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倒産法【第1問】

 

1 設問1

1,小問(1

1B社はA社に対して平成271210日、機械αを代金1000万円で購入しており、同日、その引き渡しをしているが、代金の支払期日は平成283月末日とされ、未だ代金1000万円の支払を受けていない。

このような代金債権は「破産手続開始前の原因」に基づいて生じた財産上の請求権であるから「破産債権」であり(破産法(以下、法令名省略)25項)、破産手続外での権利行使が禁止されるのが原則である(1001項)。

2)もっとも、本件においては上記の通り破産者であるA社との間で売買契約が締結されており、B社は当該売買契約の目的物について動産売買先取特権を有する(民法3115号、321条)。

破産法上、動産売買先取特権は特別の先取特権として別除権として扱われ(29項)、B社は別除権者(210項)として、破産手続によらずその優先弁済を受けることができる(651項)。

とすれば、B社は別除権者として代金1000万円について破産手続外で優先弁済を受けることができるのが原則である。

3)しかし、本件においてはすでに動産売買先取特権の目的物たる機械αD社に対して売却されている。この場合においても動産売買先取特権に基づき別除権者として弁済を受けうるのか。先取特権には追及効がないことから問題となる。

思うに、動産売買先取特権者はいわばその目的物を担保として後日の債権の回収を期待する者である。そして、当該目的物が債務者の支配領域内にある限りこれを優先的に回収することを期待するから、これを保護する必要がある。

したがって、同再売買先取特権の目的物がその支配領域内にある限り、いまだ動産売買先取特権は失わず、これを別除権として行使することができると解する。

4)以上より、本件売買契約の存在を知らないB社は動産売買先取特権者として別除権を行使できる。

5)そして、B社は機械αを回収しそこから優先弁済を受けることにより、代金1000万円の回収をすることができる。

2,小問(2

1)本件においてA社はD社との間で平成28315日、本件売買契約を締結している。もっとも、機械αの引き渡し及び代金の支払期日は、D社の買取資金の調達の都合により、いずれも1ヶ月後の同年415日とされ、所有権の移転時期も同日とされていたことから、破産手続開始時において、本件売買契約に基づくA社及びD社の各債務は、双方とも履行されていない。

2)売買契約は代金の支払いと目的物の引き渡しが対価関係に立つ双務契約であり、本件においては上記のようにいずれの債務も履行されていないことから双方無理甲双務契約に当たる(531項)。

とすれば、機械αの代金1500万円をD社から回収し、破産財団を増殖したいと考えているXとしては、その履行を選択してD社に対して債務の履行を請求することができる。

3)このように、破産管財人に対して双方未履行契約について履行するか否かの選択権が与えられたのは、双務契約の対価的牽連性を尊重しつつ、破産管財人に破産手続の目的達成の観点から合目的的な処理に委ねる趣旨である。

4)そのようなことから、履行を選択された相手方は自己の債務を履行しつつ、その債権の回収についてその請求権を財団債権として行使できるとしている(14817号)。これにより、双務契約の尊重を図っているわけである。

5)以上より、XD社に対してその履行を請求し、代金の回収を図ることになる。

3,小問(3

1)前述の通り、B社はA社に対して機械αの動産売買先取特権を有しているところ、上記の通り、これを別除権として破産財団からの優先弁済を受けたいところである。

しかし、本件においてはすでにD社に対して機械αを代金1500万円で売却している。動産売買先取特権には追及効が認められないから、動産売買先取特権は消滅し、別除権として優先弁済を受けることができないのが原則である。

