてみるに、目的は同様であり重要である。

ウ、また、特定の区域を指定しその立ち入りを禁止することも実効性確保の観点からやむを得ない。

3)以上からすれば、本件法は221項に反せず、合憲である。

以上