(最終更新:2023/8/31)

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 2023年8月31日現在、ニコニコ動画にて再生できる「ユーザーによる最古の初音ミクオリジナル曲動画」は目玉Pとドラ藤本による『迷惑なあなた』です。が、初音ミク用に書かれた曲ではありません。(後述)それでも「初音ミク」に歌ってもらった「オリジナル曲」という意味ではやっぱり「最古の動画」であるため、「ユーザーによる最古の初音ミクオリジナル曲動画」という肩書は嘘ではない……はず。お誕生日企画第5弾は「最古パス」なんて呼ばれ方もする、聴けばきっとあなたも頭を悩ませる『迷惑なあなた』について考えてみます。

 

 

 "動画投稿は2007年9月9日。作詞はドラ藤本、作曲は目玉P。"

 この楽曲はミクのために作られた曲ではない。2007年6月18日に目玉Pの自作ゲーム動画が投稿され、そのBGMには同氏の参加する同人が製作したCD中の楽曲が使用された。動画内で使用された3曲のうち、1曲目が『迷惑なあなた』で、ボーカルは作詞のドラ藤本が務めた。同年9月9日に、先程の経緯を辿った『迷惑なあなた』を初音ミクが歌唱したものが投稿され、ユーザーによる最古の初音ミクオリジナル曲動画として現存している。YouTubeへは同年11月に投稿された。短調の曲。

 

 

ニコニコ動画へのリンク 

 

 

 
 
 
 楽曲形式は次の通り
intro-A-間奏1-A-B-C-D-間奏2-A-B-C-D-間奏3-D-outro
 A-B-C-Dを1番として、歌唱部分はA-1番-2番-Dとわりかしスタンダードな形式。Cは他の部分に比べて短いが特性を考慮してCメロとした。
 
 
 イントロは短いドラムソロから始まり、その後は電子音のベースが登場する。ベースは常にオクターブで上下するため不思議なトランス感がある。クラップを合図にAメロが始まる。ベースしかないためコードは特にない。ベースの動きは自然的短音階でi-v-vi-viiという順次進行の上行形であり、全音での上行が続くため音楽の浮遊感を増している。
 
 
 Aメロはサイケデリックなメロディが特徴的。この異様な雰囲気を生み出す要因として導音の不使用と、第6音の欠如が挙げられる。この2つから考えられることはこのメロディが民謡音階で作られていることである。ただし、通常の民謡音階と異なり、第2音が旋律に使われている。そのため"民族的"になりすぎない、なめらかな旋律を挿入することができる。また、フレーズはほぼ全てが、アウフタクトから始まる(八分音符×2)+四分音符のリズム音型を基本に作られていて、一定のリズム感を生みトランス感を増している。伴奏はイントロから続くベースに加え、やや高音のシンセが加わる。どちらも同じ音をオクターブ離れて奏でており、i-v-i-vの跳躍を繰り返した後に下行する音型を取るためダウン感がある。
 
 
 間奏1はイントロと同じような感じである。
 
 
 Bメロは四分音符のアウフタクトから始まる4フレーズでできていて、はじめ3フレーズに見られる小節頭の長音符が特徴的である。このアウフタクト+長音符の2音で歌詞1まとまりがあるため、言葉の流れとして不自然さを感じることはない。また、この3フレーズはすべて旋律的に解決するので1フレーズごとに"読点"が付くような感じがする。最後の1フレーズは四分音符を中心としたメロディで気分が落ち込むように下行してから込み上げるように上行する。伴奏は高音のシンセがピロピロになり、アルペジオを奏でるため音楽に派手さが出る。コード進行はドミナント→トニックを繰り返すため緊張と解決を繰り返し、先述のフレーズごとの読点感を増している。
 
 
 Cメロは同じような2フレーズで出来ている。小節頭から始まるフレーズは、短い音価でやや早口で歌ったあと長めの音価で伸ばされる。ここは歌詞の「バスタード」の促音が長めの音価に対応している。言葉をビームっぽく放つようである。伴奏は高音のシンセが同音の連打ののち、メロディのビーム部分でBメロのようにアルペジオをピロピロする。コード進行はトニック→ドミナントを繰り返していて、「ビーム」は次の音に向けて推進力を持つ。
 
 
 Dメロは2種類のフレーズから出来ている。1つ目はv-vii-iv-vの音を四分音符で奏で、直後に音が一緒でそれを小さくしたような旋律が続く。これらは属音が中心となるため、解決感がなく地に足つかず浮いているような音楽となる。2つ目はこの楽曲中では珍しい第6音から始まるフレーズで、順次進行で下行していく。(実はBメロでも一度だけ第6音は使われる。)順次進行の下行なので、気持ちが落ち着いていくような、ダウンするような感じがある。伴奏はピアノみたいな音がクロマチックに縦横無尽に動き回る。
 
 
 間奏2はベースとCメロのはじめのような連打のシンセとドラムスによる音楽。音の高さはi-v-iii-ii-viiと推移する。
 
 
 間奏3はやや長め。間奏2同様の音楽の後に間奏1同様の音楽がつながる。
 
 
 
 アウトロは間奏2同様の音楽。
 
 
 
 
 ここからは歌詞に触れて考えていく。一部分だけ引用する。
 
 いろんな曲を分析をしていて思うのは、最近の曲のほうが音楽も歌詞も比較的難しいということである。だが、この楽曲の歌詞は今回のお誕生日企画のラインナップの中でも正直よくわからない部類である。最古のミク曲という称号に似合わずアングラでサイケな曲である。
 
 
"私ですか"、"僕はいいよ"、"俺は駄目だ"
 Aメロで繰り返されるこれらの歌詞は、与えられそうな「面倒事」を回避するために放たれる。「私必要ですか?」という必要性の確認。「僕はすべきことがある」という手が離せないことの説得。「俺を怒らせないでくれ」という意思の主張。何がなんでも面倒事から逃れたい気持ちが伝わってくる。その奥では「迷惑だなぁ……」と思っている。
 
 
"バスタード"
 英語でBastard。その意味はズバリ「嫌なヤツ」。なんかかっこいい表現で「迫る旋律のバスタード」「唸る閃光のバスタード」と言っているが、結局は嫌なヤツに変わりない。ソイツが来た!なんて迷惑なんだ!
 
 
 
"魅惑の迷惑感"
 散々嫌なヤツからの面倒事を拒絶してきたのに、結局は受け入れなくてはいけないことは大人ならよくあることだろう。受け入れた自分をムリヤリ納得させるように「これは素敵なことなんだ」と念じている。それが魅惑の迷惑感というワードに込められている。まぁ本音では面倒事に感謝もクソもあるか!と思わないでもない。どうでもいいが、惑と感が似ている。
 
 
 
 なんのこっちゃな『迷惑なあなた』ですが、初音ミクが歌ったオリジナル曲としては最初期のものであることは紛れもない事実です。歴史に残る迷曲でしょう。ずっと聴いてるとトランス状態になりそうです。