そこで、B社としてはXD社から機械αの代金として回収した1500万円について物上代位権を行使し、その優先弁済を図ることが考えられる(民法3041項)。

2)これに対してXとしては、A社について破産手続開始決定がなされ、これは「払渡し又は引渡し」に当たることから、もはや物上代位権を行使し得ないと反論する。

3)以上を前提に物上代位権行使の可否を検討するに、「払渡し又は引渡し」の前に差押が要求されている趣旨は、債権の特定性維持と二重弁済からの第三債務者保護にある。

とすれば、単に一般債権者の差押が先行したのみでは未だいずれの趣旨も害される状態にはないから、「払渡し又は引渡し」に当たらず、先取特権者は物上代位権を行使できる。

そして、破産手続開始決定は破産財団に対する包括的差押の実質を有し、これは一般債権者による差押と異なるところはないから、破産手続開始決定は「払渡し又は引渡し」に当たらない。

4)以上より、B社は代金1500万円を差し押さえてこれを優先的に回収することができる。

2 設問2

1,まず、C社は平成27925日、A社に対し、弁済期を平成289月末日として、2500万円を貸し付けており、その本件貸付債権は「破産手続開始決定前の原因」に基づく財産上の請求権であるから「破産債権」にあたる(25項)。したがって、C社は「破産債権者」である(671項)。

また、C社はA社との間で本件譲渡担保契約を締結しているところ、当該譲渡担保契約はいわゆる処分清算型とされ、剰余金が生じたときにはこれを債務者に返還することになるところ、このような剰余金返還債務は剰余金の発生を停止条件とする停止条件債務であり、C社はこれを負担している。

とすれば、672項により相殺が許されることが原則である。

2,これに対してXとしては、本件においては破産手続開始決定後、剰余金が生じ債務を負うこととなっている。これは破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担した場合として相殺が禁止されると反論する。(7111号)。

3,思うに、672項が条件付きの債務を有する場合においても原則として相殺することができるとしているのは、相殺に対する合理的期待を保護する趣旨である。そして、当該条件付き債務との相殺に対する合理的期待を有する限り、破産手続開始決定後に条件が成就したとしてもその期待を保護すべきことに変わりはない。

したがって、合理的期待を有する限り、破産手続開始決定後に条件が成就した場合であっても相殺することができると解する。

4,これを本件についてみるに、前述の通り本件譲渡担保契約は処分清算型とされ、剰余金が生じる限りこれを返還する債務を負担し、譲渡担保契約を締結する債権者としてはこれが生じた場合には自己が有する債権との相殺による決済を期待するものと思われる。

しかし、本件においてC社は一旦商品として出荷された機械の価値は中古市場においては半減することが通常であるため、その売却価格は、通常販売価格である3000万円の半額程度とされてもやむを得ないと考えており、剰余金が生じることを予定していなかった。

ところが、実際には8割に相当する2400万円となり、期待していなかった剰余金400万円が生じたものである。

そうであるとすれば、譲渡担保契約締結時においてはC社は相殺に対する期待を有していたと言うことはできず、たまたま開始決定後に債務が生じたに過ぎないのであるから、合理的期待を有するとすることはできない。

5,以上より、7111号に当たり、相殺は禁止され、C社の相殺は認められないことになる。

 

【第2問】

1 設問1

1,再生計画②について

1)再生計画②においては10万円までの部分は免除を受けず、10万円を超える部分は認可決定確定時にその80%の免除を受けるものとしている。

再生計画による権利変更は再生債権者の間では平等でなければならないとされているところ(155条本文)、10万円までの部分と10万円を超える部分とでその免除率において不平等であり、法律の規定に違反するのではないか(17421号)。

2)確かに、上記のように免除率においてその不平等が生じている。もっとも、これらの間に差をもうけても「衡平」を害しない場合はこの限りではないとされる(1551項ただし書き)・

ここで、「衡平」とは債権の発生原因や内容などの諸事情を考慮して、差をもうけることに合理的な理由が損することを言う。

3)これを本件について見るに、再生手続の目的である事業の再建を達成するにはある程度、高額な債権について負担を軽くすることには相当の理由がある。

確かに、10万円までの部分は全く免除を受けず、10万円を超える部分については80パーセントの免除を受けるとしてその免除率の差は大きいが、再生手続の目的達成の観点からはやむを得ない。

4)以上より、上記のような差をもうけることには合理的理由があることから、債権者平等に反せず、法律違反はない。

2,再生計画③について

1)再生計画③についても、同様に債権者平等に形式的には反している。すなわち、再生計画②において10万円までの部分は免除を受けず、10万円を超える部分は認可決定確定時にその80パーセントの免除を受けるとしている一方、再生計画③においてはその全額の免除を受けるとしている。このような免除率の差は形式的には不平等である。

2)もっとも、本件においてAはこれに同意している。ここで、1551項ただし書きは不利益を受ける再生債権者の同意がある場合には例外を認めるとしている。

これは、再生手続の目的達成のため実質的平等を企図するという観点から再生債権者が同意している場合にまで厳格に形式的平等を貫く必要はないという考慮による。

したがって、同意がある場合には債権者平等に反することにはならない。

3)以上より、再生計画③も問題はない。

3,再生計画④について

1)再生計画④についても、同様に債権者平等に形式的に反している。すなわち、再生計画②における免除率は上記の通りであるが、再生計画④においては10万円を超える部分については認可決定確定時にその85パーセントの免除を受けるとしている。

そこで、これが「衡平」を害しない場合に当たるかが問題となる。

2)これを本件についてみるに、確かに5%余分に免除されているが、Y社はX社の発行済み株式の70%を有するいわゆる支配株主であり、同社に運転資金も融通していたというのである。すなわち、両者には強い経済的一体性が認められ、破産による不利益を負担させたとしてもあながち不合理と言うことはできない。

 

しかも、その免除率の差は5%にすぎず、Y社に対して過度に不利益を及ぼすものではない。(3)以上からすれば、合理的理由が認められ、その権利変更の内容は債権者平等に反せず、再生計画④は問題がない。

4,以上より、裁判所は、本件再生計画案を決議に付する旨の決定をすることができる。

2 設問2

1,小問(1)について

1X社及びKが果たすべき役割

再生計画認可後の再生手続においてまず、再生債務者は速やかに、再生計画を遂行しなければならないとされる(1861項)。

そして、監督委員は再生債務者の再生計画の遂行を監督する(同2項)。

したがって、X社は再生計画を速やかに遂行し、Kはこれを監督することになる。

2X社としてとりうる方策

ア、X社は、平成274月末日までの本件再生計画に基づく弁済はなんとか行ったものの、平成281月末日現在、同年4月末日の弁済の見込みは立たず、とりわけ、最も大口の債権を有するG銀行に対する弁済資金の確保は困難であることが判明している。

そこで、X社としては「やむを得ない事由」があるとして再生計画の変更を求めることが考えられる。

イ、これを本件についてみるに、当初、X社は、Z社に代わる新たな得意先を獲得する見込みの下で事業計画を作成したにもかかわらず、X社は、本件再生計画の認可決定が確定した後も、事業計画で見込んでいたZ社に代わる新たな得意先の獲得ができなかったから、事業計画通りには業績をあげることができず、弁済が困難となったものである。

Z社に代わる新たな得意先が獲得できていたのであれば、この事業計画は実現可能であり、計画弁済の履行が可能であると見込まれていたのであり、弁済も可能であったはずであったのであり、「やむを得ない事由」があると言っていい。

3)以上より、X社としては再生計画の変更を申立て、弁済期を変更するなどして計画を遂行していくべきである。

2,小問(2)について

1G銀行としては再生債務者が再生計画の「履行を怠った」として、再生計画の取消しを申し立てることが考えられる(18912号)。

ア、まず、G銀行は「再生債権者」であり、申立権者である。

イ、また、G銀行は、平成274月末日までに合計1698000円の弁済を受けたものの、結局、平成284月末日に支払われるべき1598000円の弁済を受けられなかったことから、「履行を怠っ」ている。

ウ、そして、再生計画認可の決定が確定したときから2年を経過していない(同2項)。

エ、G銀行は裁判所が評価した額の10分の1以上に当たる権利を有する再生債権者であって、その一部について履行を受けていない(同3項)。

                                      以上